― forever love ―
澄み渡るような青い空が屋上に広がる。
そんな天気が似合わない心境を持ち合わせて、亜久津は体育座りをして身体を縮こませていた。
まるで自分を守るように。
壊れてしまいそうな心を守るように。
ギィ…ペタン。
さびのついた扉が開く音と、足音。
"ソレ"を聞いて亜久津は怯えたように瞳を見開いて膝に顔をうずめた。
そうして、気配を消す。
闇に潜む獣のように。
「ホント可愛いよ、お前は。」
幼さのの残る高い声は、柔らかく、甘い。
人懐こい声音にいは似合わない大人びた言葉。
緩やかにくせのある太陽の色を含んだ髪を風になびかせて、ぺタリぺタリと足を進める。
口元には、三日月を称えるが如く微笑の形に妖しく象られていて。
亜久津はその橙の獣に気付かれていると分かりつつも気配を消す。
どうにもならないと分かってはいても、そうせざるにはいられない。
「逃げられないって分かってるはずなのに、それでも逃げようとするんだから。」
ねぇ?
くすくすと楽しげに漏れる笑い声は、一層亜久津の五感を刺激させた。
この獣は、気配を消そうとしない。
むしろ自分の存在を誇示している。
心の内で強く生きているこの獣は、不断は兎の毛皮をかぶっているのだ。
ソレを亜久津は知っている。
するどい爪と牙を持ち合わせていながら、あえて傷をつけようとせずにゆっくりと甘噛みをして反応を楽しんでいる。
いっそのこと、全てを吐き出してしまいたい。
言葉にならないこの叫びを。
「今ここでお前を犯したって良いんだよ?」
ひたり。
足音が自分のすぐそばの壁の横で止まる。
そうしてゆっくりと現れるシルエット。
その獣の心とは対照的な真白な制服。
けれど見目にはぴったりのその真白な制服。
「そうだろ?亜 久 津。」
ビクリと躯が反射的に震えた。
その反応を見て、千石は楽しげに目を細める。
した、と頬に流れる冷や汗をぬぐわずに、静かに目線をあわせる。
太陽と対照した目が宿る瞳は、恐怖を押し殺したような目で獣を見た。
「………………千石。」
やっと声を出したそれはかぼそくて。
細い声はその男の名をよんだ。
呼ばれた自分の名に応えるように、にっこりと笑う。
先程の冷たい態度とはうって変わった表情は兎の皮のもの。
けれど今は恐怖を増幅させる材料にしかならない。
手をのばして、亜久津の毛先に軽く触れた。
微笑みはまだ消されない。
指先から、手の平へと。
神を遊ぶようになでて、指をすべりこませる。
まるで獣をなだめるような撫で方。
「よく慣れたもんだね、亜久津も。」
心も躯も。
声には出さずとも、そう言ってるように聞こえた。
だから、言ってやる。
「うぬぼれるな。心までやった覚えはねぇ。」
しばしの沈黙。
そうして千石は軽く身体を離すと遊んでいた両手の平を亜久津の頬にすべらして包み込むようにした。
目線を合わせて、嗤う。
目を細めて微笑むその様は、完璧過ぎて恐い程。
「良いね。それだけ飼い慣らし甲斐があるって事だし。」
にっこりと、笑って千石は言った。
そうして、千石は距離を縮める。
亜久津の胸元に手の平を当てて、唇が振れる。
深いものへと変わって柔らかな舌が入りこむと、とさりと地面に倒された。
冷たい温度がじわりと背中に広がって、亜久津は空と、千石を見上げる。
ふ…と唇を離すと亜久津の鼓動が早くなる。
頭では拒否しているのに身体は熱い。
それだけ自分が調教されていると感じて嫌気がさした。
ぺロリ、と千石が自分の唇を舌でなめとる。
なんという妖艶な姿だろうか。
微笑みに象られた千石の背後に青い空が見えて。
自分がこれから何をされるか知っているから。
思いっきりあの青い空を汚しているような気分になった。
「………っく…ぁ……。」
勃起した亜久津の分身を千石は手でこすりながら舌をはわせる。
柔らかで温かい舌の感触は亜久津を甘美の世界へと誘う。
けれど、それにあがらうように千石の肩を押した。
「………何?」
イイくせに。
目はそう言っている。けれど一応聞く千石に亜久津は息を荒くして答えた。
「ヤメロ。」
それを一瞬無表情で受けとめて、そうして、フ…と馬鹿にしたように笑った。
「今更?」
「ここは…マズイ。」
「なんで?」
ぺロリと亜久津のモノを舐めたから、身体がビクンと跳ねた。
反射てきにきつく目を閉じて声を押し殺す。
「人が来る。」
「来ないって。授業中だよ?」
それでもこんなオープンにしないでも良いだろうに。
しかも来ない可能性もゼロではないだろうに。
榛の瞳と灰色の瞳gあ交わる。
千石は見上げ、亜久津を見下ろす。
ああもう、コイツは本当になんにもわかっちゃいねー。
お互いにそんな事を思った事を二人は知らない。
うるんだ亜久津の瞳をじぃと見つめて。
もー、辛いくせに何強がってんだか。
気持ち良いくせに。
とか鬼畜なことを考えて。
そうてひついつい苛めてしまう自分を叱咤した。
「嘘。最後までしないよ。」
目を細めて千石は笑った。
時折見る、けれども兎の皮をかぶった時のような表情。
けれど、その時ほど嘘っぽくなくて。
あまりに優しげに微笑むものだから亜久津は思わず目を見張った。
「せん…。」
「でも亜久津の息子くん大変そうだからこれだけは手伝ってあげる。」
言うや否や、ビンクに染まったナニを口に含んで口内の奥まで導いた。
「…………………っっっ!!」
そのままゆっくりと舌を使って、丹念になめてゆく。
「ぁ……ヤ…!」
うそ、良いくせに。
そんな事を胸中で思いながら、リズムを加えてゆく。
荒くなる息と、潤んだ瞳。
快感を押さえこもうとする表情を上目遣いで見上げると、ゾクリと背筋に寒気が走る。
それだけで今夜の充分なおかず。
むしろ今イけそう。
そんな千石の心の内を亜久津は知らない。
「…………はっ……っ……出…。」
体をのけ反らせて、大きく目を見開いた。
銀の髪の毛が揺れて、一瞬千石の口の中で亜久津の息子が大きく膨れた。
刹那
白い液体が千石の口内に射精された。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ん……く…。」
はぁ。と息を深く吐いてぶるりと亜久津は体を震わせた。
こくんと喉を鳴らして千石は口内に入ってきたものを飲みこむ。
「ばっ…。飲むなっていってんだろ!」
「良いじゃん、別に。」
「良くねーよ!」
「今の亜久津メラ可愛いよ。もう一回する?」
「っっっっ!!」
にっこりと微笑まれて言われたから、もう何も言えない。
こんな行為は無意味な事だと知れている。
触れる指も、肌も。
珍しい獣を飼い慣らす為のものだと。
優しくないその行為に歯軋りをして。
与えられる快感にうんざりしながら。
それでも自分は逃げられない。
否、逃げる事を許されていない。
なのに、勘違いしてしまう時がある。
今日みたいに気まぐれに優しくされると
切なくて、涙が出る。
ソレに驚いて千石が涙を舐めるものだから、ますます涙が出る。
群集の人込みの中で千石を見つけた。
あのオレンジ頭は目立つ。
でもきっとそれだけじゃない。
いつのまか、とっくのとうに心は支配されている。
否、千石で溢れている。
そんな自分の想いなど届きはしないのに。
けれど、勘違いしてしまうのだ。
あの橙色の瞳が揺れて、ゆっくりと振り向いたから。
少し探すように目が動いて、自分を捕らえたから。
刹那、あまりに嬉しそうに優しく微笑む、から。
切なくなって、その声で自分の名を呼んで欲しいと願ってしまうのだ。
【 あくつ 】
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