||| 弱点 |||

 

「あれ?手塚?」

誰もいなくなったテニスコートの整備を終えてが部室に戻るとそこには手塚の姿があった。
まだジャージ姿でこれから制服に着替えるところらしい。
明日からとうとう都大会が始まるため今日の練習は早めに切り上げ、各自明日に備えることになっていた。
はこの空いた時間を利用して普段時間がなくて出来ないデスクワークをする為学校に残っていたが、それ以外のテニス部員は全員学校を後にした。

「もう、とっくに帰ったと思ってた」
「竜崎先生と明日の都大会の事でちょっとな.....」
「ふ〜ん。そう.....」
「お前の方こそ何をやっているんだ?」
「家に帰ってもするコトないし。残ってるデスクワークの処理でもしようと思ってさ」
「.....そうか」
「うん、そうだ。」

は戸棚から膨大な数の資料とファイルを取り出すと、部室の隅に置かれている机に山積みにした。
どうやら今日1日で終わる量ではないらしい。
ちょっと前までは残念ながらレギュラー落ちしてしまった乾が手伝ってくれていたので、かなりはかどっていたのだが、ランキング戦で見事レギュラーに返り咲いたため、今まで通りひとりでマネージャー業をこなさなければならなくなっていた。
身体を動かす作業は得意だがデスクワークはどうも苦手でなかなかはかどらない。
溜まりに溜まったファイルの山を見て、は一気にやる気が失せていくのを感じた。
不意に視線を感じて手塚に目をやると、腕組をしてを見ている。
まだジャージのままの姿だ。

「.....着替えたいんだか」

手塚は少しバツが悪そうに自分のロッカーに寄り掛かりながらそう言った。
それを聞いては満面の笑みで言う。

「どうぞ。着替えてくださって結構よ?」
「他人に着替えを見せる趣味はない」
「いいじゃん。彼女なんだから」
「.....そういう問題じゃないだろう」

お硬い手塚には何を言っても効果がないコトは自分が1番良く知っている。
なのに、手塚の顔を見るとついからかいたくなるのはなぜだろう?
みんなの知らない手塚の一面を自分だけが独占したいと思っているのかもしれない。

「はいはい。わかりましたよぅ」

は渋々といった表情で肩をすくめてみせると、手塚に背を向けて立った。
そして、その視界に広がる窓の外の風景に目をやる。
日は傾いて木々の影を長くしている。
茜色の日射しが眩しい。
いつもならまだ練習真っ最中の時間だ。
なのに、今日は練習がないから本当に静かだ。
木々の葉が風にそよぐ音さえうるさく感じる。
まるで嵐の前の静気さ.....


 

「も〜い〜か〜い?」
「ああ」

手塚の了解を得てが振り返ると、制服のズボンをはいてYシャツに袖を通している手塚の姿が目に入った。

「ちぇ。つまんないの」
「.....お前な」

何を期待していた訳でもないが、ものすごいチャンスを逃した様な気がして何だか悔しい。
まぁ、今からでも遅くはないケドね.....笑
でも、それよりも手塚には聞いておきたいことがある。
これを聞いておかないとマネージャーとして万全な体勢で都大会には臨めない。

「ねぇ、クニクニ」
「クニクニはやめろ.....」
「.....腕.....ホントにもう大丈夫なの?」

は手塚の正面に立ってその顔を覗き込んだ。
いつも聞こうと思ってなかなか聞けなかったコト.....
大石には心配ないって言われたケド、やっぱり本人の口から聞かないとスッキリしない。
手塚はYシャツのボタンを掛けていた手を止めた。
の顔を見返す。

「『完全に直ってなきゃ氷帝の跡部には勝てない』って不二が言ってたよ?」
「ああ」
「ホントにもう平気なの?」

氷帝は都大会ナンバー1のシード校。大会の常連で去年は3-2で負けている。
もちろん手塚は勝ってたケド、それはケガをしていない状態での話。
ケガが直らないまま出場して勝てるほど氷帝は甘くない。
それは手塚が一番よく判っているハズ.....

「大丈夫だ。心配ない」

手塚は力強くうなづくと、自分の左腕をさするの手を握ってやった。
手塚の温もりがやんわりと伝わってくる。
は何度もうなづいた。
手塚本人がそう言うのだから本当に大丈夫なんだろう。
ケガの手当てやケガをしないようにサポートするコトはできるが、ケガを直すコトはには出来ない。
自分には何もしてあげられない。
ここから先は手塚自身の問題なのだ。

「.....うん、わかった。じゃあもう心配しない。でも、ケガだけはしないようにがんばってね」
「ああ」

そう言うと手塚はもう一度大きくいうなづいてみせた。
も笑顔でそれに答える。
久し振りにふたりきりでいるときに真面目な話をしたせいか何だか照れ臭い。
ここはやはりいつものごとく迫らねば.....!!

「それはそうと.....ねぇ、クニクニ〜vv」

はさすっていた手塚の腕を放すと、今度はそのまま抱きついた。
Yシャツごしのせいか手塚の心臓の音がいつもより近い。
その音を確かめるように、は手塚の胸に顔を埋めた。

「おい!!...放せ、!!」

手塚は声を少し荒げるといつものように赤面しながら抗議の声をあげた。
その心臓の音は早い。
やっぱりこうしている時が一番幸せだvv

「ぶ〜。いいじや〜んvv」
「いいわけないだろう!!誰か来たらどうする!!」
「大丈夫。カギかけたからvv」
「.....お前な」

準備万端、用意周到なの答えに手塚は言葉を失った。
女の.....いや、の考えるとこは、まったくもって判らない。
どこまでが本気でどこからが冗談なのだろう?
本人曰く、『常に本気』だというが、それもあながち嘘ではないのだろうと最近手塚は思い始めていた。
付き合い始めてからもうすぐ3ヶ月が経とうとしているが、いまだに掴み切れていない節がある。

「だって、都大会始まったらテニスのことばっかりで、あたしのことなんて気にもしてくれなくなるでしょ〜?」
「・・・・・。」

いつもなら『いいじゃん、減るもんじゃないし』とか自分に都合のいい言い訳をするだが今日は正論だ。
都大会が始まったら手塚もみんなも頭が大会モードになるため、余計な事は考えない。
特に手塚たち3年生にとっては最後の大会だ。
気合いも去年とは比べ物にならない。
そんな大切な時に自分のコトを考えていて欲しいなんて思うのはエゴだと思うが、マネージャーとして近くにいる分、みんなの中に入っていけない溝を僅かながら感じてしまう。
手塚は黙り込んだまま何も答えない。

「.....ねぇ、普通そうは思ってなくても『そんなとこ無い!!』とか言うもんじゃないの?」
「.....嘘はつけない.....」

甘い言葉を期待した訳じゃないけど、手塚の素直な言葉を聞いては笑った。

「アハハ。手塚らしいね。でもまぁ、そういう訳なので今のうちにイチャイチャしよ〜vv」

は腰に回していた腕を手塚の首に回すと、手塚の顔を引き寄せ軽くキスをした。
手塚の顔がさらに赤くなる。

「んなっ...!!!!」

抗議の声はまたしてもの唇に塞がれた。
手塚は自分に回されたの腕を外そうと試みるが、明日から都大会だと言うことが引っ掛かって無理強いできないでいた。
大会の間はそれに集中したいからテニス以外のことはなるべくならば避けたい。
の言う通り、大会以外のことを考えている余裕が自分にはない。





 

 



「.....今日だけだからな...../////」

 

 

 

 

 

 


さすがの手塚も観念して深いため息をついた。
少しためらいがちにその両腕を伸ばして、そっとを抱き締めた。
ぎこちない手つきで自分を抱き締めてくれる腕は優しくて温かい。
は手塚の胸に顔を埋めて、手塚の匂いを身体いっぱいに吸込む。

「えへへ。クニクニ〜vv」

手塚と目が合うとは嬉しそうに微笑んだ。そしてもう一度キスする。

「ねぇ、クニクニ。あたしのコト好き?」
「.....またそれか.....」
「クニクニが好きって言ってくれないからでしょー!!」

手塚があたしのコトを大事に思ってくれていることぐらい十分分かっている。
でも、どうせならちゃんと言葉で言ってほしい。
手塚の優しい声に名前を呼ばれて、好きだと言われたい。

「いい加減言ってよ〜!!」
「・・・・・。」

手塚は答えの代わりにに優しくキスをした。
そして、きつく抱き締める。

「もう。ずるいなぁ、手塚は.....」

は切ないため息を漏らした。
いつだって自分の弱点は手塚なのだ。
どんなに硬く揺るぎない信念が自分にあったとしても、手塚のひと声で善くも悪くもなる。
結局、振り回されているのは手塚ではなく自分自身なのだ。
いつどこで何をしていたって手塚のコトを考えてしまう自分に勝ち目はない。

 

 

 

 

 

 

 

 


「あたしの生活は手塚を中心に回ってるんだから.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は手塚の腕の中で呟いた。

 

 

 

 

 

END.
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もう、どうにでもしてな感じです.....爆
またしても訳の判らん駄文になってしまいました.....泣
もう、ダメですこの管理人。使い物になりませんね.....爆
顔洗って出直しマス!!

 

 

HARUっちから貰った第三段!!
手塚ドリー夢!!!
はうはう・・相変わらず萌える作品だわ・・。
私的に「着替えたいんだが・・・」「どうぞ?」の台詞がかなりつぼなんですけどっ!!!
いえーーー!!最高じゃ!!無礼講じゃ!!
手塚の気持ちを掴めない私としては尊敬して止まないです。
HARUっちどうもありがとうっ!!!

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