口の中に血が滲む。
頬への衝撃がそのまま身体へとつたわって、俺は横へ倒れた。
ぐらりと頭が揺らぐ。
ずきずきと骨が軋んだ。
「随分なめたもんだなぁ?千石。」
いつもより各段下がった冷たい声。
怒りと蔑みが混じったその声は、俺を責め立てる。
「なんとか言えよ。」
ぐいと胸ぐらをつかまれて引き寄せられた。
当然俺に抵抗する力なんかないからそのままだらりと身体が揺れた。
「俺を好きだのなんなのと言ったその口で他の女にも口説いて見せたのか?」
はん、と鼻を鳴らして優美に跡部君は笑う。
だから、俺も弱々しい微笑を返した。
「確かに、女の子は可愛いし弱いし、跡部君みたいに暴力的じゃないし、良かったよ。」
一瞬
瞳が焔のように燃えたかと思うと、また頬に衝撃が走った。
しばらくたって殴られたと知る。
そうしたら今度はドカッと鈍いおとがしたかと思ったら腹が痛かった。
どうやら蹴られたらしい。
嗚呼もう、乱暴だなァ。
文句をいえたぎりではないが、痛みは走る。
瞳が虚ろになった。
今は跡部君の表情を見る力さえない。
だって
君はいつだって振り向いてくれなかったじゃない?
それなのにどうしてこんなにも怒っているの?
「俺もなめられたもんだよなァ?あーん?」
「・・・・・・・・・。」
跡部君は罵倒を俺に浴びせながら暴力を振る。
それは怒りか悲しみか。
自分のプライドを傷つけられた報復か。
刹那、ぱたたと冷たいものが頬にかかったから目を覚ます。
はっとして、顔を上げた。
あァ、なんて俺は馬鹿なんだろう。
良く考えれば分かったはずなのに。
いつもなら見せない激情に身を任せる君は泣いていた。
その姿は
あまりにも美しかった。
ためらいながら、そっと触れようとする。
今は表情も消えたその瞳からはただただ涙が零れ落ちて。
僕はただ君を抱き締めた。
【 ごめんね 】
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