― 青春学園屋上より ―
ぽかぽかと暖かい昼休み。
優しく自分を包み込む太陽の光を感じて。
不二がうつらうつらとしていた時に、まさに、寝ようとしていた時に。
グットタイミングで屋上の扉は大音量で開け放たれた。
そうして極めつけは英二の目覚まし代わりの、声。
「不二――――――!!!!大変大変大変だよ―――!!!」
言った側からタックル。
不二は当然の如くぱちりと目を覚ました。
「なっ・・・何何!?英二、何があったの!?」
「ちょっと・・・・・・大変なんだって!!」
「だから、何が?何か、誰か・・・・大石とかに何かされたの!?」
だったらだたじゃぁおかねぇ・・・。
と、頭の中で黒い闇をふかしながら不二は英二に尋ねる。
だが
その答は予想を遥かに越えたもの。
「今日はっ!!!ノストラダムスの大予言の日なんだよ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、そんな事。」
「な・・・・なんだっ!?なんだじゃないよ。」
「折角良い気持ちだったのに。僕寝るね。」
「ええっ!!なんでなんで?不二寝ないでよー―――。」
ゆっさゆっさと再び寝転がった不二の身体を英二は揺する。
揺すられて不二は不機嫌げに身体を起こした。
「あのねぇ、英二。まさか本当にそんな事信じてるの。」
「えっ、不二は信じてないの!?」
「信じてるわけないでしょ。」
「えぇっ!!!」
本当に信じていたのか凄く驚く英二を見て不二は脱力せざるえない。
まさか。
本当に信じてた人がここに存在していたなんて。
うぬーー・・・・と、その場にちょこんと正座をして英二は考える。
そうして、不二を見た。
「だってさ・・・ノストラダムスの予言って当たるんでしょ?」
「そうだけど。今の世の中どこから恐怖の大魔王が降ってくるって言うの?」
「降ってくるって言えばやっぱり空でしょう!!!」
「そんな非現実的な事、誰も信じないよ。」
流石不二様。寝起きかつ起こされた理由に対し不機嫌爆発。
いくら英二が相手だからと言っても言う事が辛口。
冷たくあしらわれて英二はしゅーーん・・・と、それこそ猫耳を下げてしまった。
(あ・・・・・・落ちこませた・・・・。)
ここでようやく頭が晴れてきた不二。
目の前にはすっかりしょんぼりとした英二の姿。
不二の目から見えればそんな英二の姿はとても可愛らしくてそのまま放置しておこうと思ったが、それも可哀想だし。
しかも
不二は英二の笑った顔のほうが好きだったからフォローをすることにした。
「ごめんね、英二。ちょっと言いすぎちゃったかな。」
「んーーん・・・俺が不二の寝てる時に邪魔しちゃったんだし。
自業自得だし。しかも超阿呆な理由だし・・・・・。」
徒然なるままに言って、英二は落ちこんでしまう。
自分のやったことを言葉にして、更に気持ちが下がってしまう。
「いいんだいいんだ・・・俺なんて。」
(あぁ、イジケモードに入っちゃった・・・。でも可愛いからいっか。・・・・・じゃ、駄目だよね。やっぱり)
そんな事を考えて、不二はやっぱりフォローに入る。
「あのね、英二。別に感じ方は人それぞれなんだから良いと思うよ?」
「そうかなぁ。」
「うん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だから元気出して。ね?」
「本当に、そう思う?」
「思うよ。」
「そっか・・・・・。不二がそう言うんならそうなんだねっ。」
すごく単純だが一気に英二のご機嫌パラメーターは上昇する。
頭上に上る太陽よりもずっとまぶしい笑顔を見せた。
「ふふっ、機嫌が直って良かったvv」
不二お好みの英二スマイルが見れて不二のご機嫌パラメーターも同じく上昇する。
「でもさぁ、マジで地球滅亡しちゃったらどうしよう。」
「さぁ、英二ならどうする?」
「えーー・・・考えた事ないよ。でもさっきその話聞いてまっさきに不二の所に行こうと思ったんだよね。
ていうか体が勝手に動いてた。」
アハハ。と、明るく英二は笑う。
不二は英二の言葉を聞いてますますご機嫌パラメーターが上昇する。
「嬉しいな。僕のところに一番に来てくれるだなんて。」
「もし今日で終わっちゃうんだったら。もう明日は来ないって事だよね。」
「そうだね。」
「そしたら・・・・もうこんな日常は帰ってこなくて今日でピリオド打たれるわけじゃん?
そう思ったらなんか恐くなっちゃってさ。」
「英二は、何がしたい?」
「ん?」
「もし、明日が来ないとしたら、何をする?」
薄く開かれた茶色の瞳が英二を見据えた。
いつもは糸目で開かれない瞳に見られて顔を反らす。その頬は少し赤く染まる。
「そ、そうだなぁ。とりあえずテニスする。好きなもんたらふく食べる。そんでもって・・・・。」
少し躊躇いがちに英二は言葉を区切った。
そして不二を見る。英二は笑う。
「後の時間は・・・・不二と一緒に過ごす。
地球最後の日が来たら二人で手、つないでいれたら良いな。」
英二の中の小さな小さな願い。
ノストラダムスは、地球滅亡の予言をした時にまさか英二がこんな事を考えるなんて予想しただろうか。
彼の沢山の予言の効力にしてみれば英二の願いなんてアリほどの小さなものだけど。
けれど
どんな予言よりも不二はその言葉が嬉しかった。
だから不二は愛しい人の手を握る。
そして膝に頭を乗せて目をつぶる。
英二は驚いた様に身体を硬直させたけど、少し照れつつもその場を動かなかった。
動かずに、不二の頭を撫でた。
「それで?英二。」
「んーーー?にゃに?」
「そのノストラダムスの大予言とやらは誰に聞いたのかな?」
頭を膝に乗せたまま英二の指に自分の指を絡ませながら、不二は問う。
その声がワントーン低いのは何故だろう?
「えっとね・・・大石が・・・。」
「大石!?」
不機嫌な不二の声が英二の言葉を遮る。
「え・・・・・・な・・・・何?」
「いや、何でもないよ。続けて。」
「だから、大石が
「英二、今日ノストラダムスの大予言の日だな。」
「え?マジで?うそぉ・・。」
「どうする?本当に恐怖の大魔王が降ってきたら・・・。」
「えぇっ!!やめてよぅ・・。泣。」
「いや、分からないぞ?あながち人間達が油断してた時にだなぁ(←楽しそう。しかも怪談口調)」
「うにゃぁぁぁ・・・やめてったら!!!不二のとこに行くもん!!!」
てな具合に・・・・って・・・不二?どした?」
英二が聞くも既に時は来たり。
不二はすっくと立ち上がると目をスゥと細めた。
「ふぅん。そんな楽しい会話をしたんだね・・・。英二さぞかし楽しかったよね?」
「え゛・・・いや・・・不二・・・?」
「ずるいよね、大石は。僕より先に英二とそんな楽しげに・・・・・。」
ゴゴゴゴ・・・・・・・と、なんとも妖しい雰囲気の黒い雲が不二の周りを包む。
こうして、ある一人の哀れな男のせいで
本当に「恐怖の大魔王」が降り立ったのであった。
地球の未来は?人類の未来は?
それは、不二のみが知っている・・・・・。
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