病院 ― そこは普通ならば癒す場所。
だが、そんな道理が伝わらないのが
ここ、“狂恋病棟”である。
― 狂恋病棟 ―
亜久津は病室に入った途端、息をのんで止まってしまった。
何故、なら。
そこには「奴」がいたからだ。
「・・・・・・・・・・なっ・・・・・。」
「あ、亜久津じゃん。どうしたの?」
爽やかな笑顔を病室一杯にふりまくそいつを見て、驚きの顔を隠せない。
千石は笑顔を絶やさずに亜久津に近づく。
「その傷はもしや喧嘩?良くないな――――。」
「うるせぇ。それより、そのふざけた格好をなんとかしろ。」
「え?これのこと?」
疑問符を浮かべて千石は自分の着ている服をつまんだ。
白い、看護士用の服。白衣ではない所が妙に様になっていた。
白衣の天使―――――
みかけだけは確かにそうと言えよう。
小顔で可愛い顔だしち、幼さの残る表情。
だけど、その中身が180度違う事を知ってる者は少ない。
「これはね、バイトだよ。バ・イ・トvv」
「また妖しいバイトでもしてんじゃねーのか?」
「違うよ。それはイメクラでしょ。相手がいるのにそんなん出来ないしvv」
今、笑顔でさらりと凄い台詞を吐いたのは、目の前のこの可愛い少年。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・医者はどーした。」
「今は他の所が手一杯なんだよ。だから俺が一人で診察すんの。」
「てめーはバイトだろ。」
「まーねー。でも一応俺資格持ってるし。」
「(なんのっ!!??)」
思わず突込みをいれざるえない。
一体なんのだと聞くざるえない。
しかし笑顔は耐える事はなく、お決まりの爽やか満開の笑顔でにっこりと笑うだけ。
もはや聞くなといわんばかりの笑顔である。
「てなわけでー、そこに座って?」
「なにがどうなった!!!」
ぎしりと医者用のイスに腰掛けて足をくむと、かちゃりと眼鏡をかけた。
「・・・・・・・・・目悪かったか?」
「オブジェ。」
「(さらりと言うな!!!)」
カルテを膝に置きながら睫毛を伏せた。
伏せみがちの瞳が髪の上の文字を追う。
「さて、それでどうしたの?」
口元に笑みの称えたまま、顔をあげて亜久津を見た。
瞳に宿るのは、銀色。
刃のような月のような色がとてもよく似合う。
優しい表の顔とはまた別のもの。
亜久津はいや層に顔をしかめると、自分の背中に冷ややかな汗がしたたれるのを感じてぃた。
つぅ・・・と、頬に流れる。
「どうしたの?突っ立って。」
たのしげに笑う千石に根負けして、一応こしかける。
言っておくが、亜久津はお医者さんごっこをするつもりは毛頭ない。
「(さっさと終わらせねーと・・・)」
この男との付き合いはまだほんの少しだが、本能で感じる。
またよからぬ事を考えている事なんて分かっているから。
「見てわかるだろーが。」
「あァ、喧嘩?」
瞳をすぅと細めて首を少し上げると亜久津を見下ろすようにした。
口もとの笑みは消える。
「亜久津が負けるなんてめずらしー。」
「ちげーよ。」
「え、違うの?」
きょとんとして千石は尋ねる。
まぁ、彼も亜久津が負けるわけないと思っているのだが
亜久津の顔に俺以外がつけた罪は重いけど、ね。
とりあえず半殺しにしとくか。
亜久津の傷の具合を見て、冷静にこんなことを考えているなんて事は
決して口が裂けても亜久津には言えない。
「なんだ、そーなの?でもいつも病院に来ないじゃん。」
ピク・・・と、亜久津が反応した。
千石はそれを見逃したりしない。
下に向けてぃた視線を、更に横に向けて顔を背ける。
「え、なに・・?」
「一応、血液検査してくれ。」
「・・・・・・・・・・。」
一体どういう意味なのか。
喧嘩なんて二人にとったら日常茶飯事(それも困る)いちいち医者に診てもらわない。
「・・・・・・・・・・・まさか・・・輪姦とかされた?」
「アホか!!お前は!!!」
大真面目に尋ねる千石に、突込みをいれてしまう亜久津。
「ええ!!そうなの!?」
「だから!!人の話を聞きやがれ!!!」
「だっておかしいじゃん!!喧嘩でなんで血液検査!?」
「人の話を、聞け!!!!」
イスから立ちあがると、亜久津の襟首を両手で掴んだ。
断わっておく。千石は大真面目だ。
「可愛そうに、そんな事が・・・。」
「(こいつ・・・もう駄目だ・・・)」
ぎゅぅと亜久津を抱き締める千石。
首に巻きつけるように腕を回して亜久津をきつく抱き締めた。
もうこうなったら、喧嘩が終わった後に見つけた犬が、何故かここ日本にはもうほとんど入ってきていない
狂犬病らしき病気をもってるらしい犬を見つけて噛まれてしまったからだとは言えない。
そして、更にその犬を病院に持っていったら一応人の病院に自分も行っておけといわれてきたとはもう言えない。
亜久津にとって喧嘩の傷は重要ではないのだ。
自分が狂犬病にかかってたら色々と面倒だし、拾った犬もどうしようとか考えたから。
このみかけ超不良の彼には、口が裂けても人には言えない事。
一方、すっかりかんちがっている千石は、まだ亜久津を抱き締めたまま瞳をすぅと開けた。
その色はかなり黒い。否、暗い。
その奥でちりりと怒りの炎が燃える。
作戦変更、やっぱりあいつらは処刑決定。
こんな恐ろしい計画を考えているなんて、亜久津は知るよしもない。
「おい、いいかげん離れろ。」
ぐいと身体を引き離す。
途端に亜久津の顔がこわばったように固まる。
千石のいつもと違う
いや、むしろ亜久津はよく見ている。
「奴」が自分にとっていやあなことを起こす時にする表情の一つ。
「(やべぇっ・・・!)」
「・・・・・・・・・・。」
「千石、俺はもういいから・・・帰るぞ。」
とうとう逃げ出す事にしたらしい。
千石の答えを待たずに立ちあがった。
「待てよ。」
ひやりとした冷たい声に足が止まった。
千石の表情は前髪で見えない。
さら・・・と橙色の髪の毛が揺れて首が上を向いた。
口元には、笑み。
「まだ診察は終わってないよ?」
「・・・・・・・・・っっ・・・ちょっと待て!!」
「待ったは俺嫌いなんだよね―――。トランプでもオセロでも将棋でも勿論・・・ヤるときでも、ね。」
寝台に押し倒した千石は、慣れたように服を脱がしにかかる。
もう誰も彼を止める事は出来ない。
RRRRRRRRRRRRRR・・・・
病室内に広がる電話の音。
その音にさすがの千石も手を止めた。
亜久津はまだ自分が安住の地についてないと分かってはいても少し安堵してしまう。
「はい。もしもし?」
壁にかかっている電話を取って、相手の声に応えた。
「・・・・・・・・・先生。」
どうやら電話の主は医者らしい。
亜久津はますます安堵する。
医者が来るなら亜久津の身の安全は保障されるのだから。
ただ、そんなハッピーエンドに終わらないのが、この病院。
「はーい、ちゃんと診察しておきますので先生は彼女とよろしくどうぞ――vv」
「(なにぃぃぃぃぃ・・・・・!!??)」
チン、と、電話を切った。
一瞬にして地獄に落とされた気分。
顔の温度が下がる。
否、身体の温度が一気に下がる。
「(医者がそれでいいのか!?)」
「亜久津・・・今助かったって思っただろ。」
電話をもどした状態で千石は亜久津に問い掛ける。
瞳は少し下がりぎみ。
亜久津は横紙で表情が見えないから一層恐怖が増してしまう。
ゆっくりと、千石は首を亜久津のほうに向けた。
口元には、壮絶なまでの微笑みが浮かべられる。
「残念。俺この病院ではかなり信頼されてるからvv」
「(嘘だ――――――――――――!!!騙されてるぞ!!!病院!!)」
ばさりとシーツをひらめかせる。
千石の白い看護士服に更に白いシーツが重なった。
赤く染まる唇がよく栄える。
「ゆっくり、消毒してあげるね。」
「―――――――――――っっ!!」
狂恋病棟。
それはちょっといかれちゃってる病院。
――――――――――
ゴクアクってこんな感じかな。
病院ってありきたりであんまり好きじゃなかったんですけど、だけど書いちゃったよ。
しかも普通の病院を書かないところが自分だと納得。
だってつまらないもんなー――――――。ありきたりだと。
てかシュチュエーションありきたりで本当にすみません。
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