夢の中の恋人 −叶う夢−
キーンコーンカーンコーン。5時間目が始めるチャイムの音が聞こえる。でも俺はそれを無視して全速力で走った。 「英二っ!」 後ろから俺の名前を呼ぶ不二の声が聞こえる。どうして?何で追いかけてくるの? 校舎を出て、裏庭を走って、木々の間を駆け抜けても、不二は何処までも追いかけてくる。それを振り切るように走る。 だめだ…どこかに隠れなきゃ… そう思って、俺は部室のドアのぶに手をかけて、扉を開いた。そして、急いで閉めようとしたら・・・。 ばんっ! 少し空いた隙間から、不二が手を指しこんでいた。 「は…っ…ぁ。やっと止まった…。」 扉を閉めようと力を入れるけどびくともしない。逆にどんどん隙間は大きくなっていく。不二ってこんなに力あったっけ…? 「不二っ…!手、離して…。」 「嫌だよ…。何で、僕から…」 不二は手に更に力をこめる。 「逃げようとするんだ!!」 不二が大声をあげて、扉が開いた。 なんだか怖くて目をつぶったけど、次に起こったのは予想もしなかったこと。 不二は…開かれた隙間から中に入ると背中でまた扉を閉じて、そして俺の体を抱きしめたんだ。ぐいっ。と、引き寄せられたから予期できなかった俺の体は前のめりに倒れて…俺の顔は不二の胸にうずめる形となる。 しばしの沈黙。混乱する俺の頭。展開に付いていけない俺の心と体。 「な・・・。」 先に沈黙を破ったのは俺。 「何でこんな事するのさ…同情なんて…入らないよ。」 「同情なんてしてないよ。」 不二の息が俺の耳にかかる。こんなの、夢の中みたいだ。 「だって、不二軽蔑したでしょ?気持ち悪いでしょ!?」 また俺の目からは自分の意思とは関係無く涙がこぼれる。 「英二…。」 「俺達って男同士だよ?こんな感情・・おかしいよ!」 「英二、聞いてっ!」 不二が怒鳴った。俺は驚いてびくりと体を震わせた。 そうすると…不二はふう。とため息をつく。 何?あきれた? 「ごめん…怒鳴ったりして…。」 怒ってるんじゃないの?不二…。 「英二…僕はね…僕は、英二の事好きだよ。」 「……は?」 思わず声に出てしまった。 そして不二の顔を見る。それは俺の表情に表れたらしく、不二は少し不満げな顔をした。 「何その顔…信じられないの?」 「え…だって、俺のこと好きって…」 「うん。」 またまたしばしの沈黙。俺、絶対変な顔してるよ…今…。 「またまたぁ、不二は優しいからってそんな気を使わなくて良いってば。すぐには無理だけど、俺ちゃんと友達に戻れるようにするし。」 「英二…信じてないね?」 「当然じゃん。」 あっさり言う俺に不二は眉を少し上げる。あれ?怒ったの?なんで? 「僕の言う事が信じられない?」 不二があんまり真面目に答えるから俺は、こくん。とうなずいた。 「何で?英二は僕の事好きなんでしょ?」 「だって…俺達男同士だよ?」 「英二はそーゆー事気にするんだ。」 「そりゃ…気にするよ、普通は。不二は気にならないの?」 「全然。だって好きになったのがたまたま男だったって言うだけじゃない。」 だけ…って不二…。かなり重大な事だと思うんですけど。 でも不二の言った事を確認したくて、半信半疑で俺は聞いた。 「ほんと?」 「本当。」 「絶対?」 「うん。」 「ほんとにほんと?」 「英二しつこい…。」 あきれたように言う不二。 「だってだって信じられないんだもん。」 「それは僕だって同じ。」 「?」 「夢の中だけだと思ってたからね。」 ………は………? また俺の中の時間が止まってしまった。今なんて言った? 「不二…?」 「ん?」 「今さぁ〜聞き捨てならない事聞いたんですけど」 「うん、何?」 「不二も俺とおんなじ夢見てたの?」 「うん。」 ……………。 「えええええええええ!!!???」 俺は今が授業中って事も忘れて自分の感じた気持ちをそのまま言葉に表してしまった。 「英二っ!今授業中!」 俺の絶叫を聞いて慌ててストップをかける不二。申し訳無い…だって驚いちゃったんだもん。 「ご、ごごごごごごめん。」 俺は自分の両手を口に当てる。そしたら不二はクス。って笑った。 「今僕達はサボってるんだからね?忘れないように。」 「…うん。」 少し落ちついて、俺は不二の目をじいっ。と見つめた。 「あれ・・俺の夢だよね?」 話を元に戻して不二に尋ねた。 「違うよ僕の夢。」 「ちっがうよ!俺の夢だもん。」 「何でそう言い切れるの?」 「だってさぁ…不二の夢だったら俺がおぼえてるわけ無いじゃん。」 「それは僕についても言えると思うけどね。」 ………?……… 「じゃ、おんなじ夢を僕達見てたって訳だ?」 と、不二はまとめた。俺はあんまし釈然としない。同じ夢を見てたって言うけどあれはあまりにもリアルだ…。 「なんだか納得してない様子。」 見ぬかれてるし…。 しかも不二は楽しそうにくすくす笑ってる。なんだよ、もぅ! 「楽しそうだね、不二ぃ〜」 「楽しいって言うか、浮かれてる、かな?」 「俺に分かるようにはなしてくだサイ。」 なんだか不二だけが全部分かってるようで、なんだか悔しくて、俺は唇を尖らせた。 「うん、だからね。僕も英二と同じ夢を見てて、でもそれは自分が作り出した物だって思ってた。でもすごくリアルだからもしかしてって思ったけど、期待を抱かないようにしてた。」 「なんで?」 「だって、絶対に叶う事の無い恋心だって思ってたし、割りきってないとなんだかぼろが出そうだったから。」 うん?不二も同じ事思ってたわけ? 「それに、こんな非現実的な事ありえないと思ってたんだけど。」 「悪かったですね〜夢見る少年で。」 「ふふ、そこが英二の良い所だよ。」 そう言って不二はゆっくりと俺の頬へと手を伸ばして、ゆっくりとなでた。 にゃ−、なんか気持ちいな〜って猫か、俺は…。 「でも、英二がなんだか僕を揺さぶるような事したりしてたからもしかしてってまた思っちゃったりしてさ。」 ああ、約束の事ね。 「それでさ、英二があいまいな態度示すもんだから僕もなんだか歯止めがきかなくなっちゃって、夢の英二ならやっちゃっても良いかなって思ったりもして。」 ………やっちゃうって何を?汗。 「でもよかったよ、だって夢は本当だったんだから。ほとほと自分の理性の強さにおどろき。」 それじゃ、あの時逃げなかったらどうなってたんだろ?汗。汗。 「そしたら英二が口火を切ったってわけ。」 そこで不二は話すのを止めた。 「大体…分かった。」 わかったけど、確認しなきゃいけない重要な事がまだ残ってる。 「それじゃ、俺不二の事信じて良いの?不二は本当に俺の事…。」 「好きだよ。」 その言葉を聞いて、俺は自分の心臓が止まったかと思った。 それで、今度こそ本当に安心して不二に抱きつく事が出来たんだ。 抱きつれた不二はそれに答えるように手を背中に回してくれた。 たったそれだけの事だけど、俺は嬉しくて嬉しくてめまいがするかと思った。 「英二は?」 「にゃ?」 「僕の事どう思ってるの?」 「分かってるくせに…。」 「英二の口から聞きたいな。」 にっこり笑顔。うっ…逆らえない…。でも、なんか改まって自分から言うとなると恥ずかしいんだよね。 「さっき言ったじゃん。」 渋る俺。 「言わないと、僕も英二のこと信じられないなぁ?」 追い討ちをかける不二。 むぅ。と、俺は思ったけど意を決して唇を不二の耳元に寄せた。 「ダイスキ。」 小さな声で不二にだけ聞こえるようにささやく。 ぷっつん。 ?何、今の音…。 不思議に思って不二の事見て俺は…真っ青になった。 そこにいたのは先日俺のこと襲うとした不二がいた。目は少し開いていて、瞳の中の炎が燃えている。 …ブラック降臨… 瞬間俺はそう思った。 「不二…?」 不安げに不二の名前を呼ぶ俺。でもまだ不二の炎は消えない。 なんかまずくないっすか?この状況…。 そんなに不安げな表情をしていたのか、不二はゆっくりと目を閉じて深呼吸をした。 「平気だよ英二。いくら僕でも思いが通じたその日に、しかも部室で頂こうなんて思わないから安心して。」 声音は穏やかだけどなんか変な空気が混ざってるんですけど…。 「…と、思ってたんだけどね。」 は・・・い? 「さっきの英二があんまし可愛いかったから我慢できそうに無い。」 それって… 「味見させて?」 にっこり。 ……………一呼吸あいて俺は叫んだ。 「ええぇぇ?味見!?」 「大丈夫、少しだけだから。それとも今ここでじらして後で辛い思いする方が良い?」 「…どうぞ味見してください。」 不二…それじゃぁ強迫だよ。 「それじゃ、ちょっとだけね?」 そう言うと不二はゆっくりと自分の顔を俺に近づけた。 ゆっくりと口付けられる唇。柔らかい感触。触れるだけの、優しいキス。 唇をはなすと、不二は満足げに微笑んだ。 「ごちそうさま。」 俺は、かあああ。と顔が赤くなる。 にゃに?夢の中でキスなんて何回もしたのに、なんでいまさらになって照れるんだ? そんな疑問を抱いた。でも俺の心臓はすごい速さで鼓動する。 「心臓…すごく早いね?」 気付かれて、俺はますます赤くなる。自分の血液が沸騰してしまいそうだ。 あれ?でも…。 「不二もね?」 良く考えたら早いのは俺だけじゃなくて不二もだった。それがなんだ嬉しくて、にっこりわらった。 「ふふ、ばれちゃったかな?」 でも不二はなんだか俺と違ってすごく余裕がありそう。 「でもにゃんでキス?」 「ん?続きもして欲しい?」 「い、いいいいです。」 「言うと思った。」 口元は笑みを浮かべたまま目を閉じる不二。もしかして気遣ってくれたとか? 大切にされてるのが分かって、ますます幸せになって俺はポス。と不二の胸に顔をうずめた。 「今のは軽いキスだよ。」 「え?そうなの?」 「英二はそう言うの知らなそうだから教えがいあるよね。」 そう言ってふふふ…。と怪しげに笑う。今は表情見たくない…。 「キスの仕方も、それ以上も僕が徐々に教えてあげるから。」 それって、やっぱ俺が「受け」ってこと?でも、そんな事は怖くて聞けないし、っていうか聞いたら今度こそ何されるかわかったもんじゃないから黙っておこう。うん。 「でも、何で不思議な事が起こったのかな?」 一抹な不安を抱きつつ、考えないようにして不二に尋ねる。 「神様のおかげじゃない?」 「神様?」 「違うかな?」 「うーん、そうかもね!」 「僕、神様とかって信じないけど今なら感謝しても良いな。」 不二は嬉しそうにて俺の髪をなでた。 だったらそれでも良いと俺は思う。 髪の仕業であれなんであれ、俺達を引き合わせたのには変わりはないのだから。 小説置き場へ |