夢の中の恋人 −流された涙−



太陽の光がまぶしくて、俺はゆっくりと思いまぶたを上げる。
「あ、起きた。」
「にゃあああああ!」
目の前には不二の顔が合って、俺はすっごくびっくりした。
「な、何?英二…」
「な、なんでも…突然不二の顔至近距離で見たからびっくりしただけ。」
うにゃ〜あんな夢見た後ににゃんですぐ現れるかなぁ?俺にも心の準備ってものがさ…ブツブツ。
「なんか気持ち良さそうに寝てたんだよ。」
う?
「最初はね。」
さ、最初は?
「そのうちうなされてて・・・怖い夢でも見た?」
「ええええ?うー、ま…あ、そんなところ・・。」
あいまいに答えてしまった。だってなんか全然イメージ違うんだもん。うー、もしやあれも俺の望んだ不二…って事かな?うわ−だとしたらすっごくスケベ!!
「英二?」
またもや至近距離で近づかれて思わず固まってしまった。そして慌てる。
「にゃ、にゃに?」
「なんかさっきから百面相してるから。」
そう言って不二はにっこりと笑った。誰のせいなんだよ、誰のー!!
あんまし動揺していたから、思わず俺は…ぼろを出してしまった。
「もう、誰のせいなんだよぅ。そもそも不二が夢の中であんなことするから…」
その瞬間、しまったって思ったよ。だけどもう遅い。一度言ってしまった言葉はもう取り消せない。
不二は、固まってる。ていうか、とっても驚いた顔してる。
「あ・・・えっと・・・」
「英二、僕の夢見てたの?」
ヤバ…
「う・・・ん、でもまぁ、たまたまだよ、たまたま!」
急いでごまかす俺。
「ふうん・・・」
え?え?何…何その表情…汗。
「どんな夢見てた?」
「へ?」
「僕の夢見てたんでしょ?なんか興味あるな。」
そう言って不二はおきまりの笑顔をした。いつもと変わらない不二。でも、まとっている空気がいつもと違うと感じるのは俺だけ?なんか・・・
「た、たいしたことじゃないよぅ。ただテニスについて語っただけ。」
何でどもってんのさ…ばれちゃうじゃん。俺が、嘘言ってるって…
「そぅ・・・それで何されたの?」
う・・・・なぜそんなに追求するのさ…。
「・・・・・・の。」
「え?」
「くすぐられたの!!!」
思わず大声をあげてしまった。
「くすぐられた?僕に?」
何で不二そんなに不思議そうな顔するの?やっぱこの嘘って苦しいのかな?
「そうだよー。不二ったら俺の事くすぐるからさー。笑い死にするかと思った。」
嘘がすらすらと出てくる。不二は…なんだか神妙な顔で俺の話を聞いてる。何?何を考えてるの…教えてよ、不二…苦しいよ…
しばしの沈黙に居たたまれなくなった俺は何かに後押しされるように口を開いた。
「不二は…夢で誰かに会ったりする?」
「?」
そこで不二の視線が初めて俺のほうへと動いた。でも俺はじっと床を見つめたまま。
「しかもね…それはいつも同じ人なんだよ…?」
俺の中の警報が鳴り響く。
ダメダ・・・ソレイジョウススンデハ・・・コワレル…
「見るよ。」
その一言で、俺は一気に現実へ通し戻された。そしてはじけたように不二の事を見た。期待と不安で、俺の胸は一杯になる。
茶色のキレーな不二の瞳…。その瞳が今俺を捕らえて離さない。
「でもしょせんは夢だよ。」
その瞬間、俺の中で何かが…壊れる音がした。
バカダネオマエハ・・・サイショカラ・・・ノゾミナンテカナウハズガナイノニ
「っっっっ!英二!?」
不二の声が聞こえた…。頬に伝わる暖かいものを、俺は手でぬぐったけれど何も感じない…しょっぱい…水。
「どうしたの!?何か僕傷つけるようなこと…」
不二の表情を見て、俺はその時自分が泣いてる事に初めて気がついた。
ああ…俺は、不二を困らせてしまった…。不二は動揺してる…きっと俺が泣いてるわけが分からないんだ…もうだめ、全部おしまい…
「不二は…そう思うんだ?」
ほら、カウントダウンだよ…。もうすぐ俺達の関係は崩れる…。全部ばれて・・そして不二は俺を軽蔑するんだ。
3…
「え・・いじ?」
2…
「馬鹿みたいだ…俺は、一人で浮かれてて…」
1…
「英二…何言って…」

「そんなに知りたいなら教えてあげる。俺はね、毎日毎日不二と夢であってたんだ。幸せだったよ。だって不二は夢の中では俺の恋人だもん。」
がしゃん。
ほらね?また俺の中で何処かが壊れた。
頬には温かい水が伝う。どんな表情をしてるか俺には分からない。それさえも、もうわからない。
「どこかで信じてた。俺と不二は夢だけじゃなくてちゃんと通じ合ってるって!!」
全部言い終わって、俺の息はぜいぜいと切れる。視線は不二の足元を見てる。だから不二がどんな表情をしてるかなんて分からない。
「どうして・・・」
不二が口を開いた。嫌だ…聞きたくない。
「どうして笑ってるの?英二。」
不二の声が鼓膜に響いた。笑ってる?俺が?こんなに悲しくて苦しいのに?
俺は不二の質問には答えなかった。その代わりに終りの言葉を……告げた。
「さよなら、不二。俺…もう友達でいられない…。ごめんね。」
そう言っていつものように作り笑いをして…そして俺は不二の横を駆け抜けた。





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