俺様的王様
「もうやだぁ〜〜〜〜景吾ったら・・・・。」
カラオケボックスの一角で、クスクスと笑う甘い女の声が漏れる。
ねだられて、キスを交わしながら、冷めた目で見つめる。
発情まっさなだかのメス猫が・・・・
そんな事を思いながら首筋に唇を這わす。
求められる分だけ行為を重ねて行く。
しゅるりとブラウスにかかっていたリボンを外した。
温められる、身体。
満たされるはずの、快感。
でも
跡部の心はからからに渇いていて。
それもそのはず。
彼を満たしてくれる女は一人しかいない。
がちゃっ。と、扉が開いて店員が頼んでおいた飲み物を持ってきた。
けれど二人はそんな事には目もくれないで続けて行く。
こんな事は日常茶飯事だから。
しかもこんな風に考える男女は多いし、今更店員も驚いたりはしないだろう。
見るつもりは、なかった。
興味は無かったから。
ほんの気まぐれで上げられた視線は女を凝視して止まる。
跡部は店員の顔を知っていた・・・・・
だんっっ!!!!!!
店員は思いっきりコップを机に叩きつける。
「きゃぁっっ!!」
予期せぬ出来事に小さく悲鳴を上げる女。
耳にうるさく残る黄色い声。
ぽたりぽたりと叩きつけた拍子にこぼれたジュースが店員の手にかかった。
前髪からのぞく鋭く厳しい瞳に跡部は射られる。
それでも、表情は無表情。
なにも移さない瞳で店員を見つめた。
「どうぞごゆっくり。」
けっ。と、吐き出すように言うとその場から離れる。
遠ざかる、足跡。
「なによっ!あの店員!!!ここの教育がなってないんじゃないの!?」
きいきいとわめきたてる女に不快感を感じながら先程の記憶をたどる。
思い出す。
一番欲しい女の事を。
・・・・・・・・・・・・・うるせぇな・・・・・・・・
隣にいる女は決して良い女でないわけではない。
相当場数を踏んでいるし。顔もまぁまぁ跡部好みだ。
それでもうるさく感じる。
・・・・・・・・どうしてあいつがここにいる・・・?
考えるのは、彼女の事。
きっと、今行けば怒りが増すのは分かっている。
行くべきでは、ない。
それでもいることを確認してしまった以上止められないだろう。
「お前、少し待ってろ。」
女に静かに言って、体を引き離す。
驚いたように目を見開く。ここからだというのにどこに行こうというのか?みたいな様子だ。
「えぇっ!!どこにいくのよ?苦情なら後で良いじゃない。」
「好きなもんを頼んで待ってろよ。それが嫌なら帰れ。会計は俺がしとく。」
それだけ言うと、跡部はその部屋から離れた。
「・・・・・・ったく・・・・・自分勝手は相変わらずだわ・・・。」
小さく悪態つく女の声は防音室の中であっという間にかき消された。
跡部が向かったのはすぐ隣の部屋。
見ると、案の定跡部に背を向けた形で淡々と机を片すの姿があった。
人の気配と、閉められたドアの重い音で振り返る。
そして、振り返った瞬間不機嫌になる。
「・・・・・・なんですか?お客様。」
ぶっきらぼうに言って、そのまま睨みつける。
「お前なんでここにいるんだ?」
「そんなこと話す必要はありません。」
・・・・・・あくまで店員として接しようとするにため息をつく。
「・・・・・・嫉妬かよ。」
ふっ、と跡部は嘲笑したように笑う。
その言葉にかっとして、は口を開いた。
「うぬぼれないでよっ!誰があんたなんか・・・っっ・・。」
思惑通り、あっさりと店員の顔を剥がしたに目を細めた。
満たされたい。
そう、思った。
ゆっくりと近づいてまっすぐを見つめる。
未だ睨みつけてじりじりと後ろに下がる。
本能的に察しているのが分かって、跡部はまた嗤った。
一気に距離を縮めて、腕を掴む。
ひるんだような瞳と、怒りの瞳。
受けとめて、意地の悪い瞳で返した。
「・・・・・・・・・・・接客サービスの仕方を教えてやるよ。」
どさりとをソファの上に倒す。
「ちょっと!なにすんのよっ!!!」
うつぶせになったまま、は非難の声を上げるけれど跡部はさらさら聞くつもりはない。
願いは一つだけ。
ただ今は、が欲しい。
「言ったろ?お前は接客の仕方がなってない・・・。」
「結構!今バイト中なんだからそこどいてっ!」
「嫌だね。」
短く言って、強引に首を向かせると無理な態勢のまま唇を奪った。
「・・・・・・っっ!!!」
滑り込ませられる下に逆らえずにそのまま押し流される。
今出来る事。
がりっ。
不快な音と、味。
口に広がる、鉄の味。
「は・・・・っっ・・・・自業自得よ・・・。」
息を荒くしながら顔を見ずにまたうつ伏せになった。
仰向けになっては、いけない。
それこそ相手の思う壺になってしまうだろうから。
力は、敵わない。
の意思も尊重されない。
それならば
こんな小さな抵抗ぐらい、許して欲しい。
跡部は唇の端から流れ落ちる赤い鮮血をぺろりと舌でなめ取って、くっ。と喉を鳴らした。
指を服の間に滑り込ませて胸の飾りに触れた。
瞬間ぴくりとの身体は反応する。
「景吾っっ!!!冗談よしてよっ!まだ仕事が・・・っっ・・・」
「いいじゃねぇか、ばれたらここを止めて他を探すだけだろ?」
「・・っっ・・・・・・私じゃなくてさっきの人に相手してもらえば・・・・良いでしょ!?」
それはもっともな意見。
「駄目だ。」
指でいじるのは止めずに跡部は即答する。
そう、見たからには止めれるはずがない。
だってあの女はの変わりでしかないのだから。
バイトだなんだとか言って全然自分を相手にしないに対する、あてつけ。
「・・・ふざけんなっ・・・・最低・・・・最悪!!・・・けだものっ!!!!」
「なんとでも言えよ。どうせ外には何も聞こえやしねぇし。」
何も出来ない自分が悔しくて涙がこぼれる。
背を向けつつも跡部はが涙を流している事を感づいていた。
それでもあえて見ない振りをする。
その代わりに下腹部に手を伸ばした。
「あっ・・・・・!!!」
短く叫ばれる声。
さっきはあんなに不快感があったのに何故かだと心地よいのは自分が惚れているからか。
そう思ったが、今はとにかくを苛めぬきたくて指を動かした。
感情とは裏腹に快感の叫びを上げる身体。
薄物のブラウスから透ける肌を眺めて服の上から唇を近づける。
「・・・・っ・・・ぅ・・・・最低だよ・・・・まじで・・・。」
うめき声はすぐに甘美の声へと変わる。
くちゅくちゅと指を動かして白い太ももを流れ落ちる液で濡らしていく。
それを舐め取るように舌を這わせる。
瞬間、びくっ、と今までにない反応を見せる。
「・・…なんだ…?嫌とか言っておきながらしっかり感じてるじゃねぇか。」
低く笑うと、かぁぁ・・・との耳が赤くなるのが見える。
羞恥心で一杯のその表情を存分に堪能したかったが未だ背は向けられたまま。
拒絶されたまま。
それでも、泉を求めるのには止められない。
喉がからからで。
早く満たしてと自分の身体が叫んでいる。
・・・・・・・・・そう焦んなよ・・・・・・・・・
そう、自分の身体に跡部はそう語りかけた。
「あ・・・・・っ・・・・はぁ・・・。」
太ももが弱いのには跡部が一番良く知っている。
勿論、それだけで落ちるとはてんで思えないけれど。
ただむさぼるように赤い痕を残して行く。
いくらなんでもこんな所に痕を残す虫はいないだろう?
という感情と共に印を残して、いく。
まだまだ苛めたくて、感じて欲しくて、唇をはなすと耳元へ持って行った。
「・・・・・・よく考えろよ・・・・隣にはさっきの女がいるんだぜ?」
「!」
ぴく。と肩が震えた。
それを確認して、より一層目を細める。
「それなのにお前はバイト中に、隣の部屋で、俺とこんなことをしてる・・。」
「一体誰のせいだとっ・・・・!」
「確かに声は聞こえねぇ。
でも一壁抜ければそこに女はいる。さっきまで俺とキスしていた女が……な。」
は感情に任せて頬を叩こうと手を振り上げた。
でも、ぱしりと。手首を掴まれて止まる。
小刻みに震える手。
自分を見下ろして笑っている跡部。
それが無性に腹が立った。
そこで、はっとする。
しまった・・・・!!
思ったときには時既に遅し。
一瞬の気の迷いを読みとって、跡部はの足を強引に開く。
「景吾っっ・・・駄目っっ・・・・・・!」
制止の声は、聞かない。
そのまま自分をの中に押しこんだ。
「あぁっっ-―――――――!!!」
ずぶり。とした感触。中に感じる異物感。
けれども感じる快感。
押し寄せる、波。
身体をぐっと前に倒してまた囁きかける。
「こんなに身体は喜んでるのにお前の感情は否定してる。」
「当・・・・・然・・・・・っっ・・・・!!!!」
「壁一枚隔てた場所に人がいると想像してみろよ。」
「っ!!」
甘く、優しく。
今は仰向けになっているからその表情が良く分かる。
羞恥に赤くなる顔。
屈辱に満ちた表情。
その全てが、
今は跡部を潤す。
身体に流れてくる快感。ずっと待っていたもの。
「お前は・・・・・・淫乱な女だ・・・・。」
言って、ぐっと身体を動かす。
「ああっ!!!」
言葉だけでこんなに感じてくれるがとても愛しくて。
自分だけが見ることの出来るその表情を見つめた。
「ふっ・・・・すっげぇ締め付け・・・・・。」
「け・・・・いご・・・・・」
途切れ途切れに呼ばれる名前。とても心地よい響きだ。
金色に塗り縁取られたハープのような、心地よさ。
呼ばれて、背中に手を回されて微笑む。
やっと、満たされる・・・・・
どくっ。
身体の中から流れてゆく液体を止める事が出来なかった。
「――――――――――っっ!!!!!!」
歯を食いしばってそれを受けとめる。
流れ落ちる涙を今度は優しく舌で拭う。
「・・・・・・・・信じらんない!!!!」
の第一声は、それだ。
ふとした瞬間できた隙を見計らって、頬をはたかれた。
今は少し張れあがる頬を撫でる。
「・・・・ったく・・・この俺の顔をはたきやがって・・・・。」
「まだ、んな事言ってんの!?そんなの当然の仕打ちだよっ、警察に付きつけられないだけましと思いなさいよっ!!!!」
くしゃくしゃと頭をかきむしる。
「ああああっ!!!!もう信じらんないっ!!なんで中出ししたりすんのよ!」
「仕方ねぇだろ、なかったんだから。」
「仕方ないで済む問題!?あんたは男なのに我慢も出来ないわけ!?」
「悪かったな、できねぇよ。」
「子供できたらどうすんのよぉぉぉぉ・・・・・・。」
子供?
言われて、初めて気付く存在。
子供・・・・・か
子供がいたらこいつは俺の側にいんのか?
とか思ってしまう。
子供が出来たらもうこんな風にないがしろにされたりはしないのか。
でも、きっと今言っても逆効果で、それこそもう一度平手が飛んでこないとは限らないから。
言うのを止めた。
乱れた髪をかきあげる。
「やっぱり景吾は最低な男だわ・・・・他にも女がいるってのになんで私なのよ・・・っっ。」
ぶつぶつと怒りを言葉に出して服を着る。
元通りにする為に髪を指ですいて、睨みつけた。
「しばらく、会わないからねっっ!!!」
…やっぱり・…そう来るか。
予想していたものと同じ台詞。
でも、そんな事をしたらまた身体は渇いてしまって。
きっとまた他の女では満たしきれなくて。
今度はもっとひどい事をするだろう。
それこそ、自分が止めれらないほど。
定期的に、満たす事が大切なのだ。
それを、は分かっていない。
これではどうしようもない悪循環。
はーーっ、と、今更ながらに後悔をしてうつろな表情でその背中を見つめる。
止めはしない。
止めた所で止まらないから。
でも
は止まった。
扉を開けようとしたら人にぶつかったからだ。
「いたっ・・・ごめんなさ・・・・。」
そこまで言って、目を見開いて止まる。
目の前にいる人物を、凝視する。
「うわぁっ!!!!」
かくして、はまた跡部の腕の中へと戻ってきた。
突然の事で驚いて慌てて体を寄せる。
きっとこいつは無意識にこういう行動をしてるんだろうなと思ったら跡部は少しだけ呆れた。
「あ・・・あわわ・・・。」
が動揺するのは当然の事。何故ならそこには先程跡部と一緒にいた女性が立っていたから。
しかも、無表情で。
これが怯えずにいられるだろうか。
「やっぱりね。こんな事だろうとは思ったわよ。」
大して気にする事もなく冷ややかに跡部を見る。
「最初から見てたのか?」
「残念ながら終わった後よ。」
そこで、少しだけは胸をなでおろす。
見られていたら、それこそ直視出来ない。
「ど・・・どうすんのよっ・・・・。」
ぼそぼそと跡部に話しかけるが飄々と答えられた。
「考えても仕方ねぇだろ。堂々としとけ。」
堂々って・・・・・・・・・・
とか思ってしまう。
そして、全然平静を装ってる跡部を見てきっといっつもこんな事やってるんだと思った。
むぅ。と、考えているといつの間にか彼女はの顔をじろじろと見ていた。
まさに、見定めているという感じ。
「ふーーーん・・・・・これが景吾の新しい彼女?」
「ちげぇよ、オリジナル。」
その言葉に少し驚いたように目を見開いて、「へぇ。」と言ってをまた見た。
「こういう顔が好みなの、本当は。」
「別にそういうわけじゃねぇよ。」
「んじゃ内面が気に入ってるんだ。」
「・・・うっせぇな、早くどこかいけよ。」
その言葉に、ギョッとしては跡部に掴みかかる。
「ちょ、ちょっと・・・そんな言い方ないじゃん!景吾がないがしろにしたんでしょ!!」
「そうよねぇ。本命さんは優しいなぁ・・。」
ふふっ。と笑って頬を撫でられた。
綺麗に手入れされた指が撫でて、思わずどきりとしてしまう。
綺麗な顔のこの人が自分を見つめてなんだか照れてしまった。
それなのに、どうしてこの男は自分を抱いたのだろう?
「あの・・・。」
「ん?」
「えーーっと・・・・・もしあなたが良ければ今度から景吾の相手をしてもらえませんか・・・?」
一瞬、その場の空気が止まった。
「?」
そして響く高らかな笑い声。
「あははははははは・・・・・っっっ!!!!!」
跡部は思いっきり、はー―っと・…とため息をつく。
分からないのは、自分だけ。
「あーーおかしい。景吾が気に入ったのも分かる気がする。」
「俺は頭が痛い・・・・。」
まだ腹を抱えてくっくっ・・・と笑うこの綺麗な女性はへと視線を移した。
「おもしろい人ね。景吾と私が寝ても良いの?」
「あーー・・・・別にそういう面では。私あんまし得意じゃないので・・・。」
「そう。でも私時々は本命さんが相手してあげないと駄目だと思うなぁ。」
もうすでに「本命さん」というあだ名をつけれられてしまったは良く分からないといった風に首をかしげた。
そんな姿がまた可愛くて、微笑む。
「だって、景吾はどんな女と寝たって結局は満たされないんだもの。」
「・・・・?・・・・・良く分からないのですけど・・・。」
「今は、まだ分からなくて良いわよ。」
それだけいうと、頬にキスをした。
思わず、固まる。
「!?」
「またねーーー♪本命さんに景吾vvv」
そう言って、手を振りながら部屋を出ていく。
残されたのは、跡部とのみ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
は動揺して固まって、跡部は何も気にしていない風にドアを見つめていて。
そして、はたと気がつく。
良く考えたらは跡部の膝の上に乗っていた。
目があって、顔が赤くなる。
思いっきり、身体を引き離す。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前から飛び付いてきたんだぞ?」
「わ・・・・わぁぁぁ・・・わかってる!」
動揺でろれつが上手く回らない。
「ったく、気に入られやがって…。」
「…気に入られたの?私は。」
「思いっきりだろ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さっきのことが頭から離れない。
大笑いされて、最後にあの人は・・・・・
っていうか・・・・・ほっぺにちゅうだよ・・・・しかもあんな綺麗な人から・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく考えて、きっ。と、跡部を睨んだ。
「全部景吾のせいなんだからぁぁぁぁぁぁ・・・・!!!!!!」
「あぁ!?」
結局は、全部跡部が悪い事になってしまうのであった。
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後書き
あぁ、やらしいやらしい。このフェロモン男は。
しかもめさめさ強引なのですね。
でも、こんな風に押し倒されたら幸せ者だと思ってしまう私は末期症状ですか?
すんごい自分勝手でわがままで、俺様的で。
でも、こんな彼がとても好きですvvv
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