この世に偶然なんかない

あるのは必然だけ



− 偶然という名の必然 −



氷帝学園中等部の中庭に、光の橋が一筋かかる。
木漏れ日がきらきらと葉の間からこぼれて、その下にあるベンチにはくるくるのやっこい髪を持った少年が一人昼寝をしていた。
とても良い天気で。
静かな寝息がたたれている。


じゃり

そこへもう一人の影がうつった。
くせのある橙色の髪をもつ少年は、ベンチで寝ている少年を見つけると嬉しそうに口元を緩めた。


「みーっけ。」

ふ・・・、と、笑うとベンチにこしかけて笑う。
その座った振動で、眠り姫・・・否、眠り王子が目を覚ました。

「・・・・・・・・・・・・・せんごく?」

「おはよvv」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目じゃん。また不法侵入ー。」

「さっそくそれですか(苦笑)わざわざ会いにきたってのに。」

苦笑して、千石はくしゃりと顔をしかめた。
ジローはむくりと起きあがるとぽりぽりと頭をかく。

「跡部君がね、君を探してこいって。」

「なんで千石に言うの?」

「いやー、不法侵入したのがばれてぱしりにされました。」

「駄目じゃん・・・。」

「えへ。」

眠そうな瞳はまだ覚醒しない。
ふわぁと、大きな欠伸をジローはしつつもその場から立ち去ろうとはしなかった。

「早く行けば?跡部君に怒られるよ。」

「えー、折角千石に会ったんだもん。もう少し・・・。」

それを聞いて、千石は微笑んだ。
少し困ったような表情をしながらも。

「でもね、今日は降水確率60%なんだよ?」

「うそ。だってこんな良い天気じゃん。」

「ラッキー千石の情報は絶対です☆」

「(あーそー)」

人差し指をピッと立てて千石はウインクをした。
ジローはそれを見て、げそりとしながらも頷く。
てゆか、頷くしかない。

木漏れ日をふんだんに含んだような橙色の髪の毛を風に揺らして千石は目を細めた。
自分に吹く優しい風に身を任せるかのように。





けれど、ふと思い出したかのように瞳をあけた。
その瞳も、同じく太陽の色に似た榛色。




「そういえば。」

「んー?」

「俺達の出会いもこんな日だったよね。」

「そうだっけ?」

「うわ、酷。俺達の記念すべき日を!!!」

「(いや、本当は覚えているけどね)」

覚えているけど、あえて知らないふりをした。
悟られたくない。
今は、まだ。

自分がこんなに千石に夢中だってこと。
















































千石が跡部の事を好きなうちは。








































「あの日も凄い良い天気でさー、跡部君見るついでに氷帝偵察しにきたら突然雨降ってきて。」

千石はまるであの日の自分を再現しているかのような瞳で遠くを見つめる。

「そんでもって急いで走ってたらジロー君寝てんだもん。」

「・・・・・・・・・・・・全然気付かなかった。」

「集中豪雨だよ?なのにどうしてあそこで寝てれるのか不思議だったなー。」

あはは、と、千石は笑う。
その笑顔はとても眩しい。

「そんでもってその後起こされた俺は千石の家に行ったんだよね。」

「なぁんだ、ちゃんと覚えてるじゃん。」

瞳をゆっくりと細めると千石は笑みを深めた。

「でも見ず知らずの男を家にいれるだなんて千石も無防備すぎ。」

「だって放ってもおけないでしょ。どうせ練習は中止だし、濡れたままだと風邪ひくし。」

そう、だ。

俺はあの時優しくて人の良い千石の性格を利用した。



そんな事をジローは胸中で思いつつも、表情には出さない。
未だ無表情のまま茶の瞳は千石だけを見据える。


遠いあの日を振り帰る千石を。






「でもね、俺雨は嫌いじゃないよ。」

「なんで?俺は晴れてる方が良いなー。」

「ジロー君の場合は昼寝が出来るからでしょ?」

「うん、晴れの日の方が気持ち良いんだよ。」

「あっはっは、ジロー君らしいね。」

「千石は?」

問うたら、千石は瞳をジローに合わせて、ふ・・・と笑った。




































「だってあの日雨が降らなきゃジロー君と出会わなかったしね。」

「・・・・・・・・。」

「ジロー君の事は有名だから知ってたけど、あの日がなきゃこんなに仲良くなれなかった・・・でしょ?」

「・・・・・・・・・・・・そうだね。」

「あれー?なんか意外にも興味なさそう。」

キヨ、ちょっとショック。
と、女らしくなよってみせる千石を見てジローは眠たげな瞳をいっそう閉じかけた。
それを見て、千石はまた笑う。

「ジロー君にとってだって特別な日だったわけでしょ?」

「別にー。」

「ぎゃ、酷いよ。」

「だって俺もともと千石のこと知ってたし。ずっと好きだったし。」

"好き"
その言葉に反応しつつも、千石は軽くかわす。

「だけどやっぱりあの日を境に仲良くなれたわけだから感謝しないと駄目かな?」


ちらりと千石を見遣ると、穏やかな微笑でジローを見ていた。
だけど、その微笑を見てジローの心境は少々複雑だ。
だから、聞いてみる。











































さァ・・・・

優しい風がなびく。


橙色の髪の毛と茶色の髪の毛が踊り、交わる。






































「千石はまだ跡部のことが好きなの?」




































瞳は外さない。
千石から表情が消える。
まるで

太陽が月に喰われたかのように。




































月の下で輝く太陽は、嗤う。
それはとても妖艶で、掴み所のないような微笑。




























「さァ?俺あんまり人に興味持ったことないし。」

嘘ばっかり。







































千石はまだ、いつも、跡部の背中を目で追ってるじゃん。

「跡部は忍足と付き合ってんの、知ってる?」

「知ってるよ。」

「それでも好きなの?」

しつこく聞いてくるジローに、また表情が消える。
ビー玉は、千石の偽りを逃さない。
真実だけを、捉えてその水晶に宿す。

「うん、好きだよ。」







































観念したように。
千石は、それはそれは綺麗に微笑んだ。





































それを見て、少々ジローの胸は痛む。
だから、片目を少し伏せる。
自然と額にしわが寄る。




































かすかに、心の扉に棘が刺さったかのように。
ささやかに、心の動揺は広がってゆく。










































だけど、考えていても仕方ない。

「ま、いーよ。」

「?」

千石が跡部のことを好きなのは事実。
事実から逃げても仕方ない。


だったら































立ち向かえば、良い。



























ジローは微笑む。
今まで表情の成されていないその顔から、春が宿ったかのように華が咲いた。

「すぐに俺に夢中になるよ。それこそ俺しか見れなくぐらい、ね。」

一瞬。
千石は目を軽く見開いて、だけれどすぐに細めた。
とても優しく微笑んだ。

「うん、期待してるよ。」

「期待してて?(にっこり)」




ふふふ、と、二人で笑い合う。



「そんじゃ、そろそろ行こうかなー。跡部本当に怒りそうだし。」

「きれーな顔してんのにねー。」

「勿体ないよねー。」

「でもそこがまた良いんだけどvv」

「俺もそう思うーvvv」

そう言って、ベンチからジローは下り立った。
そうして千石に背をむけるとてとてとと歩を進める。

「けど、凄い偶然。」

「何がー?」

「こんな偶然がなけりゃ、ジロー君とこうやって話すこともなかったんだなって思って。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「だってあんなに良い天気だったのに、誰も雨が降るなんて考えないでしょー。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「雨降らなきゃ会わなかったわけだし。」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「凄い、偶然。」












千石に背を向けているから
だから少し安堵の息をもらしつつ瞳を開ける。

薄く開けられたその瞳は、どこか冷めていて。









































「・・・・・・・・・・・・・偶然?」

本当にそう思うの?







































くるりとジローは肩越しに振り返って。
そうして、温度の冷めた瞳は千石を捕らえた。

「じゃァさ、これは知ってた?」

「?」
































無邪気に笑うその笑顔は。
あまりに汚れが無くて毒気を抜かれる程。

なのに、

その微笑みはどこか恐いものがある。



何かを知っているかのような含み笑い。














































「あの日も、降水確率が60%だって事。」























この世に偶然なんてない
あるのは必然と










































少しばかりの策略。





































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・・・・・・・・・っ・・・・こんなもんで良いのでしょうか。汗。
千ジロ千とかって初めて書いたのでよく分からないです。
ですが駿河さんが気に入ってもらえればと思って書きました。だってお誕生日ですし!!!
跡部も好きな駿河さんなので少しばかり跡部も混ぜて書いたつもりです。
んー、シリアスなのかラブラブなのか良く分かりませんけれど。
しかも両思いかどうかも曖昧で本当にごめんなさい(両思いですよ!私の中では!!!)
遅くなってすみません!!

お誕生日おめでとうございますっっ!!!!!


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