君が、スキだから。
「英二」
スキでスキで、たまらないから。
「んー?」
もう、ソレは僕の中に収まりきらないから。
だから、君に伝えておこう。
「僕、英二のコトがスキなんだけど」
「俺も不二のコト ダイスキだよ!」
その言葉が僕のそれと違うものだったとしても。
It's snowy today
――今日は夕方から全国的に雪にみまわれるでしょう――
「雪だにゃ!」
部活の帰り、不二の隣で、こんこんと降り出した雪を見て、菊丸が一人叫んだ。
その子供のような菊丸の姿を尻目に、不二は防寒用にと手袋をはめる。
茶色と深緑色の地味な組み合わせだが、それが何となくいい味を出しているよう
に思えて、彼のお気に入りの部類に入っている。
なにより、暖かいのも理由の一つだ。
「英二はスキ?雪」
「うん!積もったら遊べるから!」
かまくら作って雪だるまつくって、あ、雪合戦もしたいにゃ、と指折り数える菊
丸を見ながら、英二らしいね、と不二は微笑んだ。
「あ・・・でも嫌いなトコもあるにゃ」
「へえ、何?」
さっきまで楽しそうに話していたのと英二のことだから、てっきり嫌いなところ
なんてない、と思っていたので少し面食らいながら聞き返す。
「雪が降るとさ、寒くなるじゃん!」
大真面目に人差し指を立てる菊丸に不二が吹き出した。
「不二っ笑うところじゃにゃいっ」
「だ・・・だって英二、そんなコト言ったら遊べないでしょ?」
「それは積もった時だけ!今みたいに積もってない、ただ降ってるだけだったら
遊べないから寒いだけにゃの!」
雪が降ったらいつだって寒いが、積もれば遊んでいて関係ない。
しかし、積もらなければ何の意味もなく寒いだけだと力説してくれたが、不二に
とって笑いを膨らませる以外の何でもなかった。
何だか――とても英二らしくて。
そんなところが、自分は好きなのだな、と実感してしまう。
「じゃあさ」
いくら力説しても笑っているだけの自分に少しむくれた菊丸に不二が尋ねる。
「今降り出した、この雪は嫌いなんだ」
まるで自分の話を聞いてなかった訳ではないのだ、とすぐに機嫌を直した菊丸は
、だって、まだ積もってにゃいもんと大きく頷き、
「俺、寒いの嫌いなんだよね。にゃんかヤル気出なくてさ」
はぁ、と手に息をかけた。
「英二も手袋したら?寒いの嫌いなんでしょ?」
自分の手にはめられた手袋を見せるが、菊丸は首を横に振る。
「忘れちゃったんだ」
今日、朝飯の当番で忙しかったから天気予報見れなくてさ、と手を擦り合わせる
菊丸に不二の頭が一つの考えを浮かび上がらせた。
「それじゃ、僕のを貸してあげるよ」
「え!?いいの!?」
「うん。ダイスキな英二の為だもん」
菊丸はありがとにゃ〜と手袋をはめ、今は見えていない太陽のような笑顔を向け
、不二に飛びついた。
「不二、ダイスキ〜」
「僕も英二がダイスキだよ」
少し雪のついた菊丸の髪に触れながら、いつまでもこの雰囲気が続けばいいのに
と不二が思った矢先に。
「あーっ!」
菊丸が離れてしまった。
不二の後ろ――菊丸の正面――を指さして。
「不動峰の伊武と神尾!」
その声に向こうも、こちらの存在に気づいたらしく笑顔の不二と無表情の伊武の
目が合う。
もう一方の神尾はというと、片目じか見えていない顔で、ひきつった表情を作っ
ている。
「青学不二と菊丸。何でこんなトコに・・・」
「部活の帰り。そっちこそ、何でこんなトコにいるわけ?」
顔は笑顔でも、さっきまでの雰囲気を壊してくれた代償は高いよ、と心の中で毒
づく不二の言葉にトゲが入ったことに、気づかないのは鈍い菊丸くらいのものだ
ろう。
「明日はテストだから橘さんの家で勉強した帰り」
「そうなの?雪の中でのデートに見えたけど?」
「やっぱり?」
「違う!」
不二と伊武の発言を大声で否定した神尾は、これだから他校と会うのは嫌なんだ
と伊武のようにボヤき始める。
が、そんなボヤきも無視され、ああ言ってるけど?と問う不二に照れ屋さんだか
ら、と小声で説明をうけ納得する青学ナンバー2がいたことに神尾は気づかなか
った。
「神尾、顔赤いけど大丈夫?」
「たっ・・・ただ寒いだけだ」
菊丸に言われ、やっと自分の顔の変化に気づいたのか頬に手を当てながらうわず
った声で答える神尾だったが、
「違うよ、英二。彼は照れているんだよ。寒いから赤くなるのは手だよ」
「照れてない!」
「本当に照れ屋さんなんだから、アキラは」
「アキラ言うな!」
「今日は寒いってコトにしておいてあげるから・・・帰るよ?そろそろ本当に寒
くなるし」
じゃあ、そういうことで。そっちも頑張って、と伊武は俺の話聞いてないだろと
自分を睨む神尾に頷きながら、彼の腕を引っ張りながら雪の中へ去って行く。
「夫婦漫才・・・」
その二人にクスリと笑いながら呟いた不二の言葉は菊丸の首を45度傾けさせた 。
「ねぇ、不二・・・」
しばらくして、どちらからともなく再び歩き出した二人のうち、菊丸が言いにく
そうに、おずおずと口を開いた。
「やっぱり寒くなにゃい?無理してるでしょ?」
「そんなことないよ。どうして?」
「だって・・・手、赤いんだもん」
寒くなると赤くなるんでしょ?と上目遣いで自分を瞳に映す菊丸に驚いて、無意
識に不二目が開かれた。
(よく・・・気づいたね)
「ほい」
開かれた不二の目の前に差し出されたのは、片方の手袋。
しかし、不二はそれをつき返す。
「いいよ。英二が寒くなるでしょ?」
「だからぁ、」
わかってにゃい、と言うように菊丸は強引に、差し出した片方の手袋を不二の手
にはめ、
「こうすれば、二人ともあったかいじゃん!」
自分も不二もしていない方を、ぎゅっと握った。
「・・・・」
ね、と握った手を満足そうに眺める菊丸不二は目を閉じて微笑った。
「そうだね」
それから、独り言のように呟く。
「僕は・・・英二のそういうところがスキだな」
「う?」
菊丸はその呟きに少し首を傾けてから、
「英二がダイスキだって言ったんだよ」
にっこり無邪気に笑った。
「ん!俺も不二のコト ダイスキだよ!」
その言葉が僕のそれと違う意味だったとしても。
「脈あり・・・かな」
「にゃんか言った?不二?」
「何でもないよ。それより、英二、寒くない?」
「あったりまえじゃん!」
――繋がれた手が通った後には、二人分の足跡がうっすらと残って行った――
―fin―
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