― 茶色の犬と朝御飯 ―
時は朝。
ピチチと小鳥が囁きあって朝の挨拶をする。
お天道様はゆっくりと顔を出して晴天を促すように空に呼びかける。
部屋の中には台所に立つ黒髪の男。
香ばしい香りで部屋が一杯になる。
焼かれたクロワッサンにミルク。
本来なら和食の彼だが今日は相手に合わせて洋食だ。
朝は洋だとだだをこねる恋人(・・・と、言っても良いのだろうか)の可愛さに負けてしぶしぶ頷いた。
そんな彼の背後に現れたのはくるくるヘアの茶色犬。
ばふっ。
「うわっ!?」
そんな音を立てた手塚の腰に手をまわした。
突然の不意打ちにどぎまぎしながら振り向く。
「おはよー、手塚さん。」
柔らかな顔で微笑むのは芥川ジロー。
チョコレート色の瞳はまだ眠そうだ。
「あっ・・・芥川、汗。」
「いーにおい。何?」
くんくんと、本当に犬のごとく手塚の前にあるものをひょいと身体を動かして見た。
けれどそこには何もない。
「プリンを・・・作ったんだが。」
「プリン?」
キラッとビー玉の瞳が輝きを見せる。
きょろきょろと手はまだ手塚の腰に当てたまままわりを見渡した。
「ここにはないぞ?」
「手塚さんが作ったの?」
「・・・・・・・・ああ。」
「やた。食べたい。どこにあるの?」
「冷蔵庫だ。」
その答えを聞いて、ジローは視線を冷蔵庫へと向ける。
手塚はその視線の意思に気がついて先に待ったをかけた。
「先に顔を洗ってきなさい。」
「えー・・・(不満)・・・はーい(諦め)」
なかなかしつけている男。手塚国光15歳。
顔を洗ってきたジローは席につくと礼儀正しく「いただきます」と手を合わせた(これも手塚のしつけ)
「おいしい。」
「そうか、よかった。」
「ね、ね、プリンは?」
「(もう!?)全部食べろ。」
「えー。」
言いつつも、クロワッサンをもしゃもしゃジローは食べる。
すっかり食べ終わったジローは茶の瞳を手塚に向ける。
「手塚さん。」
「分かってる。」
手塚はなんでもお見通しのように立ちあがると冷蔵庫から冷やして出来あがったばかりのプリンをジローの前に置いた。
「うまく作れているか分からないぞ。・・・その、初めて作ったから。」
「うん、いーよ。手塚さんの手作りってところがポイントだもん。」
嬉しそうにふわりとジローは笑う。
「(・・・・・・可愛い)」
甘い。甘すぎるぞ、手塚。
ぱくりと一口。
しばしの沈黙。
「(・・・・やっぱりちょっとまずかったか?汗)」
「ちょー・・・美味しい(にっこり)」
「(可愛いっっ!)」
目の前のテディベアプードルに思わずときめいてしまう。
そのままジローははぐはぐと夢中になってプリンを口に運ぶ。
「ああもう、急いで食べるからプリンがついてる。」
すっかりお母さんのような手塚は腕を伸ばすとジローの口元についてるプリンを指で拭う。
自分の口元にもっていこうと思いきや、手首はジローに掴まれて指をぺろりと舌でなぞられた。
その突発的な行動に一瞬固まる。
伏せみがちな茶色の瞳はゆっくりと手塚に向けられるとジローはにっこりと笑った。
「うん、おいしいvv」
「(ヤバイ・・・何故かどきどきしてしまった・・・////)」
犬にときめいてどうするよ。と、自問自答(違うぞ?)
ジローと手塚には特に接点はない。
試合で時々会って挨拶をする程度。
だが、突然告白された。
「好きです。付き合って下さい。」
やんわりと柔らかな空気を持って言われた時には正直呆気にとられて、そうして今の状態にある。
けれど、なにか違わないか?
この頃は思う。
なんて言うか・・・こう・・・
「(親子?・・・っていうか飼い主と犬?)」
駄目だろう、そんなんじゃ。
キスはした。手はつないだ。
別にそれ以上を求めるわけではないけれど、違う。どこか、違う。
手塚は懐かれているという表現がただしい気がしてしまう。
けれど
手塚自身はジローをもう恋人同士だと認めってしまっているから困ってしまうのだ。
もし、ジローの感情が自分と違うものだったなら。
そう思うと不安になる。
「手塚さん?」
名前を呼ばれて我に返った。
どうやら箸が止まっていたらしい。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
首を横に振った手塚にうにゅー?と、ジローは首を傾げる。
「・・・芥川。」
「はい。」
「(なんで敬語だ)お前は俺のどこが好きなんだ?」
恐る恐る聞いた質問にジローはきょとんとした。
手塚の頬は赤い。
「どこ・・・・・・・・って・・・わかんない。」
がくぅ。と、凄く力が抜けた。
そして確信した。やっぱりジローの感情は自分とは違う。
「(・・・・なんか落ちこんできた)」
ジローのチョコレート色の瞳が少し真剣になる。
眠気が覚めたように。
「手塚さん。」
はっきりと名を呼ばれて、顔をあげる。
ぶつかったのはビー玉のように透けた瞳。
「俺は手塚さんの事好きだよ?」
「そんな事は分かってる。」
にこぉ。と、ジローは笑った。
「プリンよりも手塚さんの方が好きだよ?」
「(微妙すぎっ!!)それでそのプリンはお前の中の何番に当たるんだ?」
なんだかもうげっそりとして手塚はへこみそうだ。
「一番(にっこり)」
鼓膜に強く残る一言。
視線を上げる。
「だから手塚さんは一番の一番ね。」
手塚は口を開けない。
ジローの言ってる事はやはり意味不明だったけれど、自分の求めている答えをくれた気がして少し安心する自分がいた。
「・・・・・・・・・・・・そうか。」
カァ、と赤く染まる顔を背ける手塚を見てジローは笑う。
「(手塚さん可愛いなー)手塚さんって料理好きなの?」
「?別にそういうわけじゃないが。」
以前お腹がすいたというジローにチャーハンを作った時予想以上に喜んでくれた事にちょっぴり感動してそれが趣味になった(彼も相当単純だ)
「凄いよー。手塚さんの料理美味しいもん。」
「・・・・そうか。」
「手塚さん大好きvv」
「・・・・・・・・・・・・・・・そうか(てか料理が上手いから好きなのか?)」
「てなわけで、俺と結婚して下さい。」
「はぁ!?(なにがどうなった!!)」
「え、駄目?」
「駄目というか無理!!」
突然話を飛ばしたジローに戸惑うばかり。
本当に頭が痛い。
「えー、それじゃーぁ、俺の為に毎朝お味噌汁を作って下さい。」
「言い方を変えても駄目だし!(ていうか全然分かってない!)」
「なんでー?ケチー。」
「いや、法律的に無理だろう!!」
「・・・・・男同士じゃ駄目なの?」
ビー玉の瞳が揺れた。
チョコレート色が濃くなる。
可愛く呟くジローを見て、手塚は思わず、う゛っ・・・と言葉を詰まらした。
「手塚さんは・・・嫌なの?」
「嫌ではないが、汗。」
「じゃぁ良いじゃん。」
にっこりとジローが笑うから、どう説明知っていいのか戸惑う。
「別に一緒に住まなくとも。」
「えー、やだ。いつも一緒にいたいじゃん。」
「でもな、芥川。」
どうしても首を縦に振らない手塚にジローは、むー、とうなる。
そして諦めたような表情を見せた。
それを見て、少し手塚は安心した。
「・・・・ちぇー。色々な事出来たのにー。」
「(何をっっ!!??)」
色々ってなんだ!
と、つっこみをいれざるえない。
「(・・・芥川は読めない。)」
「じゃ、毎日泊まりに来よvv」
「(分かってないし!意味不明だし!!)」
天然で狼なジローを可愛いと思いつつ身の危険を感じる手塚であった。
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意外にもこのペアは合うのです。恋人って言うよりかは飼い主と犬ってかんじですけど、笑。
だけど私は凄い好きですー。
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