夢の中の恋人 −変貌した夢−




俺はとんでもなく重い気持ちで学校へと着いた。
別にさ〜どうせ夢の中のことだし、不二本人と気まずくなるわけじゃないから良いんだけどさ。
そうやって自分を励ます俺。
でも、不二一体何が言いたかったんだろ?わっかんないな〜。「僕の夢かもしれないよ?」って言ってた。そんな事あるわけ無いじゃん。俺が見てる夢なのにさっ!
そう思って少し乱暴に部室のドアを開けた。
「おはよ、英二。」
部室の中には不二がいた。少し驚いてたじろぐ。
「どうしたの?なんか機嫌悪いね?」
「あ・・・いやー、ちょっと夢見悪くって・・・。」
「そうなの?」
「うん。そいえば、不二早いね−。どうしたの?」
「んー?別に特に理由は無いけど・・・。」
次の瞬間、俺はどきりとした。
「僕も、夢見が悪くってね。」
ええええ?どゆ事?不二も・・・って・・・
「それじゃぁ、英二僕先に行くから。」
そう言ってドアに向かう不二。気がついたら俺は・・・不二のジャージの裾を、つかんでいた・・・汗。
「英・・・二?」
「あ、ごめん!」
うわわ!!俺って馬鹿!引き止めてどうすんだよう!
でも不二は立ち止まって俺と向き合ってくれた。本当に優しいんだから・・・不二は。
だから、意を決して話し出してみる。
「不二さぁ・・・夢、見る?」
「夢?見るけど。」
「ど、どんにゃ夢!?」
おもわず詰め寄ってしまった。そんな姿を見て不二は少し戸惑っているようだ。
「どんなって・・・色々だけど。」
「今日、今日とか?」
「・・・・・・・・・覚えてない。」
ずきん。心臓に刺が刺さったような気がしたけど見て見ぬふりをする。
そうだよね・・・まさか不二もって思っちゃった俺はなんて間抜けなんだろう?不二もきっとおかしいって思ってるに違いない。
「英二、朝練行きたいんだけど・・良いかな?」
やっぱり困ってるし・・・。
「英二?」
そう言って顔を下から覗きこまれた。突然顔を近づけられたから思いっきり体を引いてしまった。
そして慌てて答える。
「だ、だいじょうぶ!うん、ごめん引き止めて!行ってらっしゃい!」
なんだか良くわかんない事を口走ってしまった。不二は少し不思議そうに外へ出て行って・・・。ああ、俺ってば…もう…。
ヤバイ、どんどん不二にはまってく。夢の中と現実を重ねて意識してしまう・・。いずれぼろが出るだろう。そして不二はきっと俺を…軽蔑するんだ。
そう思ったら背中がぞくりとした。




朝練の事もあって、そして昼休みにお腹一杯食べた事もあって俺は机に突っ伏して寝てしまった。

きらきらと魚のうろこがきらめく。また俺ココに来ちゃったんだ…。けれどソコに不二の姿は無い。
どうしたのかな?
そしたら向こうから不二は歩いてきた。慌てて駆け寄る。
「不二っ!」
「え…いじ。珍しいね、こんな時間に来るなんて。」
不二はいささか驚いているみたい。
「不二だってそうじゃん。」
そう言うと不二はくすりと笑って「そうだね。」と短く答えた。
少し考えて、俺は不二の腰に腕を回した。不二もそれにこたえて俺の腰に手を回す。
「今日…不二にひどいこと言われたよ」
「ああ、夢の事覚えてないって言った事?」
「・・!なんで知ってるの?」
「英二の事なら何でも知ってるよ?」
すご…。エスパーみたい。夢だって分かってるけど嬉しいなぁ。
「だったらそゆ事言わないでよ、俺すっごく傷ついたんだからね!」
少し意地悪してみる。そしたら不二は「ごめん。」って言って俺の額に口付けた。
ったくもう、いっつもそうやってごまかすんだから!…ま、嬉しいんだけどね。
そう、夢の中の不二は俺の望むことをしてくれる、言ってくれる、なのに、どうして現実だとうまくいかないのかな?
「ね…なんで現実だと俺達夢の中のように出来ないのかな?」
そしたら不二は困ったように眉をひそめた。だから、俺は言ってみる。
「決着つけようか?」
「え?」
「俺、不二にこの事言ってみる。本当に俺と不二は夢の中で会ってるのかって。」
不二の顔からみるみる表情が消し去る。そんなに驚くようなこと言ったかな?でも、こんなのなんか苦しくって嫌なんだもん。
「また、裏切られるよ?」
頭上から降り注がれた声に反応して、俺は、ばっ。と顔を上げて不二の顔を見た。
「だって英二言ってたよね?これは自分の夢だから思うように行くのは当たり前だって。」
どくん。
まただ…また心がきしむ。
「そして英二は現実の僕を試して、裏切られて、傷ついて、そして夢の中の僕にあたるんだ。」
どくん。
止めて…夢の中でまで俺を傷つけないで。
「英二、君は僕が英二に応えない事に気付いているのにどうして、更に傷つくような事をするの?」
どくん。
止めて!!
「ストップ!」
不二から体を離してようやく俺は不二の声を止めた。がたがたと手が震えてるのが分かる。まるで、本当の不二に言われたように胸が痛い。夢なのに…本物じゃないのに、何で…。
「不二…どうしたの?この頃おかしいよ、不二らしくない…。」
うつむいて、口元に笑みを浮かべる。
「僕らしくないって?そんなに英二の理想通りに動かなかったから不服?」
そうして不二は俺の手をつかんで口元に引き寄せた。不二の唇が、熱い。
俺の瞳と、射るような不二の瞳とが交わる。
「不二…。」
「僕はもう嫌だ。英二のせいで僕はおかしくなりそうなんだ。」
「俺のせい?」
「そうだよ、お願いだから幻影で僕の心を掻き回すのは止めて。」
幻影?何それ、これは俺の夢なのに幻影って何?
「英二はそうやって僕に甘えておいて、自分から逃げてるだけだよ。どうせこれが夢だって割りきってるくせに、これっぽっちも本当は進めようとしてないくせに!!」
「ふ・・・じ・・・」
嫌だ…なんだか怖い、こんな不二知らない。夢の中の不二は俺の作った幻影。だから俺の思い通りに動いてくれるはずなのに、今俺の前に立ってる不二は誰?
怖い・…。
ぺろり。と、不二は俺の指を舐める。まるで味わうように。
びくん。と俺の体は震えた。反射的に体を引くけれど不二は離してはくれない。
「…っ、不二、止めて・・・」
「クス。感じた?」
「・・・!!」
不二はゆっくりと指を舐める。不二の舌が、指の間から見える不二の瞳がなんだかとても妖艶で、色っぽくて、俺はくらくらする。
「なんか・・不二別人みたいだ。」
「違うよ…これも僕。」
「これも不二?」
「そ、だから英二…僕の物になってよ。」
「へっ!?」
「悪いけど、もう我慢できない…。英二の理想の不二を演じるのにももう疲れたし、第一これは夢なんだから何をやっても許されるよね?」
「ふ、ふふふ不二?」
「夢なんだから…って言ったの英二だよ?」
「い、言ったけど、俺こんな事望んでない!」
「そりゃそうだね、僕の望みだもの。」
「そうか…って違う!あ、不二、何処さわってんのさ!」
「〜〜〜〜〜やめるにゃ〜〜!」
そう言って俺は思いっきり不二の事を突き飛ばした。そして全速力で扉へと逃げる。
また一人取り残された不二。
濡れた手をきれいにするように舐め取る。
「少しやりすぎたかな?」
そう言って、くすり。と笑った。


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