― 烏の涙 ―





あの黒い烏のように、不吉を呼ぶのが僕なのかもしれない。
何故なら、君を引きこんだのは僕なのだから。

残り物をあさるなんてプライドを壊すような事はしない。

真正面からぶつかって。


そうして



自分が壊れてしまっても。



彼はそれがわかっていたら、きっと僕を突き放したりしないという事を





知って手塚を罠にハメタ。






だって














好き    だった、から。






卑怯だよね。ずるいよね。

だけどごめんね。
君から目を離せなくなったあの日から

君から心を奪われたその日から   




どんな犠牲さえも払っていいと僕は思うよ。







































――――――――



図書館で手塚の姿を見つけて僕はゆっくりと歩を進めた。
艶のある少し長い黒髪が、光に当たる。
大きな窓のすぐそばに、手塚は座っていた。










綺麗










君は本当に綺麗だよね。
僕をここまで本気にさせたんだから、さ。












「・・・・・・・・手塚。」



声をかけたら眼鏡越しに瞳がこちらを向いた。
黒塗りの瞳が僕を見つめた。
戸惑う色。

知ってるよ

まだ君が踏みこめていないって。





分かってはいても、それは顔には出さずに微笑を浮かべる。




僕の行動全てが






























君をはめる罠だって・・・・・・知ってた?

























「・・・・・・・・・不二、どうした。」

「どうもないよ。君の姿を見つけたから。」




お堅い君のことだもの。
僕が好きだという気持ちを隠したいのは分かっているよ。
受け入れられないのも分かっているよ。


気持ちを伝えていない僕をもどかしいと思う?
                   ずるいと思う?
                   卑怯だと思う?





それでも、君は僕のことを好きなんでしょう?



分かっているから口元を歪める。

大好きな君だから






苛めぬいて












そうして僕のことだけを考えられないようにしてあげる。



















「手塚は読書家だよね。」

「そうでもない。」

「そ?でもよく図書館にいるよね。」

「かもな。」

「くす。」


僕が手塚の目の前に座ったからちょっと安心した様子を見せた。
まさか。
隣りに座るようなことはしないよ。


へまはしない。


だけど、油断は禁物だよ?手塚。












手塚が僕のことを好きだって分かっていながら踏みこまないのは臆病だからじゃない。
不安も恐怖もなにもない。

あるのは自信だけだ。



だけど手塚のなかには別のやつが場所を占めているのを知っているから。


だから、まだ踏みこまない。




その感情が僕に与えられるのと違うと知ってはいても





僕はそれさえも許せない。






























越前 リョ―マ


















君だって、手塚のことが好きなんでしょ?














「手塚、越前と試合した?」

「・・・・・・・・なんでしってる。」

「知ってるよ。君のことなら、全部・・・ね。」

「・・・・・・・・・・・・。」

くすりと笑ったら顔をしかめた。
こんな言い回しは卑怯だと罵る?
また、それもいいね。

「気になるの?新星の事が。」

「別に。」

「嘘ばっかり。秘密特訓してるくせに。」

「・・・・・・・・・・・・本当に、お前には全部お見通しだな。」

苦笑した表情。
とても綺麗。
その表情はとても好き。


僕の芯を熱くさせるから。

もっとも、言わないけどね。

















「越前のことが・・・すき?」



微笑んで、聞いてみた。
どう答える?手塚。

「・・・・・・なんでそんな事。」

「聞いてみたいだけ(にっこり)」

「お前には、関係ない。」





























残念、越前。君に希望はないよ。
































「・・・・・・・・・・(不二は・・・ずるい・・・)」

「(手塚・・・可愛いvv)」



























でもね、少し寂しい気持ちもあるんだよ。
だって君と僕は違う。
僕は有利に立ってるはずなのに、負けてる気がするんだ。

僕は君になれない。
君は僕になれない。


「天才」と「超人」の壁はあまりにも厚い。

越前のほうがずっと君に近い場所にいるよ。






許せない。だから、手塚自身は越前にあげないよ。






「・・・・・・・・・不二・・・?」

「え、なに?」

「さっきから・・・ぼーっとしてる。」

しまった。ちょっと油断したな。
てか手塚天然のくせに結構やるじゃん(なにがだ)

「なんでもないよ?(にっこり)」

「・・・・・・・・・・・・・。」




にっこり笑顔で笑ったのに、途端に手塚の表情が曇った。
と、いうか。
怒っていた。

なんでかなぁ?データ―にないよ(乾じゃん)









「・・・・・・・・・・お前は・・・・・・・嘘ばっかりだ。」












驚いて、目を見開いた。
そっぽを向いて拗ねてる手塚が可愛い。
いや、そんな事よりも。

何かを隠す笑顔に手塚は気付いた。










普通なら、焦るはずだけれど。
















「・・・・・・・そう。」

「なに、笑ってる?」



淡く微笑む僕に手塚はぎろりと睨みをつけた。
かたりと席を立つ。


「・・・・・・・・?」



笑いながらゆっくり身体を前に倒した。
手塚はまだ気付かない。

























甘いよ。


































・・・・・・・・・・・・・ざぁ・・・・っ

風が外で吹いて、窓が揺れた。
窓の外で木の葉のダンスが繰り広げられているのを視界に入れて顔をはなす。
綺麗な顔が、僕の好きな手塚の顔が驚愕の表情をしてる。


だまらないね。











もういちど、微笑すると僕は立ち去った。
それこそゆっくりな足取りで。




































その場に残された手塚はしばらく石になっていたが、我に帰ると頬を赤く染めた。
耳まで夕日色に染め上げ、手の甲で唇をぬぐう。


ごし・・・




「・・・・・・・・・・・・・なんなんだ、あいつ・・・。」



かき乱された胸が痛い。
不二の考えてる事が分からなくてさらに痛い。
理解しようとすればするほど遠くに行ってしまう存在。

唇が離れながら、瞳を見つめられた。
茶の開かれた瞳は悪戯げに妖しげで。
























とても   綺麗だった。



































僕は手塚になれないし。
手塚は僕にはなれない。


天才は超人にはなれない。
超人は天才にはなれない。


天才の言葉がこんなに嫌なものだったとはね。
言われる度に君と違う「モノ」だって思い知らされる。

近い存在だと思うものこそ遠いものだ。

その距離は縮められない。



越前には渡さない。

テニスの部長は越前に上げたんだから



















手塚国光ぐらい、僕にちょうだい?

















すたすたと誰も居ない廊下を進める。
髪がさらさらと揺れた。






ぴたりと足を止める。



ふらついたように壁に背中をあずけた。


どすりと背中に衝撃。
淡い痛みが肩に広がる。

視線を床に向けたので横髪が表情を隠す。
さらさらと髪が頬をなでる。











「・・・・・・・・・・・・・はぁっ・・・。」





身体が熱い。
欲情する。

唇が熱い。
まだ感触が残る。









瞳からは

























涙が零れ落ちる。

雫となって川の様に。













口元は歪む。笑みの形に。




























だって君の感情は  僕のモノ。
僕だけのモノ。

それが嬉しくて。

自惚れてもいいってわかったから。




君の胸をわしずかんだみたいだ。





なぁんて良い気持ち。
























電柱の上にたたずむ烏のように、獲物を狙う烏のように

君を見つめ続けてあげる。




そのうち、君が僕無しでいられないと言ったら



そしたら君を抱いてあげる。




僕の全てをあげる。












僕の全ては

僕の行動は










全て君をはめる為の罠だと言う事に



























早く気付いて?






































――――――――――――
それは、歪んだ感情。
メビウスの輪。



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