
―雨降る日―
したしたしたと雨が降り注ぐ梅雨がやってきた。
じめじめするし、気分も自然と暗くなるというのに。
私の隣りに歩く男は鼻歌まじりに楽しげに。
「あっかいくつ〜は〜いてた〜おーんなのこー。」
梅雨に似会う藍色の傘をもって上機嫌だ。
逆に私の眉間には皺が一つまた増える。
「い〜じんさんにつーれられーていーっちゃー・・・。」
「うっさい。」
不機嫌気に私は歌の途中で制止をかけた。
ぴたり。
音が止む。歌声が止む。
音が雨に全て奪われて静かになる。
反射することなく音は地面に落ちる。
そうして
静寂が訪れた。
梅雨に似合うドパードの瞳が私に向けられた。
淡い藍色。傘の色。
凄く綺麗。
「なんやねん。折角人が気持ちよく歌ってんのに。」
「なんか暗いよ、その歌。」
「俺の美声が生で聞けるなんて幸せもんやで?」
「だけど暗くなんのよ。ただでさえじめじめしてるっつーのに。」
雨がしたしたと傘にふりそそぐ。
侑士の肩までかかる黒髪を少し濡らした。
侑士は私の冷たい言葉も気にすることなくまだ上機嫌で。
・・・・・・・・あ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・。」
侑士は視線を前にして呟く。
「狂い咲きや。」
私は息を飲む。
水無月というのにまだ桜とは。
梅雨の雨にも負けずに咲いていた。
それこそ狂った桜のように。
「・・・・・・・・・・・・・気持ち悪い。」
本音の言葉を吐いたら侑士は苦笑したように笑う。
けれども表情はとても嬉しそう。
「なんでや。感動せぇへんの?」
「だって雨のなかで桜?気持ち悪いよ。」
言ったら、目をゆっくりと細める。
桜に寄る。
「侑士、止めなよ。」
「なんで?」
「なんでって・・・。」
だってなんだか薄気味悪い。
雨だからか、あたりも暗いし気味悪い。
侑士は木に降れると懐かしげに微笑した。
こんな雨の日にゃスコップ持って、長靴はいて。
そうして土をざくざく掘ってしまおう。
「なにその唄・・・。」
気持ち悪さを増長させる。
侑士は桜を見上げて私に応えた。
「詩人やろ?」
「・・・・・・・・・・・・(侑士の作曲?)・・・はぁ」
「溜息ついて失礼やわ。」
「だってなんでそんなぽえまーなのよ、しかも超趣味悪い。」
「なんでー、えぇ曲やん。」
「どこが。」
桜の木の下にゃ沢山の
だからあんなに綺麗な花が。
「・・・・・・・・・・・・・・・・侑士?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なあ。」
侑士はゆっくりと振り向く。
藍色の瞳が私を見て嗤った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんなら、桜の花弁がどうして赤いかしっとる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らないわ。」
「そいつは残念やな。」
クッと侑士は喉を鳴らして嗤う。
本当は知っていたけれど、私はそう答えるしかなかった。
だってそうじゃない?
私はまだ侑士を失いたくないし。
侑士の過去なんざ今更どうでも良いし。
だけど
そこまで愛された相手に嫉妬してしまう自分は醜いと。
思いを馳せられる桜に嫉妬してしまう自分は愚かだと。
私もそうとうイカレテルと思ってしまったから知らない振りをしてあげた。
――――――――――――――
桜の木の下には死体が埋まっているのです。
ちょっとホラー(ちょっとじゃねぇ)で恐い忍足夢。
別におっしー壊れてないよ?うん。
不思議チックでこれにて終了。
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