病院 ― そこは普通ならば癒す場所。
だが、そんな道理が伝わらないのが



ここ、“狂恋病棟”である。







― 狂恋病棟 ―










「・・・・・・・・・・・・っっ・・・・・!!!にゃにすんだよ!!不二!!」

「やだなぁ、英二。人聞きの悪い。」

「うにゃぁぁぁ!!ちかよんなぁ!!!!」

静かにしなければいけない病室を人一倍騒がしくしているのはまぎれもない36コンビである。
菊丸英二。
彼もこの病院に迷い込んでしまった憐れな子猫(子羊じゃないよ?)

ちょっと身体の調子が悪くて、ちょっといつも行ってる病院が休みだったから仕方無しにこの病院に来ただけなのに。


なんでこんな事になってるのか。


「別に恥ずかしがる事じゃないじゃない?(にっこり)今更・・・・・ねぇ?」

「って、っていうか!!その・・・その格好なんとかしてよ!!!!」

震える人差し指で不二を指差した。
指をさされて、「ん?」みたいな表情をした不二はそこで初めて自分のナリを見る。
可愛らしい白衣の天使・・・
ナースの服を着てる不二がそこにいたからだ。


「どうして?あ、もしや興奮しちゃう?」

「ちがぁう!!!」

確かに、不二は可愛いが。てか綺麗だが。てか細いが。

だけどっ!!!!



















「(男だろ――――――――――――!!!!)」


動揺を隠せないお菊様である。
しかも、そのスカートはかなり短い。しかも、その姿があまりにも似合いすぎているのも問題だと英二は思うのだ。

「イメクラじゃん!!!!!」

「ちがうよぅ。これは、バ・イ・トvv」

「すぐ脱ぎなさい!!!」

なお悪いというように、英二は不二に叫んだ。
不二はしばらく渋気にした後に、一息溜息をつくとナースキャップを取った。

「なんでよ・・・似合ってるじゃん。」

「恥じらいってもんはないんですか!?」

「ないよ。」

「!!」

あっさりと「ない。」と、はっきり言われて英二は固まる。
しかも、しかも、だ。
半分伏目がちの瞳は妙に冷たくて、声もどこか冷たいものだ。
ますます恐い。

こういう不二が英二は苦手だ。
いつも優しいくせに、その心情が計り知れないのは何故だろうか。
ふと見せる冷たい瞳を恐いと思ってしまう。
大好き・・・だけれど。震える心を止めることが出来ない。





自分の本能が・・・囁く、から。














「不二・・・なんでそんな事してんの?」

ぬぎぬぎ・・・と、ナース服を脱いでいく不二が顔を上げて英二を見た。
さらりとストレートの髪の毛が音をなす。
薄く開けられた瞳が妙に色っぽくて。
半分露になった肌に目が吸いつけられるようになる。

「・・・・・・・・・・・っ・・・。」

「くす、どうしたの?英二。」

楽しそうに不二は笑うと長い睫毛を震わせた。

「なんでもっ。」

ぷい、と、顔を背けるがその頬は赤い。
不二はそんな英二の心情をしっているからますます笑みを深める。
ゆっくりと歩を進めた。

「・・・・・服、着なよ。」

「脱げって言ったのは英二でしょ?」

するりと首に腕を回した。
開いた方の手で英二の頬に触れる。

むー・・・・、と、まだ硬直している英二を見て、初々しさを感じてしまう不二。
可愛いなァ・・・心のなかでそう呟く。






























「嬉しいよ。英二から誘ってくれるなんて。」

「ちがっ!!」


違う。と、象ろうとした唇を、不二はふさいだ。

「・・・・・っ・・・ぅ・・・。」

「・・・・・・は・・・。」

ふんだんに舌を絡めた後唇を離すと、透明の唾液が二人の舌を橋渡しした。
糸のように細いソレは、ゆっくりと英二の首筋を伝う。

「ふふ・・・なんだかやらしいね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不二って嫌な奴。」

毒気を吐いたような言い方にも気にも止めずに、不二はゆっくりと微笑んだ。
首をあげるとそのまま英二の首筋に歯を立てる。


「っ・・。」

「変だよね。普通なら立場が逆転なのに。」

「さぞかし不二は気分がいいだろうね。」

「うん。凄く気持ち良いよ。」

「(気持ちいいとか言うな)」

かぷりと歯を立てて痺れるような甘い痛みを英二に与える。
ぴくりと反応する躯がますます不二をその気にさせる。
だけど、意地悪な彼はすぐに英二を満足させるような事はしない。
意地悪な不二は、自分が欲しくてたまらない表情をする英二が一番大好きだから。



つ・・・と、唇を離して嬉しそうに目を細める。


「大好き、英二。」

「嘘ばっかり。」


憎々しげに呟く英二の表情を、ますます嬉しそうに不二は見つめた。




































「ま、良いや。後で病室においで?続きをしてあげる。」

「・・・・・・・馬鹿にするなよ。」

「馬鹿にしてなんかいないよ。英二の意思でおいで?」

「・・・・・・・・・・・・・・ずるっ・・・。」

「くす。」





じゃァ、またね。

そういって、頬に口付けをすると不二は名残惜しげに頬から手を離して、扉の向こうに消えて行った。それをちろりと横目で見て、英二は大きく溜息を付く。


本当におかしい。
不二はあんなに綺麗で美人なのに。
そこらへんの女の子よりずっと可愛いのに俺の方が好きだなんて。
ていうか、不二が男役だなんてほんっとうにありえない。



手塚とかとだったらお似合いなのになぁ。


そんな事を英二は考えてしまう。
そして考えた後にぷるぷると頭を振る。

そんな事ない。

そう思いながら。


消えない不安を消し去るように。









































扉の向こうの英二の気配をしばらく感じていた後に、睫毛を伏せて首を上げた。
そのまま一歩を進める。


英二が何を考えているのか手に取るように不二は分かる。




でも、分かっていながら手をさしのべない。










何故、なら。


そんな事を思ってるぐらい自分を好きだと思っていることに、酔いしれるからだ。










それは

































不二なりの愛情表現だからだ。



































「僕だって、こんな格好を好きでしてるわけないじゃないよ。」

口端を吊り上げて不二は嗤う。
そう、全ては英二の為に。



だってお医者さんごっこって、いくら英二でもドキドキするよねぇ?













別に理由はそれだけじゃぁない。
ここの院長がかなり変態で、この格好をすればバイト代を2倍にしてくれるということ。
そのお金で英二との旅行を計画してること。

(行き先は死海あたりがいいね。アマゾンも良いけど・・・くす。)


不二の言ってる事は耳にいれないで下さい。



不二の行動はすべては愛する人の為だけに。
例えその気持ちが本人に伝わらなくとも。










彼のことを一番よく分かっている不二は、いつでもどこでも英二を罠にはめるのだ。

































全ては彼を愛しているからこそ。

































―――――――
良くわからね――――――――。
まぁ、いいか(よくない)
とにかく不二は英二が好きなんですよ。

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