君に触れると君は腐食する
君に触れると君は穢れる
だから
僕は君に触れない
― 光の仔 ―
静かな廊下。
そこには白光の道を作るように一筋の線が落ちる。
ソコをコツコツと規則的に歩を進めるのは、セブルス・スネイプ。
彼の心境は複雑だ。
今、彼はその無表情の下に動揺をひた隠しに徹していた。
奴の行動が分からなくて。
ピタリ
足を止める。
視線は、少し遠くへと。
自分の視線に映るのは、光の仔。
彼の名前は、ジェームズ・ポッター。
緑の木々に隠れるようにして、彼は立っている。一人ではナイ。
側にいるのはグリフィンドールでも有名な美女。
ジェームズは楽しげに彼女と話していた。
セブルスはいつもと同じの無表情でその光景を見ていた。
奴は、光の仔だ。
そう、思う。
自分はあの世界には入っていけない。
自分の属するものは「闇」正反対のモノに触れるのは酷く疲れてしまう。
それでも手を伸ばしてしまうのは―――
セブルスにはその答えが見つからない。
不意に、ジェームズが少し身体をかがめたかと思うと、
彼女、に、キスをした。
セブルスはいつもの無表情に徹していた。
動揺する必要はない。あんな奴相手に心を惑わす必要はない。
そう思って、視線をはずさずに見ていた。
アイツの行動は、自分を誘うものだとよく知っていたから。
木漏れ日に光輝く下でジェームズは薄く瞳を開けて横を見遣る。
目が、合った。
ッカァ・・・ッ・・・
その瞳とぶつかって、なんだか侮辱された気分になったセブルスは、顔を赤らめるとその場をたちさる。
きすびを返した拍子にばさりとローブの裾が閃いた。
光の筋の中に灰色混じった漆黒のローブが消え去る。
「・・・・・。」
セブルスの背中を見送った後に、ジェームズは彼女の肩を押して自分の身体を引き離した。
「ジェームズ・・・?」
「・・・・・。」
ジェームズの見ているものは一つだ。
こんな物はただの余興にすぎない。
愛しい人を繋ぎ止めておくためのもの。
「・・・・・・ジェームズ・・・?」
「あァ、何?」
不安げな彼女の声にやっと反応して、いつもの嘘っぽい笑顔を浮かべた。
にっこりと笑うその笑顔が嘘のものである事に気付ける人物は少ない。
勿論、この目の前にいる美女でさえも例外でないのだ。
「・・・・・・・・ねぇ、僕のキス上手い?」
「え?」
改まって聞かれて、彼女は頬を染めた。
可愛いなァ。ま、セブルスの方がずっと可愛いけど。
こんな事を思ってしまうのはこの男も相当いかれてるとしか良いようがない。
「・・・・・勿論・・よ。」
「そう、ありがとう。」
にっこりとジェームズは笑いかける。
笑いかけて、瞳をすぅと開けた。
開けられた瞳は自分の手へと。
彼女の肩に置いた手へと向けられる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・腐食・・・(ぼそ)」
「え?何・・?」
よく聞こえなかった。
そんな風に彼女は言った。
そんな彼女を一瞬だけ哀れんだ表情を向け、だけど微笑を浮かべる。
いつものものとは違う。
どこか含みのある微笑を彼女に贈った。
「まぁ・・・君の場合は最初から穢れているから関係ないけどね。」
鮮やかな笑みを浮かべてジェームズはそう言い放ったのだった。
「・・・・・・・・・・セ・ブ・ル・スvv」
「近寄るな。」
即答で返されてしまって、ジェームズは苦笑しながら透明マントを取った。
最初は自分の部屋に入られることを凄く嫌がっていたセブルスだが、この頃はそんな素振りを見せない。
確かに嫌そうに顔をしかめて、「早く帰れ。」と、言っているけれど。
さてさて、これは僕に応えてくれたのか、諦めたのか、それとも・・・
その先の答えはいくらジェームズでも分からない。
例え、予測できたとしてもだ。
大きな窓から壁に寄りかかるようにして外を眺めている、このつれない恋人を見ながら思った。
いくらジェームズでも・・・
最悪な選択をしたくない。
最悪な予測を当てたくない。
だから
考えないようにしている。
殺風景な部屋だと今でも思う。
グリフィンドールとスリザリン。
敵対するこの二つの中で彼らは出会った。
ジェームズから言わせてもらえば「運命の人に出会った日」
であり、セブルスにとっては「自分の人生が終わった日」であるのである。
初めて見たその時からその姿に惹かれたジェームズの行動をよく思わない友人を押し切って、遂にはあの堅物。セブルス・スネイプを手に入れた時は呆れるしかなかった。
そうして、認めるしかなかった。
「あの」ジェームズが、どんなものでもたやすく手に入れるだろうジェームズが、
どんな犠牲を払っても手に入れたいと思ったものだったのだから。
笑ってはいても、心の中ではどこか冷めているジェームズを熱くさせたのは。
唯一、の、ものだと気付いたからだ。
リーマスは溜息をつきながらも笑顔で見送り、シリウスはものごっつ嫌そうな顔をして今でも反対している。
「あんな病的な白さで青白な肌なスリザリン生を好きになるなんざどうかしている!!!」
と。
ピーターに至っては、彼にはもともと反論の権利は与えられていない(酷い)
シリウスの言葉をジェームズの見解から言わしてもらえれば
「白い肌に、薄い唇。病的で弱そうなのはどこか守ってあげたくなっちゃう、とにかく、モノにするまではきっと大変だろうけど絶対に燃えそうな愛しい人。」
なのである。
本当に、ジェームズは救われない。
そんなわけで、二人は表立って会ったりはしない。
そりゃ、二人の関係は公のものだったので、ジェームズは気にすることなくセブルスに近づく。
廊下で会えば、ふ・・・と笑って挨拶。
その姿を見れば声をかけるために走りよる。
ちょっかいを出して、怒られる。か、無視される。
それが二人の表の顔。
裏の顔。
それ以上の事は
夜、月が二人の姿をかすかに照らす夜に行われる。
儀式のように。
「どうしたの?今日は機嫌が悪いね。」
「僕はお前と会う時はいつも機嫌が悪くなる。」
「そいつぁ失礼しました。」
「そう思ってるなら早く立ち去れ。」
「それは良いけどさ。なんでそっぽ向いてるの?」
それは良いけどさ。だなんて全然関係ない。
ジェームズの重要点はそこじゃないのだから。
今日は機嫌が悪い。
もっとも、その理由には気付いているが。
「僕が君の目の前でキスした事?」
「別に僕には関係ない。」
「嘘ばっかり。気になるくせに。」
くす・・・と、笑ったらその時初めてセブルスがジェームズに視線を合わせた。
その瞳は暗く静かに怒っていて。
こめかみには無数のしわが寄る。
「彼女、は、生贄だよ?」
楽しそうに、ふ・・・と目を細めて口元を月の形に象った。
今日は生憎満月。
必要以上の光がありありとジェームズの表情を照らす。
「・・・・・・・・生贄?」
意味の分からない言葉に、セブルスは思わず聞いてしまった。
「ソウ、生贄(にっこり)」
「どういう事だ。」
「だからぁ、セブルスの変わりな訳。彼女だけじゃないよ、みーーーんな、ね。」
「最低だな。お前が連れているのは曲がりなりにも噂の女共ばかりだぞ?」
「そりゃまー、ヤるんだったら僕だって綺麗なほうが良いし。」
「本当に最低だな。」
「だけど、僕はセブルスとの時が一番好きvv」
「それ以上続けたら殴るぞ!!!!」
とんとん拍子に自分のペースにもっていくジェームズに怒りをあらわにして、セブルスは声を張り上げた。
行き場のない感情。
うごめく、渦。
かき乱されないと思っていたのに。
決して惑わされないと思っていたのに。
決心して、いたのに。
だって・・・闇は光にかき消される。
太陽と月は決して共存出来ないのだから。
「あの女に口付けたその唇で・・・・僕への愛を語るな。」
『汚らわらしい』
そう、憎々げに続けた。
ジェームズの顔から微笑が消える。
なにも映していない表情に、セブルスの背筋が凍った。
先の読めない笑顔も恐いが、なんの感情も宿していない無表情こそ恐いものはない。
「・・・・・・・・・・くっ・・・なるほど、ね。」
しばらくしたあと、下に俯くとジェームズは喉を鳴らした。
「セブルスは気に入らないわけだ。」
「なにがだ。」
「僕の事を愛しちゃってるから(にっこり)」
「うぬぼれるな。」
「気になるんでしょ?僕がどうして君の事を好きだと言いながら他の子達と関係を持つのか。」
「それがお前の狙いか。僕の気持ちを確かめたいか?」
「それは不正解だね。セブルスの気持ちなんてもう知ってるし。」
「言ってやろうか。お前のことなんて大嫌いだ。」
「言うと思った。だけどね、言ってる事と、その行動がちぐはぐなんだよ。君は・・・僕を好きなんだよ?セブルス・・・。」
言われたセブルスは、怒りか恥じらいか、顔を赤く染めた。
下から見るようにジェームズは俯き加減のままセブルスを見上げる。
「確かに、ちょっとやきもちして欲しいな―――とは思ったけど、それは正解じゃぁない。」
「?お前の言ってる事は難しい。」
疑問符を浮かべたセブルスに、ジェームズは苦笑する。
「セブルスは勉強は出来るのにね。」
「馬鹿にしてるのか?(ムカ)」
「そうじゃないけど(苦笑)そういう事には疎いんだなって。」
「お前の頭を理解できるやつがいたら紹介して欲しいものだ。」
「恋の方程式は無限大、だよ。」
人差し指で中に八の字を描く。
くるりと円を二つ。
∞
その記号の意味は「数え切れないもの。はかり切れないもの。答えがないもの。」
納得いかげに顔をしかめたセブルスに、ジェームズはまた笑いかけた。
「愛してるよ。」
「他の女に口付けた唇で僕への愛を語るな。」
嘘ばっかり
そんな事を、思う。
ジェームズは一歩踏み出す。
その行動に動じはしないが顔をしかめた。
微笑みは緩やかに称えたまま、ジェームズはセブルスとの距離を縮めた。
腕を上げて、その指が軽くセブルスの髪に触れる。
これはほんの前兆。
それを知っているからセブルスの鼓動は早い。
これからされる事を
分かっているから。
けれどもジェームズは先に進んだりしなかった。
するいと艶のある黒髪を指から離した。
肩までかかる黒髪は月の光を帯びて肩にさらりと音をなして収まる。
「……?……」
口もとの微笑みは、消えない。
だけど、瞳はどこか遠くへと。
「…………・・君には・・触れない・・んだ。」
「そうか、それは良かった。」
「いや、触れられない・・かな?」
少し俯いて自分の腕をジェームズは掴む。
その俯きがちの表情が
消えて しまいそうだった。
「……・どうした。お前らしくもない。」
「そうかな、僕らしくないってどういう事?」
目線をあげて、セブルスの瞳を捕らえる。
ビクリとセブルスの身体は硬直した。
強い瞳が、笑っていなくて。
口元にも笑みは消えていて。
「(なんなんだ…)」
「ねェ、僕のこと、好き?」
「嫌いだ。」
「そっか。」
何故、安堵の表情をするんだ。
刹那、セブルスは手首を掴まれる。
そのままベットへと押し倒された。
「っっ!!」
のしかかるジェームズの肩ごしに、大きな窓の向こうに月が見える。
青白く光る、月。
月は鏡。
鏡は自分を映し出す。
月は、自分。
太陽は、ジェームズ・ポッター。
身体の力が抜けて、瞳を細めた。
そうだ、相容れるわけがない。
光の仔。
この男と気があうわけが、ないじゃないか。
そんな事を思っても、自分は罪を犯しつづける。
神に反した贖罪を、いつか 自分は受けるのだろうか。
するりするりと服は脱がされて、ジェームズは自分のネクタイを首から引きぬいた。
しましま模様のネクタイが手から離れる。
月明かりの下でのその肌は、凄く綺麗だ。
口元には、微笑み。
セブルスの髪に触れると頭を包み込むようにして額に口付けた。
「君が僕を嫌いであるうちは、きっと僕は君を抱ける。」
「僕がお前を好きになったら用済みだと?」
「違う。」
はっきりと否定して、髪の毛を指に絡ませてもてあそんだ。
「…………・侵…食。」
「?」
「腐食されてしまうんだ。」
「…どういう…。」
「僕が触れたところからじわじわと、セブルスは腐る。だから…。」
僕は君に触れないよ。
鮮やかな微笑をたたえて、セブルスに笑いかけた。
狂気にも似たその表情に怯えはしない。
怯えているのは、むしろこの男だ。
「お前は、何に怯えている。」
「……・・僕が…?」
「そうだ。神に反するこの行為がそんなに恐いか?」
「…………・。」
「僕は恐くない。どうせ光の仔と僕では違いすぎるのだから。」
「光の、仔?」
「どうせ交わる事は、ない。」
不思議そうに首をかしげた質問に、セブルスは答えない。
しばらく言葉を失った後、ジェームズはなんだか優しげに微笑む。
「僕は、君のためならどんな犠牲もおしまないよ。」
「その言葉、どこまで続くか見物だな。」
「うん、だからずっと見ててよ。」
いとおしむように、まるで子供のように肌を重ねて。
光の仔は涙を流す。
侵食
穢れは愛する人に渡さなければいい。
他のやつに渡せば良い。
それは愛すればこそ。
愛しているからこそ。
世界で一番愛しているから。
「……汚い…僕は…穢れてる…。」
「何故。」
「知ってるから。」
微笑みの下で、冷えた心。
これからの、自分。犯す罪。受ける罰。
見えぬ闇。友人の裏切り。
先に見える運命。
汚い自分。穢れてる自分。
「そんな僕だから、セブルス…君に触れるのは躊躇するんだ。」
苦しげに前髪の下でうめいた。
セブルスはそんなジェームズをみて、目を細めると、指を伸ばす。
「…・・痛っ・・。」
ぐいと前髪を掴んで引き寄せる。
唇が、動く。
「……・・案ずるな。もうお前に目をつけられたその日から、とっくのとうに腐食してるさ。」
月の輝く下で、今日も自分の意志の弱さに苦笑しながら。
嗚呼、腐食していく。
そんな事を思いながらも指を肌に這わせて。
唇で唇をふさいで。
甘美の言葉を鼓膜に刻んで。
そうして、幸せの絶頂に達する。
全てが愛しい。
イトシイ から
「……だけど、セブルスはなんだかんだいっても僕の道連れになる気がする。」
「ぜっったいごめんだな。」
「やっぱりィ。それでこそセブルスvv」
そう言って、ジェームズ・ポッターは満足げに微笑むのだった。
-------------------
よく分からない…ごめんなさい。
ジェームズはセブが大好きです。
だからきっと愛する方法が違うのね、うふー。
だけどあんまり我慢してないじゃん。意味なし!!
うーわー、精進しよ。