恐怖の大魔王が降り立つ日
今日は、日曜日。 んでもって、青学レギュラー全員で不二の家で勉強会。 どんなにテニスが出来て、どんなにかっこ良くてもテストはあるだけで。 しかもテストで赤点をとると補習・・・・・・悪ければ再テストが待ってるわけで。 そうすると、練習も出来ないわけで。 つまり、試験前は結構皆追いつめられてるという事だ。 「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・?」 「英二、駄目でしょちゃんと考えないと。」 教科書を見て、唸って、そんでもって飽きてしまっている英二を見て、不二はため息混じりに言う。 「だぁってさ、わかんないんだもん。」 「分からないからってあきらめちゃ駄目。」 「不二は勉強の事になるとスパルタだよ〜〜〜〜ιι」 「当然でしょ。それにこれは英二の為だよ?」 「分かってるけど〜〜〜〜〜」 分かっている。自分の為に厳しくしてくれてるという事は。 けれど、どうして「一文字」しか違わない単語にこうも苦しまなくてはならないのか。 たぁった一文字なのに、こんなに好き嫌いの差があるなんて不公平だ・・・。 英二はそんな事を、思う。いったい何が不公平なのか。 机に突っ伏して、外に散る桜を見る。 「良いなぁ・・・お花見。」 「・・・・・・・・・・・・・英二。」 どうやらまだやる気になれない英二に、ぴしゃり。と冷たい声がかけられる。 「わ・・・・・・・わかってるよぅ。」 「わかってないでしょ、全然。」 「だって嫌いなんだもん、勉強。」 「好きな人はいないよ。」 「でも、不二はできんじゃん。」 とうとうスネモードに入ってしまう英二。その姿を見て少しうんざりする不二。そして、ため息。 「あのね、僕だって努力してないと出来ないよ?」 「でも、できてんじゃん。神様は不公平だ〜〜〜〜〜〜ιι」 「ま、まぁまぁ英二。渋ってたってどうしようもないんだからさっさと終わらせよう、な?」 二人の会話を先ほどから聞いていた大石が口を挟む。 英二の視線が不二から大石へと、移る。 琥珀色の瞳の中に、大石の姿が映し出された。 「・・・・・・大石ぃ。」 「大石、甘やかしちゃ駄目だよ。英二はすぐに調子に乗っちゃうんだから。」 不二はあくまで勉強はスパルタだ。なので、大石に文句をつける。 「でも不二、時にはリラックスも必要じゃないか?」 「そうだそうだ〜〜〜〜!!」 そんな三人の会話を聞いて、他のレギュラー達ははらはらとしていた。 この三人のいつもの事。 そして、しまいには不二がブラックと化してしまうこともいつもの事。 そして、今。 そんな「いつもの事」が始まろうとしている。 当の本人達は何も考えていなくとも、その場にいる人達にとっては多大なる迷惑な訳で。 しかも今英二が大石の味方をするという最悪の事態。 来るぞ・・・・ 嵐の予感を感じて、息を飲む。 そして。 「それもそうだね。それじゃ、お茶にしようか。」 にっこり。 あれ? 「大石も良いこと言うね。英二はココアが良い?」 「うんっ!!やったーーー!!」 あれれ? 嵐は、皆の期待(?)もむなしく、来なかった。 あるのは、お花を周りに振りまく笑顔の不二。 喜んでる英二。 それこそ意味がわからないという感じの大石。 当惑する・・・・・・その他レギュラー達。 ぱたん。と、扉が閉じて、英二以外が一斉に顔を見合わせる。 「・・・・・・一体どうしたんだ?不二は。」 そう切り出したのは、大石。 一番動揺しているのが彼。 不二の最大にして最悪のライバル(少なくとも、大石はそう思ってる。不二が「眼中に無し」と考えてる事は伏せておこう)なのだから。 不二の態度がおかしいと感じても不思議ではない。 「何か、あるな。」 次に口を開いたのは青学データ―マシーンの乾。 早速ノートを取り出している。 一体何を記録するのやら。 「なんか変なもん食ったんじゃないっすか?」 「越前、あの不二がそんなありきたりな事すると思うか?」 「・・・・・それもそうっすね。」 さすが大石は不二のことを良く分かっている。 そんな簡単な理由で片付けられるはずがないと、越前をたしなめる。 「えーーーー?何々皆、なんの話?」 無邪気に話に突っ込んでくる英二。 視線が、集まる。そして、ため息。 「にゃ・・にゃに、皆。ため息なんかついちゃって・・・・・・。」 そう、いつもいつもいつも・・・・・・・原因は「菊丸英二」なのである。 しかも、本人自覚無し問いからこりゃまたすごい。 しかし、気付いていないのだろうか? 戦いのゴングは・・・・・・・もうすでに鳴っているということに。 ―第一ラウンド― 手塚は他のレギュラー達の会話を聞いて何を思ったのか席を立った。 そこですかさず越前の声がかかる。 「部長、どこにいくんスか?」 「……・・トイレだ。」 「分かりました、不二先輩の様子見に行くんですね。」 誰もそんな事を言っていない。 けれど、王子には全部お見通しのようである。 少しだけ眉をひそめて、手塚は部屋を出て行った。それを見守るレギュラー達。 「……………・部長も心配性なんだから。」 王子は、閉まったドアを見つめて、仕方ないなぁ。と独り言をもらしながら呟いた。 手塚は部屋を出るとトイレには行かず、そのまま一階の台所へと足を向ける。 まさに、越前の言ったとおりに。 ……・・なんで分かったんだ…・。 そんな事を、思う。 一方、不二はというと。 真っ白なエプロンを身にまとい、鼻歌交じりに本を見つつ鍋をかきまわしている。 紅茶を作るのになぜ鍋が必要なのか…・。 それはおいといて、不二が読んでる本の題名…。 「邪魔者を一掃できる"簡単楽しい"紅茶の入れ方vv」 ………・・明らかに怪しい。 「不二。」 そんな不二にかけられる声。くるりと振り向くと、声の主は台所の入り口の一歩手前で立っていた。 「どうしたの?」 気づかれないように、ゆっくりと本を閉じる。 そして、にっこり笑顔。 「いや、どこか……・具合でも悪いのか?」 あまりにも率直な質問に、不二は驚いた様子で目を見開く。 じっ、と手塚を凝視して、そして、吹き出した。 「……・なにがおかしい?」 「いや…・くく…ごめん。だって、さ。あんまりにも手塚らしくって。」 そのまま腹を抱えて必死で笑いを止めようとする。 まだ笑いが収まりそうにも無い不二を見て、手塚は眉をひそめた。 「元気そうだな。」 「ふふっ、機嫌を損ねないでよ。僕としては嬉しいんだから。」 そこでまた不二はにっこりと笑う。実に楽しそうに。 「何も無いなら、部屋に戻る。」 少し不機嫌気味に、その場を離れようとする手塚。 そんな手塚に制止をかける声。 「ぁ、ちょっと待って。」 「?」 足を止めて振り返ると、一歩ほどの距離を開けて、不二は立っていた。 そして、口を開く。 「あのね、特別に良いことを教えてあげるvvv」 「良い事?」 「そう。」 こくり。と頷いて、唇を耳元に寄せた。 そして、甘くささやく。 「………・そんなに越前が大切なら、今すぐ帰ったほうが良いと思うよ。そう、今すぐにね。」 耳元でささやかれて、思わず身体を引く。 本能的に感じる……・危機感。 「ど、どういう意味だ・・。」 「ふふっ、詳しく…知りたいの?」 細めの瞳がうっすらと開けられる。 口元には、微笑。 「――――――――っっっ!!!」 手塚はじりじりと身を引くと、一気に駆け出した。 遠ざかって行く足音を耳に残して、不二はまた本へ視線を戻した。 「……・可愛いなぁ、手塚は。でも、あれが越前のものだって事が壁だよね。」 では、越前のものではなかったら手を出していると言う事なのか? 「あ、そうそう。あと必要な物はなんだっけ?」 そう言って、本を見なおす不二。 「えーーーーっと……ねずみ丸ごと一匹に、とかげの尻尾に、蛇の抜け殻に、こうもりの羽。………こうもりの羽?」 そこで少し考えるように天上へと顔を上げる。 そして、「あぁ。」と言ってぽむ。と、手を鳴らした。 「そっかそっか。あれは他の戸棚に移したんだった。」 ………どうやら不二家にはなんでも揃ってるらしい。 手塚は一気に階段を駆け上がるとそのまま部屋へと向かう。 そして、思いっきりドアを開けた。 「越前っっ!!!!」 突然名前を呼ばれた越前は驚きを隠せない。 黒い瞳は手塚へと向けられる。 「どうしたんすか、部長。そんなに息切らして。」 「すぐに身支度を整えろっ、帰るぞっ!!!」 「はぁ?なんで…・。」 「良いから言う通りにしろ!」 沈着冷静。仏頂面の手塚がいつもと違う行動をとっているので驚きつつも言う通りにする。 「……分かりましたよ。もぅ。」 そんな事を漏らしてため息をつく。 そして、手塚のかばんを取ると差し出した。 「はいどうぞ。」 「あ…・あぁ…。」 受け取ったものの、その行動は明らかに不信。 まるで何かに怯えてるような……・そんな状態。 そんな手塚を横目でちらり。と見て、耳元にささやきかける。 「……まぁ、いいや。後で部長の家でゆっくりと説明してもらいますから。そう、ゆっくりとね。」 「!?」 本日2度目の耳元攻撃に手で耳をガードする。 王子の不適な微笑み。 「…な…・・。」 「さ、行きましょう。」 そう言ってすたすたと歩く。それを追いかける手塚。 「ちょ、ちょっと待て、家ってどういう事だ!!!」 「どういう事って、まだ勉強が終わってもいないのに帰ろうって言ったの部長じゃないっすか。それじゃぁ、部長の家で勉強の続きをするのが筋ってもんでしょ。」 「……・確かに、それはそうだが…・。」 越前の言ってる事は正しい。だけれども、どうもふに落ちない。 「それに、今日部長の家誰もいないんですよね。」 にやり。と口の端を上げて王子は笑った。 (………・それが目的かっ!!!!!) 結局、手塚に逃げる道は無いのだった。 第1ラウンド。不二の勝ち。 脱落者、「手塚」「越前」 ―第2ラウンド― 二人いなくなった部屋で、大石がまたもや口を開く。 「……・どう思う、さっきの手塚の態度。」 「……怪しいな。」 そんな大石の言葉に返すのは、乾。 なにか…ノートに、かきかき記録を残しているようだ。 乾は動かしてる手を止めて、しばし考える。 そして、手塚と同じように席を立った。 「乾?」 「……今度は俺が見てこよう。」 「は?」 「良いデータ―が、取れそうだ。」 その台詞は乾の十八番(おはこ)。 にやり。と笑う。 けれど、不二相手にそれは自殺行為。それは乾も十分承知のはず。 「……・先輩…。」 不安げな声を漏らすのは海堂。 そんな海堂に向かってメガネの下の瞳が緩む。 「大丈夫だ。」 「でも…。」 「好奇心に勝てない俺を許してくれ。」 そう言って、乾は部屋を出て行ったのだった。 ラブコメ野郎達は置いといて、こちらは不二サイド。 白装束を身にまとい、木々さえ寝静まる子の刻。 否、今は現代時間午後3時なのだが。 カーン・・カーン…・と静かな空間に音が鳴り響く。 不二家の御神木に藁人形に釘を打ちつける不二の姿がそこに、いた。 口元には、うっすらと微笑み。 けれど、その瞳は真剣そのもの。 「……・このぐらいで、良いかな?」 そう言って、藁人形を木から取り外す。 足元には、他4体の藁人形が置いてある。 ふーーーっ。と、満足げに汗をふき取って、不二はまた台所へと向かった。 「今は15時だけど。仕方ないよね、急ぎの用だもの。神様もきっと許してくれるはず。」 そう、ポツリと独り言をもらす不二。 ていうか、まず呪いの藁人形の儀式は人間的にゆるされるものなのか? 一方こちらは乾サイド。 乾は、今やぐつぐつと煮わたる鍋をじっと見ていた。 そして、テーブルにおいてある…・モノ。 籠に入った、生の、生きたねずみ一匹。 乾のノートにはこう記されている。 "不二の台所に上手く潜入。中にはぐつぐつと煮わたっている鍋がある。そして、近くには生のねずみ。どうやら何かに怯えてるらしい、プルプルと先程から震えている。不二は一体これを何に使おうとしているのか。そして、さっきから遠くに聞こえる何か釘を打ってるような音は一体なんだ?まだまだデータ―が足りないもよう。" 「乾。」 自分の名前を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、そこには不二の姿。 「…不二。」 「一体どうしたの?乾まで。あ、もしかして待ちきれない?」 にこにこにこ。と、相変わらず爽やかな笑顔を見せる不二。 「いや、紅茶を作るのに鍋が必要なのかと。」 「安心して、見られたからには乾と海堂の分は外しておいてあげる。」 ふっ。と、笑って、不二は鍋の中にぱらぱらと藁をいれる。 「……・その藁は、一体なんだ?」 「詮索しない方が良いよ(にっこり)」 まとってる空気はいつもの不二そのもの。 やんわりとした、空気。 (……・確かに、確かに花は舞っている…・が。言動がおかしくないか?不二) そんな事を思いつつも声には出さない。 変わりに、別のことを言った。 「……紅茶を淹れているところすまないが、帰って良いか?」 「流石乾、賢明な判断だねvvv」 がちゃり。と、扉を開く。 「ぁ、乾。どうだった?」 大石の問いに少し考えて、口を開く。 「…・・何も見なかったぞ、俺は。」 「は?」 「帰るぞ、海堂。」 言って、さっさと帰り支度をする乾。その姿を見て、自分もまた身支度を整える海堂。 そして、あっという間に用意をした二人は戸口に立って、振り向いた。 「それじゃぁ、お先に。」 かくして、残り人数英二を含め4人。 第2ラウンド。不二の譲歩により引き分け(見られちゃったからネ)。 脱落者「乾」「海堂」 ―第3ラウンド― 挑戦者。桃。 ぞくり。という寒気を感じて、桃は身震いをした。 嫌な感覚が背中に走る。 「どうした?桃??」 英二は心配そうに桃を覗きこむ。 そんな英二が可愛くて、桃はにこりと笑った。 「大丈夫ですよ、英二先輩vv」 けれど、感じる寒気は消えないし、嫌な感じはどんどん増えて行く一方だ。 だから、大石ともう既に存在を忘れかけられていた河村に尋ねる。 「あの、なんかこの家、変じゃないっすか?」 「変って?」 そう聞いたのは、河村。 そこで、また桃は身震いをする。 「上手く言い表せないんですけど、この家を囲んでる空気、尋常じゃないっす。」 「そうか?俺は感じないけどな。」 そう言うのは、大石。 二人とも、とくにこれと言ったものは感じないらしい。 「…俺、昔から変な物見る事多いんすよ。」 「……・それ、霊感があるって言うんじゃないのか?」 鋭いつっこみをいれる大石。当惑する桃。 「そうっすか…?」 「とりあえず、帰ったほうがいいよ、桃。」 ラケットを持たない河村は大人しいもんである。 これでは気付かれないの理解できるのではないか(ひどい) 「そ、それじゃぁ、不二先輩によろしく言っといてください。」 「えっ、桃帰るの!?」 英二は大きな瞳をいっそう大きくして桃を見上げる。 青い顔をして、それでも微笑む桃。 「はい…・すみません。」 「それはいー―って。お大事になっ、まじでっ!!」 やはり桃も他のレギュラー同様英二には弱い。 ちょっぴり幸せを感じつつ、荷物をまとめて部屋を出た。 青学一頑丈健康と言われる桃だが、内なる力には流石に敵わなかったらしい…・・。 部屋を出て、一階へ降りる。そして、玄関へと向かう桃。 まさに玄関へ近づく数歩前。 桃の前に出された…………・・足。 びったん!!!! 豪快に転んで、ずざざっ!!と前へ倒れる。 「…・っ…・な、なんだぁ?」 鼻をさすさす、さすりながら桃は周りの様子をうかがう。 聞こえるのは、くすくすとこぼれる笑い声。 「?…・・不二先輩…。」 桃の横には立って笑っている不二がいた。 人差し指を口元に当てて、くすくす笑っている。 「桃…平気?」 心配そうに、桃に尋ねる。差し出される、手。 「(……・・今の明らかに……先輩じゃなかったか?)」 疑問を感じつつ、手を取る桃。そして、立ちあがる。 「平気です。」 「そぉ、良かったvvそれで、どこに行くの?」 玄関の前に立ちはだかって、不二は尋ねる。 周りには、相変わらずのふわふわ舞っている花達。 「(……・花…花が舞ってるよ…・ιι)」 どうやら桃はそういう物まで見えるらしい。 明らかに不自然な花を見て怯えつつ、答える。 「…・いえ、なんか気分が悪くなったので・・。」 「そうなの?平気?」 見かけは、後輩を心から心配する良い先輩。 だけれど、桃には見えてしまうのだ。 「(……・不二先輩、肩になんか乗ってますよ〜〜〜〜〜ιι)」 あえて、それは言わないでおく。否、確認するのがただ単に恐かっただけの事。 「…はい。それじゃぁ、すみません。」 「ううん、良いよ。また来てね?」 にっこり笑顔。 しかし、今の桃にはその笑顔すらさえ恐いと感じる。 少し距離をとって、不二の横を通りぬける。 「ハイ。機会があったら、また。」 精一杯の笑顔を浮かべて、なんとかその場を乗り切る桃。 玄関の扉が閉まるのを見て、不二はこう言った。 「………残念、くす。ま、いっか。後二人残ってるしvv」 第3ラウンド。不二の圧勝。 脱落者「桃城」 ―最終ラウンド― 「…・河村…・・。」 「何?大石。」 「とうとう俺達二人だけになったな。」 「え?英二もいるよ?」 「ちがうっ。俺が言ってるのは不二と戦うやつってことだ!」 「戦う?不二と?」 「そうだっ。あの悪の権化は一体何をするか分からないぞ。」 「まさかぁ、大石。考えすぎだよ。あの不二がそんな事するわけ無いじゃない。」 「甘い、甘いぞっ、河村。お前はヤツの事知らないからそんな事言えるんだ…。」 そんな会話をあくまで小声で話す二人。 そして、とうとう最終ラウンドの鐘が響いた。 合図は、不二が扉を開ける、音。 「あっ、不二〜〜〜〜も〜〜〜〜ぅ、遅いっ!!」 先に不平をもらしたのは、英二。 それはそうだろう。なぜなら不二が部屋を出て行ってからもう既に1時間は経過していたのだから。 「ごめんね、ちょっと色々凝っちゃってて。はい、ココア。」 優しく笑って、ココアを英二に渡す不二。 渡されて、一気に英二の顔がほころぶ。 「しょうがないなぁ。でも不二の作ってくれるココアは美味しいから許してあげる!」 「(……食い物で釣るか、不二)」 不二の行動を一つも見逃さない勢いで観察する大石。 そんな大石をよそに、二人はとても仲睦まじく話している。 「(……・・っっ、羨ましい……)」 結局は、ただ単にそう言う感情で動く大石。 「二人とも、ごめんね?待ったでしょ。」 そう言って、カップを差し出す不二。 その笑顔は、天からの使者そのもの。 「・・来た…・・ついに来たぞ、河村…・。」 「大石、本当に……・不二ってさ…。」 「しっ。聞こえるぞ?」 「なんだかなぁ。」 しつこいようだが、あくまで小声で話す二人。 そして、先に切り出したのは大石だった。 「不二、その・・言いにくいんだが…・。」 「?なに?」 にっこり笑顔。 「(……・っ、騙されるな。大石秀一郎、この笑顔に流されるなっ!←注:必死)あのさ、俺、不二のカップが良いんだけど、良いか?」 明らかに、怪しいことを言う大石。しかし心の中で葛藤しているので、そんな事は気にしない。 だが、世間一般から見たならば、男の、しかも仲間のカップで飲みたいなどとは……・ただの変態。 「(大石…・それじゃぁ怪しいよ。)」 流石の河村も、そう思う。 けれど、当の不二はとてもあっけらかんとしたもの。 相変わらずの笑顔で、素直に応じた。 「うん。良いよ、どうぞvv」 そう言って、自分のと大石のとを変えるとそのまま紅茶(らしきもの)を飲んだ。 喉が、こくり。と上下するのを呆気しながら見る二人。 飲み干しても、不二の表情は変わらない。 「うん。時間かけただけあって、上出来。」 実に満足げに微笑む。その姿を見て、河村は当惑した目で大石を見た。 「…・大石、やっぱり君の間違えだったみたいだけど…。」 「…あぁ・・。」 ぼそぼそ。と話す二人。そして、遂に大石が……折れた。 「すまない…・不二、疑ったりして。」 「うん。俺も、ごめん。」 ぺこり。と頭を下げる河村。 そんな二人を静かに見つめる不二。訳が分からないという感じの英二。 「……・なに言ってるの、二人とも。言ってる事が分からないよ。」 「え?」 二人とも、同時に顔を上げる。その目に移るのは、優しく微笑む不二の姿。 「なにも悪い事なんてしてないじゃない。ほら、早く飲まないと紅茶が冷めるよ?」 この不二の言葉に、もうなにも言えない様子。 「……・不二…・・お前って奴は…・。くっ。俺は、自分の事が恥ずかしい…。」 「やだなぁ、大石。僕達…・友達でしょ?」 ぽんぽん。と、肩を叩く。大石は、目に浮かんだ涙をふき取って、爽やかに笑った。 「そうだな、さぁ、河村。不二の入れてくれた紅茶を飲もうじゃないかっ!」 「ぅ、うん…(随分な変わりよう…・)」 紅茶を一気に飲み干す二人を見て、不二は内心ほくそえむ。 (謝りたいのは僕のほうだよ。ごめんね、二人とも・・ふふっ) 10分後、机に突っ伏して熟睡する二人の姿が、そこにあった。 それを、開いた口がふさがらない状態で見る英二。 明かに…固まっている。 「ふ…不二?」 「なに?英二?」 「二人とも…・どうしたの?」 「安心して、害は無いから。まぁ、少しだけ悪夢にうなされると思うけどね。でも、捕まって英二も犯罪者の恋人は流石にいやかなぁって思ったから息の根は止めてないよ?」 相変わらずの、爽やかな笑顔。お花も、健在だ。 けれど、そんな笑顔を浮かべつつ、不二はこんな事を思っている。 (本当は、三日三盤晩うなされるんだよ…・そう、もう2度と僕達の邪魔が出来ない程に、ね。ふふふ…・味わうがいいよ、二人とも。僕の…・最高傑作をね。) 表は天使、裏は悪魔とはまさにこの事。 心の中でくっくっくっ…と笑う。 「い、息は止めてないって、なに恐い事いってんの!!」 「あぁ、そうだよね。一気にレギュラーがいなくなっちゃったら試合困るよね。良い所つくなぁ、英二。」 ふむふむ。と、本当に感心している様子の不二。 「そう言う問題じゃないじゃんっ(ていうか、そんな事言ってないよっ)。二人に何をしたわけ!?」 「なにって、僕は英二と二人きりになりたかっただけだよ。」 「はぁ?だったら最初からそうすれば良いじゃんっ。」 「皆で勉強した言って言い出したのは英二だよ?だから…だから僕は…英二の願いを叶えてあげようとしたのに、そんなのひどいよ…。」 しゅん。とうなだれる不二。それを見て、少しうろたえる英二。 だから、不二の元へそろそろと近づく。 「ぁ…・ご、ごめんね、不二っ。俺、不二がそんなふうに考えていた事知らなくて。でも、さ。やっぱりこんなやり方は良くないよ、ね?」 まるでこどもに言い聞かせるように不二に言う。 そんな英二を見つめる不二。 「…・・そうだよね…・ごめんね、英二。」 「んーん。分かってくれれば良いのvv」 言って、英二はぎゅーーーーーーっと不二を抱きしめた。 (……・やっぱり、英二相手には下手に出るに限るよね) にやり。と、笑う不二であった。 「にしても、不二?おんなじ紅茶飲んだのに何で不二だけ眠ってないの?」 「やだなぁ、英二。あれぐらいの強さじゃ効かないってばvv」 (不二・・・・・・・・・・免疫つけてるわけ?) そんな事を英二は思って、不安になった。 「それじゃぁ。早速勉強、始めよ?」 寝てる、否、うなされてる二人は無視して不二は言う。 「えー――――っ、勉強するのぉ?」 「当然でしょ、何しに来たの、英二。」 「そ、そうだけどぉ。」 「それにね、英二が赤点とって、ますます二人の時間が減るあげくに、英二の再試の面倒見るなんてごめんだよ?」 つんつん。と、鼻の頭をつつく。むぅ。とする英二。 「わかったよぅ。でもさ、不二ちょっとスパルタ過ぎ。」 「そうでもないと、しないでしょ?」 なんでのお見通しの不二。そこでまた英二は、むぅ。と唸る。 そして、首をぺたんと机の上に乗せた。 そのまま、不二を見上げる。 「もうちょっと……優しく教えて?」 ぴしゃぁぁぁぁん!!!! 不二の身体に一気に電流が走る。 「…・っっっ…(やば・・英二…・可愛い…・可愛すぎ……・)」 殺人的英二の態度(本人自覚全く全然無し)に男の性を刺激される。 思わず背を英二に背を向ける。その肩は、少し震えて…いる。 震えてる不二を見て、心配そうに近づく。 「ふ…不二?どうしたの?何か…。」 「近づかないで、英二。」 不二としては、自分の理性を保つのに必死だったのだが、英二にはそう捕らえられなかったらしい。 どうやら傷ついてしまったようだ。 先程の自分の言動に不二が怒ってしまったのだと勘違いした英二はさらに不二との距離を縮める。 「ねぇ、不二。さっき言った事おこってるの?ねぇ・・。」 くいくい。と、不二の服の裾を引っ張る。 「別に、そう言うわけじゃ…。」 仕方なしに肩越しに振り返って、止まった。 不二の目に映ったもの、それは少し目に涙をにじませて必死な顔で懇願する英二の顔。 ぶっつん。 不二の中のどこかの線が……・遂に切れた。 「にゃ?にゃに・・今の音……ふぎゃっ!!!」 不二に押し倒されて、猫語で叫んでしまう英二。 「な……・・なっ!!!にゃに!?不二ぃ!?」 「もぅ・・仕方ないなぁ、英二は。近づかないでって言ったのにvv」 にっこりと微笑んで、英二の頬にキスを贈る。 「わ゙〜〜〜〜〜な、なんかキャラ違うよぅι」 「ふふ……英二、月並みな言葉だけど、言って良いかな?」 「つ……・きなみ?」 「うん。」 言うと、顔を離して琥珀色の瞳を、射た。 「僕が、学校じゃ教えない勉強も教えてあげるvvv」 「…………・っっっ…・うそぉ。」 英二は、結局自分の首を自分でしめてしまう形となった。 最終ラウンド。不二かんぷなきに勝利を勝ち取る。 脱落者「大石」「河村」 戦利品……・・「菊丸 英二」 ****ひとまず後書き**** なんだか長ったらしくてすみません…。 はぅ、やはりオールメンバーだと長引きますね。いえ、私がだらだら書いてたせいなのですが。ふにゃ。 それでも、楽しんでいただけたら幸いですvv リクエストに頑張ってお答えしたつもり…・・ですがいかがなものでしょうか? ちょぉっと五寸釘と桃が不自然だったのではないかと…。汗。 でも、不二表はホワイト的は目指してみましたっ! それでも、最後はやはりブラック化してしまいましたよ・・とほほ。 キリ番ゲット、どうもおめでとうございますっ、ハーヴェストさん!!! |