― 女っていう生き物は ―



「女の子ってさー――、なんであんなに汚いんだろうね。」

私の気持ちとは正反対の青空の下で、屋上のコンクリートに足を投げ出していたら千石がそう言った。

「それを私の前で言う?」

「あはは、それもそうだね。」

怪訝そうに言ったら、千石が笑った。
眩しいくせに、やけにムカツク笑い方だ。






「だってさ、どんなに可愛くて女の子っぽくたって、ベットの中じゃ同じじゃん。」

「・・・・・。」

私は乱された服を整え、髪をすく。
千石が私の髪の毛を指にからませるものだから、その罪にも似た行為が終わった後にはぐしゃぐしゃになる。
絡んだ髪の毛がなかなかほどけないように、

私の心もなかなか自由にはならない。


「それを私の前で言う。」

「はい、二回目―――。」

「残念。疑問系が入ってないんだな、これが。」

「あら。」

軽く千石を交わして、なにも感じていないように振舞う。
馬鹿、だね。
そんな事を思っちゃうよ。
私はあまりにも愚かで軽率で。







そして



















とても可哀想。



































千石に見惚られたその日から、私の人生の歯車は大きく変わる。
表向きではないもう一人の彼の顔を垣間見た時、







私は

















恐怖した。


































それを初めて気付いたのは、ベットの中で。
彼が意外にも冷めている事に気がついたから。
私を見る目は―――




あまりにも、冷たかった。































--------


「・・・・・・・いやっ!!!」

「・・・・・・・・・なに?」


思わずその身体を押し出す。
嫌だ、嫌だ、嫌、だ。


「俺の事・・・好き?」

そんな風に聞かないで。
私は玩具じゃァないの。
あんたのオモチャで付き合ってるわけじゃないし。
あんたの性欲に付き合うほど馬鹿でもない。

千石が


私のことが「スキ」って言ってくれたから


だからいいって思ったんだよ。

だから





だから他の女を見たような目で私を見ないで。



だから、言ってやった。







































「大っ嫌い。」



























顔を歪ませて言ったら、一瞬表情が消えたと思ったけど、
なんだか楽しそうに嗤うって


そうして千石は私の唇に自分のを重ねた。






















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「そういやさー、いつのまにか嫌がらなくなったよね。」

「なにが。」

「前は凄く抵抗したじゃん。」

いつもと変わらない笑顔で千石は笑う。
私は思い出していた。

この男の芯が意外にも冷えていると気付いた日の事を。




私はその時抵抗して。

千石はまるで私を犯すのかごとく、自分を注いだ。

私は覚えてる。






「奴」の顔が楽しげに笑っていたことを。
口元を月のように吊り上げて、頬に流れる汗をぬぐいもせずに私を求めた事。












嫌がる私を組み敷いて、

そうして




































最後に私を後ろから抱き締めた。









































「無駄だと思ったからだよ。」

「何を?」

はだけたシャツを整える事もせずに、強い風に身をまかせる。
シャツがひらめいて肌を露にさせた。
ばさばさと白い布が閃く。

私は知ってるよ。
その白い布に染みついている私以外の女の匂いと液体があることを。
知っていてなにも言わないんだ。



だって





どうせ言っても聞きやしない。











































「私は他の女と同じだって事でしょ。」

































千石の目を見ずに言った。
投げ捨てるように。
泣きそうになる。胸が苦しい。
抵抗せずに受け入れた躯が軋むようだ。
もうどうでもいいやと思ってしまったその日から、私の心は止まってしまう。

螺子はどこかに飛んでいってしまったから、カラクリは動かない。
軋みさえ、しない。

























さぁ・・・と、強い風が吹いて、千石の橙色の髪の毛を強くなびかせた。
くせっけの髪の毛がふわりふわりと舞う。
私の髪の毛は千石よりも長いので、さらにうざったい。
視界がはざまれる。
前が見えない。




















































・・・・・・・・・・・・・な に ・・・?















気付いた時、風はまだ吹いていた。
だけど視界は開けて。
身体を包み込む温かい体温。
肌に伝わる服の感触。
肩に、人の頭の重さがかかる。




細い腕が地べたに座っている私の身体を力いっぱい抱き締めた。


























「・・・・・・・・・千石・・・?」

「・・・・・・。」

なにも言わない千石は、ただただ私を抱き締めるばかりで。
あまりに強く抱きしめるものだから、私は千石の顔を確認する事が出来ない。
今、どんな表情をしているのかわかりゃぁしない。





「        」

「え?なに?」

風が強くて聞こえない。否、かすれるような声だから届かない。





































「笑わなくなったのは、俺のせい?」


















言われた言葉にフリーズした。
くせっけの髪の毛が私の首をくすぐる。頬もくすぐる。
私は腕を上げると奴の髪の毛に指を絡ませた。
くしゃ・・・と、音をなして柔らかな橙の紐が絡み付く。












どうしたの。
なんでそんな事をいうのさ。

なんで今更。









私は他の女と一緒でしょ?

























「俺のせい?俺の事はもう嫌い?」

「どっちが・・・。」

「俺はいつも言ってるじゃん。」









そう、千石はいつも私に愛の言葉を囁く。
スキだよ、アイシテル、大スキ。

その言葉は全て偽りだと思っていた。
嘘っぽい笑顔を私に浮かべないで。

そう、思っていて聞き流していた。



















「君に言った言葉だけは真実だったのに。」

「それでもアンタの身体からは他の女の香りがする。」

「そりゃそうだよ。」

「てめぇ・・殴るぞ?」

「いやん、やめてvv」

浮気を聞かされて怒らない寛大な恋人だったら良いんですけどね。
分かってはいたけど本人の口から言われるとムカツクってもんだ。



































するりと一筋の髪の毛が私の指から抜けた。
少し身体を離すと、千石は私の瞳を見た。






「殴っても良いよ。だから笑って?」







泣きそうな、顔。











「殴ってもいい。だから戻ってきて?」





どうしてそんな風に笑うの。
























「じゃァ聞かせて。私以外の女を抱く訳。私を納得させる理由はある?」

「無い。」

「(ほんとうに殺してやろうかこの男・・・)」

「ない、けど。これは俺なりの愛し方なの。」

壊れた笑顔で千石は笑った。
嗚呼、そうか。




この男は・・・既に狂ってるんだ。
常識が通用するわけがない。
それを理解できなかった私がいけなかった・・・?




すぅと腕を伸ばして指先で私の頬に触れる。
微笑む、千石は・・・私に壊れた笑顔を向ける。



「他の女を抱くのは・・・君が一番だから。」

「意味がぜんっぜん分からないんですけどね。」

目をゆっくりと細めて、嗤う。

「汚い役は・・・・・奴らに回せばいいんだよ。」






何も知る必要はない。









そう、言ってるように思えた。





つぅ・・と、なぞる指はやがて首へと届いて、また千石の瞳は曇る。






「謝るから。心を壊してしまった事。だって

 好きだったから。    好きで・・・恐くて。  だって嬉しかったし。


   それに、あそこで待ったなんて、ずるいよ。」




文章になっていない。単語がつらつらと並べられるだけだ。





「女はみんな汚い。私もその意見に賛成よ?」


言ってやった。
私もそう思う。

だって疲れちゃうんだもん。



女って生き物は疲れるよね。
なんでいちいち避妊なんて心配しなきゃならないんだよ。
しかも困るの女じゃん。
それに疲れるのよね。
男が思ってるほど、女の世界は甘くない。



取り残される。


一歩踏みこむのが遅いだけで。

たった1mm行く方向を間違えただけで



あらら


もう一人になっちゃった。


一人で生きれる人がどれだけいるだろうか。
























群れるのを好む私達女は






いつも一人になることを恐れて









そうして






自分より弱いのもをたえず求める。










そんな世界にうんざりするから、私は千石との時間を過ごすのかもしれない。

だって真っ白になるから。
例えソコにあるものが嘘の愛だとしても。

嘘の囁きで私はここにいてもいいのだと思える。
たった一人でも







私を必要としてくれる存在が、私には必要だ。






































「・・・・・・・・・汚い?」


怪訝そうに千石が言ったから、その橙が交じる茶の瞳を見た。

「千石が先にそう言ったんでしょ?」

「ああ、まぁね。だけどニュアンスが少し違う。」

「?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけは・・・だけは綺麗なんだ。」




なんだそれ。



































だけは・・・俺の聖域なんだ。」














また、ぎゅぅと抱き締めた。
泣きそうになっているのが分かる。


馬鹿、泣き虫ね。

捨てられた動物みたい。



ふわりとする髪の毛にまた指を絡ませた。
ぐいと身体を引き離して瞳を見据える。
名残惜しげに、不満そうに千石は身体を離した。




































「大好き。」








くしゃりと笑ったら、一瞬呆けた顔をした。


そうして、嬉しそうに千石は笑った。

嘘のものかどうか判別つかないけど、嬉しそうに。
きっと今の時間だけは真実だと思いたい。






























「やっと笑ってくれた。」


微笑んだ千石は、安心したように私に口付ける。
絡み付く指と、湿った唇が、音を成さずに囁いた。
だけど私には聞こえる。




そのサインに早く気付けば良かったんだって。
何も言わなくても、私は特別だって言ってくれたのに。



















きっと





私はまた笑うことができるだろう。
















































――――――

真実の愛は、きっとすぐそこにある。


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