「(…………………しまった)」



それは一瞬の油断だった


― らぶじぇねれーしょん ヒーロー ―


暗闇の、倉庫。
そこに待ち構えていたかのように私を取り囲む狼さん達。
にたにたとした気持ちの悪い笑みと、私を品定めするかのようなねっとりとした視線。
頼みの綱である出口は当に塞がれていて。
どうしようもなく、格子窓からかすかにもれる光だけが頼りだ。

「こりゃぁ…大物だな。」

「ガキのくせに躯だけは発達してんな。」

「ひゃひゃ、お前も同い年だっての!」

「楽しめそうで安心したぜ。」

ああそりゃどうも。


ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ…五人か。やれるかな。



私は冷静を装いながら背筋をしゃんとして目の前の敵を見据える。


「怖くねぇのかよ、お嬢さん。」

「別に。負けるつもりないし。」

「良いねぇ!!!俺気の強い女好きよ?」

「私は下世話な男は嫌い。」

「はっ、上等!!!!」


それが合図。
目の前の男が動いて私に掴みかかろうとした。
私はそれを状態を低くして避けると、男の急所である股下めがけて蹴りを入れる。

「ぎゃぁ!!」

「っっ!!!てめぇ!!!!」

オイオイ。

女一人相手に五人で掴みかかるなよ。
……………………っとに、男って単純細胞。










































一気に組み敷かれて。
堅いコンクリートに頭をこすりつけられた。

「さっきの勢いはどうした?」

にたにたとした気持ち悪い笑みを浮かべないで。吐き気がする。
だから、べっ、と唾を頬にはいてやった。

案の定、ご立腹。

「このアマ!!!!」

ぱあん!!!と、響きのよい音がしたと思うと頬に痛みが走った。
それは段々熱くなって痺れとなる。

途端に私のスカートを荒荒しくめくったものだから、少々驚く。
視線を動かすと、はぁはぁと荒い息。

「はっ…白い太股…綺麗だねぇ。」

「変態。」

「その口…すぐ塞いでやるぜ。」

俺達のモノでなァ…

はっはっは―――――――!!!と、大笑い。

あはは、本当におかしいったら。
つーか、マジでやばい。
あーもー、こんな時なにやってんのよ。
くそ、なんとかしやがれ。



「声あげねぇな、この女。」

「諦めたんじゃねーの?」

「別に構わないだろ。こっちの方がやりやすい。」

少し戸惑ったような声が頭上から聞こえた。
その間も私の身体から服は脱がされていって。
しかも強い力で私の腕を押さえこむものだから動けもしない。
戸惑った声を出したのは、私の腕を押さえてる男。

それを、ちらりと見遣ると本当に戸惑ったような顔してる。
オイオイ、それが今から強姦しようとする男の顔ですか?
青いわねぇ…
おっと。こんな悠長にしてる場合じゃないわよね。

そうしたら、ぐいと顎をつかまれた。
一番やばそうな男(つーか、絶対サドだわ。間違いない)が目をぎらぎらさせて私に近づく。

「おい。泣かねぇのか、助けを呼ばねぇのか。」

「叫んで欲しいの?」

「見たいねぇ。お前のような女が泣き叫ぶ面をよ。」

「本当に悪趣味ね。」

「冷静すぎてむかつくんだよっっ!!!!」


あ。また殴ったな。
顔は女の命なんだぞぉ。

「お、おい…。」

「なんだよ!!口答えすんじゃねぇ!!!今からこの女ヤルんだぞ!!??」

「そ、そうだけどよ…。」

まァ優しいったら。笑っちゃう。
だったらその手離してくれないかしら。

べっ、と、口に溜まった血を吐き出した。

鉄の味が口一杯に広がって気持ちが悪いったらない。
ああやだやだ。

「お前よ、良いのかよ。処女なんだろ?」

腕を掴んでる男が私に尋ねた。
ふとももにねとりとした舌の感触がして気持ちが悪い。

うっすらと目を細めて顔を上に向ける。

「叫んでどうなる?」

「え?」

「誰かヒーローが駆けつけてくれるのかしら。」

「……………。」

「そんな格好悪い真似、しないわよ。」

く、と、笑って見せた。

「格好悪い事嫌うんだもの。」

「それって、お前の…。」

「そ、好きな人。」

「おい!!なに世間話してやがる!!!!!」

「うっさいわねぇ。早く終わらせてくんない?私これから部活なの。」

「ほーぉ?」

ひくりと頬を引きつらせて、男は私を見下ろした。

「部活に行く暇なんざ与えねぇよ。」

「困ったなァ。」

「おい、もう止めようぜ。」

「ああ!?」

「ここまでしたら十分だろ。」

「なんだよ、びびってんのか?」

「そうじゃねぇけど…。」

何故だか、彼だけでなく他の3人も躊躇っていた。
腕を掴む力は弱い。

私の何を気の毒に思ったのか。

「もう良い!!!俺だけでなんとかする!!!!」


がっ!!!と、私のひざを掴むと腕に力をこめた。
ああもう、ヤバイったら。


はー……………と、大きく溜息ついた。


その、瞬間。


































ばきぃ!!!!!!!!!!!!
と、思いっきり吹っ飛んだ。扉が。
あれぇ?ドアってそんなにやわなもんだったかなぁ。


はぁはぁと息を切らして。
光るのは、グレーのその髪の毛。



さすがの私も驚いて目を見開く。


「……………………………………長太郎。」

「先輩っっっ!!!!!!!」


駆けよって、その勢いで私の上に乗っかってる男を殴り飛ばした。

「(ゲ)」

私は温厚な長太郎した見た事なかったから、驚くしかなくて。
同時にちょっぴりびっくりして怖かった。

「先輩、大丈夫ですか!?」

殴り飛ばしたことなんてとっくに忘れてる(否、気付いていない)長太郎は私を抱き起こすと半裸になって、しかも顔には傷こさえてる私を見て狼狽した。


「…………………………ヒーロー…。」

「え?」

「なんでもない。」




「てめぇ…。」

ゆらりと男が立ちあがって、手には棒を持ってた。
あらやだ。反則じゃない。

ゆらりと立ちあがったのは長太郎も一緒。
でも、違うのはまとっているのはいつもの空気じゃないってこと。
背中から伝わってくるびしびしとした棘が見えるようだ。


「それはこっちの台詞だ…。」

ぎんっ!と、瞳を鋭くした長太郎はひどく怖かった…です。

















































*
*
*


「ぎゃ!痛い!!!もっと優しくやってよ!!!」

「そんな事言える立場なんですか!?静かにしていて下さい!!!」

さっさと片付けて報復をした長太郎は、手際良く私に服を着させると今度は私を保健室につれてって(しかもお姫様抱っこだった…誰にも見られなくてマジよかった…)頬の手当てをした。

「全く、何やってるんですか!!!!いなくて心配したら、こんな…もう!!!!」

ぷりぷりと怒る大型犬をよそに、瞳をぷいと反らす。
長太郎はぷりぷりと怒ってる。


「喧嘩…強いねぇ。」

「え?」

「私なんて太刀打ちできなかったのに。」

「そりゃ…しょうがないですよ。先輩女の子ですもん。」

「だったら男に生まれたかった。」

視線は床に。
声は強く。

本当に、そう思う。

こんな弱々しい私なんて大嫌い。


長太郎は、困ったような顔をして、私のほほにひやりと冷たいタオルを当てた。

「良いんですよ、男が守りますから。」

「守られるのが嫌なんだよ。」

「今度は言って下さいね。狙われてたなんて知れたら跡部部長が悲しみます。」

「今日は油断しただけ。」

「(今日は!?)俺…本当に心配になってきました。」

優しいなぁ。長太郎は。
伏せていた瞳を上に上げる。
そうしたら長太郎は少し驚いたように目を張った。

「やーね、あんたは宍戸の心配だけしてればいーの。」

「…………………。」

「私、長太郎のこと好きになっちゃいそう(にっこり)」

「え、ええええええええええええええ!!!!!」

「だってすっごく男らしかった。」

良いねぇ、男の子って。

そう、笑う。


ね、どうしてそんな困った顔をするの?


「先輩…」

「ん?」

「どうして4人逃がしたんですか?」

目を反らして、すね気味で。
長太郎はそう言った。

「気に入らない?」

「勿論です!!だってあいつらは先輩を…!!!」

くすと首をかしげて笑ったら、長太郎は顔を上げて本気で怒った。

良いね。好きだよそういう所。



「良いの。本気なのはあの男だけだったから。」

「え?」

「なんでかなぁ、途中から戸惑いはじめたのよ。」

「…………。」

「あはは。おかしいったらないわ。ヤろうと思ってたくせにね?」

笑ったら、長太郎は微妙な表情をして。
私はそれに気付いたから目を開ける。

「多分…俺でもそうしたと思う。」

「ん?」

「先輩を、本気で嫌いになれるやつなんていないよ。」

また視線をそらしてぱちゃりとタオルを水につけた。
私はその言葉の意味を理解しかねて。
ただただ長太郎を見つめる。


「もっと自分を大事にして下さい…じゃないと。」

「じゃないと?」

「俺達、先輩になんかあったらきっとどうになかなっちゃうし。と、いうか…多分酷いことになる。」

真面目にそんな事をいうものだからこちらも真面目に受けとってしまった。


「流血ざた?」

「そうかも。」

「あはは、それは嫌――――――――。」


あ、やっと笑った。


そう、その顔が好き。



やっぱり長太郎は笑った顔が一番好き。








































―――――――――――

「て、ゆーかこんな顔されて跡部にどんな言い訳しよう。」

「綺麗な顔が台無しですね。」

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。」

「良いんじゃないですか?普通に乱闘したって言えば。」

「あはは、次の日跡部の権力によって行方不明者続出だよ!」

「五人だけじゃないですか。」

「違うよ。関係者全員、さ。」

目を細めて嗤うその顔は、あまりにも綺麗すぎた。


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