― 猫との再会 ―
跡部景吾。
氷帝200人を率いる帝王。
麗しい顔に、美声。
テニスのセンスはぴか一で、言ってしまうと性格も激悪である。
けれど、そんな彼にだって弱いものはある。
「・・・・・・・・あっとべー!!!!」
きゃー!と、跡部をみかけた英二は嬉しそうに走り寄った。
「・・・・・・・っ・・・・・・・菊丸・・・・っ・・?」
一瞬嫌な予感がする帝王跡部。
だけれどそれをよけるまもなく
ドガッ
鈍い音が響き渡った。
「・・・・・・・・・・いてェ・・・。」
「ゴメンナサイ・・・。」
しゅーん。と、跡部の傍らで両膝をついて英二は頭垂れた。
一応自分が悪いと思っているらしい。
プロレス並のタックルをくらわせられて、みぞおちにはまった跡部は当然の如く後ろに倒れる。
しかも、支えのなくなった英二も同じく跡部側へと倒れたのだ。
「・・・・・・・っつーか!もう少し先を見やがれ!馬鹿やろう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐす・・・・ごめんにゃー。」
「(う゛っ・・・、汗)」
はー。と、おもいっきし溜息を付くので、跡部はひるむ。
頬が少し赤らんで、押し黙って。
そうして胸中で「ちっ」と、舌打ちをうつと憮然としながらも頭をなででやった。
瞬間、英二はきょとんと瞳を跡部に向けるが、勿論跡部はそっぽを向いてしまっている。
嬉しくて、えへへと笑う。
そんな英二の表情を見て、跡部は心のうちで「ったく、可愛いぜ・・・。」とか思ったりするのだ(もうどうしようもない)
「それよりあとべー、なんでここにいんの?」
「あー?次の試合の書類を提出に来たんだよ。」
「え゛、そんなんも部長のお仕事にゃの!?」
「重要な書類だからな。なくされる心配をするぐらいなら俺自ら行った方が早いだろ。」
「そうかー。えらいにゃー。」
確かに。
もっともらしいことを言って見せる跡部様。
だけれど理由はもう一つある。
この可愛い自分の「ペット」・・・・ごほんごほん、否、「恋人」に久方ぶりに会いたいと思ったから。
大会も近く、部長業もおろそかに出来ないぐらい忙しい。
よって、勿論英二と会う時間も割かざるえない。
一息ついて、まじまじと英二を見つめた。
「?」
何週間ぶりだろうか。たぶん1ヶ月ぶりぐらいだろう。
英二は特になにも変わっていなかったが、久しぶりの再会だと違ったふうに見える。
ふわりと手を伸ばして、頬に触れた。
触れられて、英二は目を細める。猫のように。
柔らかい肌の感触。
その感触さえ忘れるほど跡部は追いつめられていた。
じぃと英二は跡部を見つめて。
そうして両手で跡部の顔を包み込むようにした。
琥珀色の瞳が跡部を射る。
まっすぐ、純粋な瞳が跡部を見つめた。
「あとべー顔色悪いね。」
「?んなことねーよ。」
「そう?」
ちょっと不安げに目を伏せた。
悲しげな顔を見せないで欲しい。
笑ってる顔が見たい。
それだけで
いつも心が癒される気がするから。
「そういやお前、今日部活は?」
「んー?もうちょっとで終わるよー。」
「そうか。だったらその後どっか行くか。」
「え!良いの!?(めっちゃ嬉しそう)」
「(可愛い・・・)いいぜ。このごろかまってやれなかったしな。」
「ぃやったー!!そんじゃねー、俺恐竜博物館見に行きたいです!!」
「はぁ!?なんで!」
「だって時代はジュラシックパークでしょ!いえーい!ダイナソー!!!」
「(いや、とっくに時代は過ぎて・・・・・・まぁ、良いか)」
「あ、寄生虫博物館でもいーけどねん。」
「よし分かった。恐竜に行くぞ(即答)」
何故に寄生虫なんだよ。
つーか、気持ち悪いだろうが・・・
むしろ恐竜と寄生虫とは全然違うものなのに、どこに惹かれるのかが分からない。
嗚呼、謎だ。菊丸英二。
「・・・・・・・・。」
跡部はしばらく黙ると、くしゃりと赤毛の混じった茶色の髪の毛に指を絡ませる。
「・・・・あとべー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでもねー。部活行ってこい。」
よもや毛並みチェックだとは言いたくはない跡部様(そうだったんだ・・・)
最近会っていなかったせいか、随分汚れている・・・・感じ。なのでちょっと不機嫌。
「(・・・・・ちっ、ちゃんと毛並みの手入れぐらいしておけよ、怒。←誰に言ってるんですか?)」
こんなこんなで二人でいちゃいちゃ(?)していたのを静かに睨みつける人物が一人。
「・・・・・・・・ねェ、手塚。僕の可愛いペットが誘惑されてる気がするんだけど!気のせい?」
「・・・・・・・・良いんじゃないのか?可愛いし。」
「駄目だよ!なんでそんな甘いわけ!!??僕の可愛い英二があんな毒蛇にかまれちゃってもいいの!?むしろ食われるよ!!!」
「(生々しい・・・)お前の、じゃないだろ。」
「僕のじゃなかったらなんだっていうわけ?」
「(いや、だから跡部のなんだろ)」
ぎろりと開眼した不二はゆっくりと手塚を睨みつける。
手塚はそんな不二の瞳に威圧された一足後退した。
そんな事には目もかけずに、不二は親指の爪を、ぎりと噛む。
「くそ、跡部景吾め・・・。」
恐いです、不二。
「あ、不二にゃー。」
何も知らない英二はぴくんと耳を立たせると、わーいと不二の所へと走りよる。
不二は心の内は明かさずに、にっこり笑うとよしよしとなでてやった。
「(恐ろしい・・・不二周助・・・。)」
「(当然だよ、手塚。ふふっ・・・)」
跡部はその光景を見ていたが、ポケットに手をつっこむと、そのまま歩く。
その歩き方も実に優雅なもの。
女子生徒がいたら見惚れるぐらいだ。
「よぉ。」
「ああ、元気だったか?」
「はっ、当然だろ?」
口元に笑みを浮かべる。
目を少し細めて笑うその姿は王者そのもので。絶対の自信を表していた。
不二とじゃれている英二はそれを見つめる。
どこか
眩しいように。
「・・・・・?・・・・どうした。」
「え?・・・んーん、にゃんでもない!」
にっこり笑うけれど、跡部は見逃したりしない。
なんだか分かり合ってる二人(砂吐きそう)
それをよく思わない人間だっている。
不二は、ぎっ!と瞳を厳しくして英二を自分の腕に引き寄せた。
「っ・・・・わぁ!にゃに!?」
「・・・・・・跡部。悪いけど僕の英二に手を出さないでくれる?」
「(恐いしっっ!!!)」
「あん?誰が誰のもんだって?勝手に自分のペットにするんじゃねーよ。」
「(こっちも恐い!!!!)」
「懐柔したと思ってるの?甘いね(ふっ)」
「お前こそ、手塚がいるくせに良い度胸じゃねーか。」
「勿論(にっこり)手塚の事は好きだし愛しちゃってるけど、それとこれとはまた別問題。」
「ふ、不二っ!!この馬鹿!!!なんて事を口にするんだ!!」
「えー、だってこういう事ははっきり言っとかないと。手塚までとられたらホントに死ぬしかないし。」
「(自殺っ!!??汗)」
「お前も苦労するな、なぁ?手塚。」
「(俺に話をふるなぁ―――――――――!!)」
帝王は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
そりゃぁ、距離は実質的には不二のほうが近いかもしれない。
だけれど自分達はもっと深い部分で繋がっていると跡部には分かっているのだ。
英二が自分にぞっこんだってことぐらいお見通しだ。
「・・・・・・・オイ、不二。まさか俺とお前が同じスタートラインに立ってると思ってないだろうなぁ?」
「・・・・・・・・・・・・は?」
一瞬。不二の顔に驚きの表情が走る。
逆に、英二の顔があせったかのように歪んだ。
「・・・・・・・・にゃっ・・・・!!」
「そうだろ?菊丸。お前も言ってやれよ(ふっ)」
悠然と跡部は微笑んで、英二は慌てふためく。
そうして
魔王が降臨するのだ。
「・・・・・・・・・・・なんだって・・・?」
ワントーン低いその声は南極の氷よりも冷たい。
明らかに黒い、否、どす黒いオーラを放っているのに跡部は動じない。
むしろその状況を楽しんでいるようだ。
「英二、本当なの?」
長い蜂蜜色の前髪から覗く瞳にいられて、英二は「に゛ゃ!」と、人間あるまじき声を出した。
「・・・・・・・・え、えっと・・・。」
「ちょっと!なんでそんなふうに押し黙る訳!?ていうか、ぶっちゃけどこまで行ったのさ!!」
「そっ!!そんなこと言えるわけないだろ!!!滝汗。」
「うっわ、最悪!もしかして行く所までイっちゃった系!?」
「わ゛――――――わ゛〜〜〜〜〜〜!!不二の馬鹿!!!」
「叫びたいのは僕の方だよ!!!!手塚!英二が汚されたよ!!!」
「汚したとか人聞きの悪い事言うなよ。お互い了承済みのことなんだぜ?」
「あとべーは余計なこと言うな!!!」
「ていうかなお悪いし!!!」
不二、英二、跡部の3人が会話を交互に交わす。
手塚はなにも言葉をはさめずに押し黙ってしまった。
入っていけないだろう。常人には。
手塚も相当テニスが上手くて常人じゃないと言われているが、このメンバーは濃すぎる。
「このゲームは、完全に俺が支配したな。」
「きゅん(・・・かっこいい・・・)」
「英二!見とれてる場合じゃないし!!!」
くすと笑って跡部は英二に近づく。
そうして、くいと顎を掴んで上に向かせた。
全てを見とおす茶色の瞳が英二を捕らえる。
口端を緩く吊り上げて帝王は笑う。
「また後でな。ゆっくり遊んでやる。」
「・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・!!」
「くっ、想像してんのか?相変わらずやらしーぜ。」
「ばっ・・・!違うよ!!」
「じゃァなんで頬を赤らめてやがるんだ、あーん?」
にやりと笑うと頬に軽くキスをする。
ちゅ、とわざと音を立てて口付けると身体を離した。
微笑を絶やさずに跡部は手を離す。
そうして3人に背中を向けて立ち去った。
だけれど話はそれで終わったりはしない。
「・・・・・・・・・・・・・・英二・・・・・・?」
「(びくぅ!)・・・・・ふ、不二・・・・。」
思わず酔いしれる間もなく頬が緊張した。
笑っているのに、頬が引きつる。
「随分仲が良いみたいだねェ?」
「・・・・・・・・・・・・・・っう・・・!!!!!」
「・・・・・・・・僕はショックだよ。こんなに優しく接してるのに、それだけじゃ不満?」
「そ、そんな事ないけど不二には手塚がいるじゃん、汗。」
「確かにねー。だけど僕の可愛い子猫ちゃんが汚されちゃったのはいただけない・・・デショ?」
「・・・・・・・・・・・・・・(恐いです)」
優しい声音の不二は、とても恐いことなどよく知ってる。
優しいからこそ恐いのだ。
猫はライオンに睨みつけられて耳を下げる。
「・・・・ご、ごめんにゃー・・。」
「ううん(にっこり)」
「(だから恐いし!!!)・・・・・だ、だけど俺跡部のこと好きだもん!」
「へェ、それは恋?」
「うっ・・・。」
そこで言葉詰まるなよ、英二。
「・・・・・・・・・・・・こ・・い、だと思う。」
「ふーん。まァ、見届けても良いけどね。英二がそこまで言うなら。」
「え、ホント?」
「だけど、清く美しいお付き合い条件ね?」
「自分は充分穢れてるじゃんー―――――――――――!!!!」
「そのことに関しては俺も賛成だ。」
「わーい、手塚vvさすが僕のlover。」
「ちょっとぉ!勝手に話を進めないでよ!!!」
青学の菊丸英二は人気者。
そして保護者が多いので、可愛がられる事多数。
だけれど
どうやら一人立ちはまださせてくれないらしい。
「・・・・・・・・・くくく、やっぱりいたぶられてる菊丸は絶景だな。」
この人が一番鬼畜だったりする。
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初めて書いた跡菊。
跡部様は菊ちゃんに弱いです。
だって自分も猫型だからそこらへんはやっぱり惹かれちゃう部分があるんだと思います。
return
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