― 風化 ―






毎日私達は社会にもまれながら苦しみあがく。
あがきつつも「日常」を捨てる事なんて出来なくて。

だから私達は今日も生きていける。

したくもない事に気を使って、阿呆だと思いつつも作り笑顔を浮かべる。

嗚呼、馬鹿だね。

思っていても、止められない。

何故って自分自身の居場所を失うのを恐れるから。



一人で生きていけない事を知っている私達は


いつも酷く怯えて


いつも酷く恐れて



そうして


いつも酷く何かを求めている。





渇き切った砂漠の中で、砂にもまれた花は


最期は枯れることなく、しおれることなく。


花が花であることを放棄したときに


砂漠の花は枯れることを止める。

枯れる事さえとばして風化する。

砂のように花のミイラになりながら。


腐る事と枯れる事を恐れて。


だったらいっそ砂になってしまえと。


そうして砂漠ができるのだ。





これはどこの本にも書いていなくて、勝手に私が思ったことだ。
だっておかしいじゃないか。

どうしてあんなにも砂だらけの大地が出来あがるのか。

不思議でならない。


静かで、そしてとても残酷な大地。



私も







自分の存在を見失った時風化してしまうのだろうか。




毎日辺り触りなく、人にうらまれる事なく笑顔でいる。
何かを頼まれたときには嫌な顔をせずに引き受ければそれでいい。

それが利用されているとわかっていたとしても。

所詮友達なんて空虚なものだ。
どうせ、赤の他人だ。

    自分の血縁者さえも信じる事が出来ないのに、どうして友達が信じられる?

どうして自分自身も信用することができないのに、他人を信じられる?


そんな事で悩まなければ良いのに悩んでしまう私。
馬鹿な、私。

誰かに必要されたいと思ってまた偽善者ぶる。

それがどんなに愚かな行為だと知らずに。


他人の裏切りと、策略に溺れる事に恐れて。
そんな事考えなければ幸せでいれるのに。

どうせ


私のことなんて利用価値のある人。

しか、思っていないじゃない。
と、せせら笑ってしまう。



胃が痛い。きりきりする。

毎日毎日、どこでも。
信用できるやつなんていない。
どうせ皆毎日人の腹をうかがってる。

どんなに仲の良い人でも、愛した人でも



嗚呼、なんてこの浮世は疲れるのか。

こんな感情なんて捨ててしまえればいいのに。
いっそ「外」の世界に出ないでいられたらどんなに幸せか。


出来やしない。
だって私は道をはずれるのを恐れてしまうから。

人と違うレールを歩いて、畏怖の目で見られるぐらいなら

毎日作り笑いをした方がずっといい。

















私のいる世界には








































私の居場所は存在しない。






































誰も私を心から必要としてくれないと思って、私は切なくなる。
一人だなと感じてしまって酷く悩む。
明日になればまたそんな事を心の底で思いつつも笑って「外」の世界に足を踏み出すのに。








胃が痛い。きりきりする。















薬を時折飲んでも、どうせまた一人になる時間があると考えてしまうから。

自分一人の世界の中で、やっぱり私は孤独だなと感じてしまって。



辺り障りのない会話。仲間。友達。



・・・・・・はっ、だぁれも私を必要としてくれない。


近づけば受け入れてくれるけど、そうでなければ放っておかれる。

名前さえよんでくれない。

自分から動かないと一人だ。


切なくなる。





どうせ自分から動かないと孤独になってしまって一人でぽつんと立ちながら










嗚呼、やっぱりね。









そう思って自分に絶望する。









毎日が楽しいけれどつまらなくて不安だ。

どんなに自分が頑張って人に気に入られようとしても上手く行かなくて。

いつも一人になってしまう。



受け入れてくれるけど、いなくても別に構わない。







それが今の私の価値。







誰も私を探してくれないの。










































胃が痛い。きりきりする。

今日はやけに酷く痛む。






















ッ!!

思わず咳き込むものがあって洗面台にタンを吐いた。

洗面台の白いタイルにぽたぽたと落ちるソレを見て私は固まった。

口に広がるのは鉄の味。
視界に入るのは妙に赤く目立つ液体。


丸くてんてんと落ちている。




胃が痛い。きりきりする。


ドクン


心臓が一度だけ跳ねあがったけれど、私はなんだか心がからっぽになった。


















































疲れてしまう。全てのものに。







消えてしまえばいい。








ドライフラワーになって枯れた花になれるかもしれない。




否、風化してしまえば残るのは砂だけ。



















その砂を拾ってくれる人が私にはいる?













































なんだか疲れてしまったから授業は出なかった。
チャイムの音を耳にいれつつも保健室の前を通りすぎて。

やだ、あんな薬品臭い所。
それこそ先生にまた愛想笑いしなきゃいけないじゃない。


そしたら私の胃はまたきりきり痛みだすし。


逆効果極まりない。





だから私は今は使われていない資料室へと向かった。
扉を開けると、ぷんと古い本の臭いがする。
私のように、要らなくなって鍵のついた部屋に置いて行かれた本達に囲まれると何故か酷く安心する。
自分の仲間に出会ったような気分だ。
鍵はこのまえ壊してしまったから(壊すなよ)勝手に入れる私の居場所。

ここは静かでとても良いけど

一人だとまた余計なことを考えてしまう。

だけれど、他人と付き合って更に付き合うよりかはましだと思ってしまうから。




この秘密基地の事は誰にも教えてあげない。









ふと、一瞬だけ。


思い当たった人がいたけれど、頭を振った。



別に教える必要はない。



















ソファに身体を預けて大きく深呼吸をする。
思ったよりも傷は深くて胃が軋む。
苦痛に顔が歪んで嫌な汗がにじみ出た。


痛い。




ゆっくりと目を閉じて意識を遠くに飛ばした。
今は休まなければ。
そう身体が警告を発している。

夢を見てしまえば少しはこの苦痛も抑えられるかもしれない。




















































+++++

+++++





次に意識が戻った時にはまだ胃が痛かった。
そりゃまぁ、ちょっとやそっとで治りはしないと分かってはいたけれど。







だけど、異変に気付く。




ソファにしたら先ほどとは随分と柔らかさが違くないか?

むしろ、なんだか温かい。



不気味だ(酷い)




明らかにソレが人の太股だと気付くのに数秒かかって、嫌な予感がしつつも目線を上に上げた。




「おはようvv」



どうしてコイツがここにいる。


呆気にとられて言葉を失った。

私の視界に入っているのは佐伯(サエ)だった。
おかしい。どうしてここにいるんだろう。


凄く嫌そうに顔をしかめていたのだろう。
佐伯はにっこりと爽やかな笑顔で私に言った。


「どうしたの?平気?」

それはお前だろ。


「授業は・・・?」

「サボってきた。」

「・・・・・・(なんで佐伯までサボるのよ)」

「少しまだ顔色悪いね。」

ひやりとした感触に私は思わず目を瞑る。
だけどその一秒後には佐伯が私の額に濡れたタオルを置いてくれた事に気がついた。
今はひやっこい男の指先が私の頬を撫でた。

優しい茶色の瞳が私を見下ろしている。



「疲れた。」

「うん。見れば分かるよ。」


優しく私の前髪をかきあげた。




「ねぇ、ところでどうしてここを教えてくれなかったの?(にっこり)」

「(びくっ)教えなきゃだめですか?」

「勿論。だって僕は君の彼氏だよ?」

「・・・・・・・・・(関係ねーじゃねーか。)」

「あ、今関係ないとか思ったでしょ。はい、ぶー。」

「(意味分からないし。てか人の心読まないでよ。)」

開けられた瞳は少し細まる。
口元には微笑みが浮かべられる。

「俺ってそんなに信用ないかな。」

言われて、ちょっと面食らった。
なんだて?信用ない?

だってさっきまでの私は・・・


「自分自身を信じてあげられないやつが佐伯のことを信じれると思う?」

「あはは、ったら病んでるな―――――。」

「(すっごい爽やかにかわしたよ、この人)」

爽やかなまでの笑顔を私にあびさせた佐伯はそのまま薬箱を取った。

「はい、薬。飲んでね?」

「・・・・・・・・・・・。」

なんで分かってしまうんだろう。不思議でならない。

「・・・・飲んでも意味無いし。」

「駄目。」

「なんでそんな事言われなきゃいけないのよ。」

「これは俺への保険。」

「ほけん?」

「ソ。だってこのままじゃ心配で部活に集中出来ないからね。だから薬飲んでよ。」

にっこりと、佐伯は笑った。
私はそのしょうもない理由に顔をしかめる。

佐伯の言葉は自己中心的だったけれど


そこらへんの歯の浮くような台詞よりもずっと安心する。




だってそれは真の言葉だから。






だけどあんまり薬は好きじゃない。てか、出来れば飲みたくない。
まずいよー、どうせなら蜂蜜味とか作って欲しい(無理だよ)


「でも・・・。」

「駄目。」

「(即答かよ)今日は別にそんなに酷くないよ。」

「(嘘っぱちめ)じゃァどうして俺にも教えていない隠れ家に来たのかなぁ?」

「(ぎく)たまたまだよ。」

「本音は?」

「(ぐぅ)・・・・・・・佐伯に知られたくなかった。」

「やっぱりね。胃が痛いんじゃないの?」

「痛いけど、酷くない。」




「嘘だね。」





あっさりと佐伯は言った。
なんでそんなことあんたに分かるのよ。
血縁者でも分からない変化にどうして他人のあんたが分かるのよ。





そう思って無言でにらみつけたら、佐伯は私の瞳をまっすぐうけとめると私の手首を優しく掴む。
そのまま自分の唇へと持って行く。


私の手の平で口もとは隠されて茶色の瞳だけが光っていた。
すぅと開かれた瞳は、語る。









「血の臭いがするね。どうして?」

びくっ、と、私は硬直した。
思わず目を見開いて時間を止めた。

佐伯の鋭い瞳が私を捕らえようと見つめる。
見つめられて、動けなかった。

視線を反らす事がやっとだった。





私は小さく溜息をつくと身体を起こす。それを見て、佐伯の表情はまた穏やかになった。






私は用意周到な佐伯が机の上に置いただろうと思われるコップを手に取る。
佐伯はソファに座りながら私の行動を見ている。
否、監視している。

私はそれを横目で見つつ溜息を付きながら薬を口に放りこんだ。

以前隙をぬすんで薬を飲まなかったときはそれはそれは恐かった。
薬を飲んでもそれは一時のしのぎだと、そう思っただけだった。
だけど飲まなかったせいか分からないが、そのすぐ後にまた私は胃が痛んでしまって。





その時の佐伯といったら(ぶるぶる)
表情は微笑みの形をかたどっているのに、まとってるオーラは凄く黒くて。
否、どす黒くて。
明らかに怒っていることは必須だった。
微笑を絶やさない佐伯にさんざん静かに説教された。

ちょっと喰われるかと本気で焦ってしまった。















は少し悩みすぎだよ。」

「しょうがないじゃん。」


嫌な味のする薬を水で胃の中に流しこんで私は答えた。









































「佐伯。」

「ん?」

「居場所・・・が。」

「居場所?」

「・・・・・・いい、やっぱりなんでもない。」

「はい、それの悪い癖だよ。最後までいってすっきりしちゃいなよ。」

ちっ、言わなきゃ良かった。

だけど何故だろう、この人の前だと私はいつも違う自分な気がする。






いや







これが本当の「ワタシ」なのか。

















「私の居場所がないの。どこにあるか分からない。」

「あるじゃん。」

「ないよ。」

「ある、ここに。」

微笑をかたどって、佐伯は自分の膝の上を指でさした。

「茶化さないでよ。」

「茶化してなんかいないし、大真面目だ。」

「・・・・・・・・・・。」

笑っているのに瞳は凄く真剣だから圧倒される。
息が詰まる。



真か嘘か。



判断できなくてまた胃が軋んだ。







思わず視線を外して床へと向けた。
ぱさりと髪が揺れて私の表情を隠す。




「そんなんっ・・・いらないっっ!!!」

叫んでしまう。
顔を勢い良くあげて佐伯を睨みつけた。


「なんでそんな風にいうの!?どうせ私のことなんてなんとも思っていないじゃん!」

「好きだよ。」

「嘘っ!!誰も私に居場所をくれないんだからっ!!!」

どなってしまう私を佐伯はどう思うだろうか。
汚い私を見せたくなくて頑張っていたのに。




「誰も、私を必要としてくれない!誰も、私の名前を呼ばない!!!」

。」

「そんな慰めは要らないっっっ!!!!」

最期に佐伯の言葉を制すると、ぜいぜいと息が切れた。





しまった、やってしまった。








思わず佐伯にあたってしまって自分に気がついて酷く嫌になった。
嫌われた。

そう思って、恐くなる。






呆然として、さぁ・・・と血の気が引いた。



、こっちを向いて。」

佐伯が私の名を呼ぶ。
私は恐る恐る視線を移した。

恐々と見た佐伯の表情は穏やかで、思わず拍子抜けする。
相当不安げな顔をしていのだろう。

佐伯は私に向かってにっこりと笑った。


「大丈夫だよ。それぐらいじゃ嫌いにならない。」


まるで私の心を見透かしたように佐伯は言う。














「おいで。」









誘われる言葉に自然と私の足は動いて、座ってる佐伯の前に立った。
佐伯は私の両手を自分の手に取る。


が不安になるのは俺を好きだからだよ。」

「・・・・・・・・。」

「違うって否定しないね。」

なんだか照れる。認めてしまうのは釈然としなかったが、佐伯は是と捉えて嬉しそうに微笑む。

「それはね、にとって俺が居場所っていう印だよ。」

そんな言葉をかけられて、私は視線を上げた。
優しい茶の瞳をぶつかる。



「・・・・・・・大切な・・・人だから?」

「そう、失うのは恐いでしょ?」

「うん。」

「嫌われるの、嫌だから我慢したんだよね?」

「うん。」

「だったらここがの居場所だよ。」

「・・・・・・・・・うん。」

「だけど俺は色々話してもらって方が嬉しいからどんどん話してね。」

「良くわからないし。」

「良いの、二人でわかちあった方が絶対に良いんだから。」

「そうかなぁ。」

「そうだよ。」

「でも嫌われるよ。」

「大丈夫。そんな病んだも大好きvv」

「(変態っ!!)」


ぎゃぁす。
この人も相当おかしい。

ちょと思ったけど少し楽になった。









だから私は笑う。
その表情を見て佐伯も笑った。

















「ねぇ、知ってる?」

「?」

「花はね、一酸化窒素の中にいれるとその美しさを変えることなく固まるんだ。」

「・・・・・・。」

「一気に冷たい空気に触れさせると、形を変えることなく永久に。」

「だから?」

「そう、だからも風化なんかしないでよ。」

「・・・・・・。」

「そんな勿体無いことするぐらいなら、俺の為に一酸化窒素に浸かってくれる?(にっこり)」

「とんでもない恐ろしい台詞ね。」

「そう?」


くす、と、佐伯笑って私の手の甲に口付けた。


私は腕を伸ばすと佐伯の首に巻きつける。

ぎゅぅと、力を込める私を抱き締めて、佐伯は目をゆっくりと伏せた。










「返事は?」

「良いよ。私の全てを佐伯にあげる。」

「その言葉、忘れないで。」










































忘れないで。








君は一生俺のモノ。




他の手に渡るぐらいなら







いっそ、そのままの形で永久に


















俺の手元に残しておいてあげる。









































――――――

暗くて、途中ハッピーで、最後は狂っててすみません(最悪)
初佐伯さんで良く分からないや。
だけど彼は好きなタイプです。ものごっつ好き。
私本当に黒い人が好きなんだなぁ。と、実感。
六角良いキャラしてるぜ。


return


このMIDIは音さまよりお借りしました。
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