変な女だと思う。
おかしな女だと思う。


だけど


凄く一途で



そして、本当はとても優しく傷つきやすい。





















― らぶじぇねれーしょん 月の記憶 ―










先日、マネージャーに入ったは酷くがさつな女だ。
けれども、とても人懐こくて、話しやすい。
一緒に居て、疲れない。


この俺でさえ、そう思う。





































私ねー、跡部が好きなの。




































臆すことなく俺にそう言い放った。
それは俺が一人遅くまで残っていた日のことだった。

外は夕闇。
電灯がコートを照らす為に明かりを灯す。



そんな、日だった。










レギュラーになっても油断はなれない。
俺はラッキーだ。
一度レギュラー落ちした奴を監督は二度と使わないで有名だったけれど。

俺は、沢山の人の手助けによってこの場に帰って来れた。
だから守らなければならないのだ。




















滴れる汗をタオルで拭きながら、すっかり暗くなった道を歩いて部室のドアを開けた。
そこには誰もいないと思っていたから。































「お。お疲れー。」



酷く驚いた。
薄ぐらい部室の中で机とセットになっているイスに腰掛けてがこちらに顔を向けていたから。
うっすらと月が昇るその暗い部屋に、鉄格子のような窓をバックにして。
月が空に上るのを、鉄格子越しに見ることが出来た。

穏やかな瞳と微笑が俺を迎えてくれた。

「なんでお前がここにいるんだ?」

「んー?いたらいけない?」

「いる理由があったのか?」

「例えば?」

「仕事・・・とか。」

「そうねェ、今の私の仕事は宍戸を待ってる事かしらね。」


変な女だ。
に・・・、と、わらっては瞳を細めた。
俺の目に映る三日月のように。





「早く着替えて?そんでもって一緒にごはんでもたべよーよ。」

「それが狙いか?」

「まーね。」


嘘だ。こんなのは口実だって分かってる。
ったく、どうしてこいつはこうなんだよ・・・。
こいつの性格が極悪だってことぐらいみんな知ってる。
だけど優しい事もみんな知ってるのだ。
ぶつくさ良いながらも俺達に平等にその優しさを与えてくれる。






「電気ぐらいつけやがれ。」


パチリと電気のスイッチを付けるとパッと明るくなった。
まぶしい。とでも言うようには目を一層細める。

「まぶしっ・・・。」

「そんな所にいるからだ、馬鹿。」

「それが待っててあげた私に言う言葉?」

「待ってたのはお前の意志だろ。」

「まー、そうだけどさ。チョタ朗は?」

「今日は用事があるんだと。」

「へェ、怪しいね。」

「あ?」

ロッカーを開けて制服を取り出して、俺は手を止めた。
俺がに目を向けると背中越しにくすりと笑いを漏らす声が聞こえた。

「だぁってそうでしょ?怪しくない?」

「・・・・・・・・・・・なにがだよ。」

「・・・・・・・・・・・ま、そこが宍戸の良い所だよね。」

肩越しに不敵に笑っただったが、すぐに呆れたように微笑んだ。






制服に着替える俺。何も言わない
ゆるやかに流れる時。


衣擦れの音だけがゆっくりとその空間に流れる。







「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「何?」

「お前な、電気ぐらいつけろよ。一体誰がいるんだと思っただろ。」

「あぁ、もしや泥棒とか思って身構えちゃった?」

「ちげぇよ。驚くだろ。」

「・・・・・・・・・・・・だから、驚いたんでしょ。」

「ったく、暗い部室で何やってたんだよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」


沈黙。

は口を噤む。だから気になってしまった。
畜生。別に心配してるわけじゃねーぞ。




「・・・・・どうしたよ。」

「くす、宍戸は優しいね。」

「ああ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暗い部屋のほうが安心するから、良いの。」

はっきりと、その言葉は俺の耳に届いた。
いつものとは考えられないほどに弱気な台詞に、ばさりとシャツを着て動きを止める。
俺の目にうつるのは小さな背中。





































              
思い出しちゃうのよー。

             なにを?

             こんな夜だったよー。

             どんな?

             私ね、宍戸。この夜に跡部に告って、振られたんだぁ。

             ・・・・・・・・

             困らないで。もう終わった事だし。

             ・・・・・・・・

             だから、思い出す。あの日もこんな夜だった。

             ・・・・・・・・

             綺麗な三日月よね。

             ・・・・・・・・そうだな。

 






























「私ねー、跡部が好きなの。」






肩越しに振り返ったと目が合った。
強い、瞳。

俺は知っている。以前俺もそんな目をして監督の前で髪を切ったから。

決意の瞳だ。
決して揺るがず、騒がず。

静かにうつる水面のように冷めているのに、内面は酷く燃えている目。





「・・・知ってる。」

「現在進行形、でね。」

「知ってる。」

「一途な女でしょ?」

「そうだな。」




瞳だけが光るその顔に、ふ・・・と、緊張をほどいたように微笑を浮かべた。


「お腹すいちゃった。早く着替えて?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何考えてるのか分からねぇ。




俺は言われるままにネクタイを手に取ると、首に通した。





「ねぇ、宍戸。」

「あー?」

「チョタ朗とはどこまでいってんの?」



ガタッ!!!
動揺しすぎて俺は思わずロッカーに足をぶつけた。

「いてぇっ!」

「あらあら、大丈夫?」

「お前のせいだろっ!!」

弁慶の泣き所を、それこそドリフか!?な、勢いでぶつけた俺はその場にしゃがみこんだ。
カタンと音を立ててイスから立ったは俺の前で座る。

くすくすと笑うその顔はまさに悪女。

「で?」

にィ。と、嗤った。

恐いっつーのに。


「・・・・どっ・・・どこまで・・・って・・・。」

何を思い出したのか、かぁっ!と、頬が熱くなった。
こんな反応はを更に楽しませるだけだというのに。

「幸せだねぇ。」

「うるせぇ!」

「チョタ朗可愛いもんね。私もあんな犬が欲しかったなー。」

・・・・・・・あいつの価値は犬と同等か?


凄く遠い目をするを見て、思わずつっこみしそうになってしまった。













「・・・・・羨ましいよ。お幸せにね。」



その笑った顔は・・・





















消え入りそうだった。





































どうしていいか分からない。
目の前で笑うこの女に対して。



はその場に立ち上がると、くるりと背中を向けた。
















「帰ろう?」



優しく微笑むその姿は、酷く綺麗だ。



いや、こういう場合は



「気高い」と、言うのだろう。






































すっかり月が昇る。
その下で、はまた「あの日」の事を思い出しているのだろうか。
隣りに並ぶは微笑んでいる。
隣りに並んで何を食べようかと独り言を呟いている。


「宍戸は何を食べたいー?」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ん?」

「跡部じゃなきゃ駄目なのか?」

俺の質問に、きょとんとした表情で大きな瞳を丸くさせた。

「だってそうだろ。別に跡部じゃなくとも・・・。」

「駄目なの。」

きっぱりと、言い放った。



どうして?

聞きたくなった言葉を飲みこむ。
















「私不器用だからさー、駄目なのよ。器用なことなんて出来ないんだもん。」

「勿体ねぇな。」

「?」

「お前だったら、他にも男ができるぞ?」

言ったら、先ほどと同じように目を丸くして、笑った。

「やっだー、宍戸にはそんな台詞似合わないってぇー!!」

「痛ぇ・・・。」

ばしばしと背中を叩くこの馬鹿女を慰めた俺が馬鹿だった。

「でもありがと。」

にこりとが笑う。
むぅ、と、俺は唸る。

「諦め切れないのは、跡部も私のことが好きだから。」

「随分な自信だな。」

躊躇も無くそんな事を言う。
言葉は強く、鋭い。
自信満万で月には笑いかける。



それはまるで挑むように。




































「で、さ。どこまでいってんの?」

「だからっ!!お前は突然なんだよ!!!!!!」

「今更じゃん。ソーリー。」

「(こいつっっ・・・!)」

「不安になんないの?」

「なにがだよ。」

「だってあんたたちの関係ってモーホーじゃん。」

この女は失礼だ。
普通本人目の前にそんなこと言うか?

「別に関係ねーだろ。」

「そうね。好きになった相手が男だった。て、話だもんね。」

「・・・・・・。」

「だけど、それを受け入れるのに時間がかかったんじゃないの?」

「・・・・・・。」

「宍戸も不器用だからね。」

「も?」

「・・・・目ざといなぁ。」

「他に誰がいるんだよ。」

「えー?私とか?私とか?てか、私とか?」

「はい嘘。」

「うわっ、むかつく!!」

きぃ!と、ハンカチを噛むしぐさをしたの行動がおかしかったから、笑った。
それを見て、も笑う。

屈託なく笑うその笑顔が











凄く好きだ。






















「私ね、宍戸のこと好きだよ。」














・・・・・・・・は?・・・











「お前が好きなのは跡部じゃねーのか。」

「うん。だけど宍戸も好きだよ。」

にこにこにこにこ・・・その笑顔が居様に恐い。
きっと邪険はないのだろうが、どうも恐い。










「だからさー、幸せになって欲しいわけ。」

「・・・・・・・・・・・お前もな。」

本気で、思う。

幸せになって欲しい。


「イエッサ――――――――!!!」



だけど、どうしてか真面目に捉えられないのはどうしてだろう(コイツのせいだっ!!!)




























まぁ、良い。
今日と一緒に分かった事は、相当変な女だったって事。

そして、少しの内面が知れて良かったと言う事。







とりあえず、今はコイツの行く末を見守るだけ。


見守るだけしかできないけれど。


































どうかどうか幸せに。













それは、本心だから。








































「・・・・・・・・・・・・・きゃー、美味しそうっvv」

「・・・・・・・・・・・・。滝汗。」

「あれー?食べないの?(にやり)」

「お前っ・・・まさか謀ったな・・?」

「そんな事ないよぉ。宍戸がなんでも良いって言ったんじゃん。」

「・・・・・・・・・・・・・それがこれかよっっ!!!」

「美味しいよー?この『珍劉狂参道のナマズ磯辺川焼きのソテー』(店の名前も怪しいが料理も怪しい)」

「嘘付けよ!!!なんかぴくぴくしてんぞ!?この魚!!生きてんじゃねーの!?」

「やだ。それが美味しいんじゃない。だってあんた、白魚の踊り食いと同じだよ。」

「ちげぇよ!!絶対ちげぇ!!!」

「もー、我侭ばっかりだなぁ。はい、あーんvv」

「――――――――っっっ!!!(長太郎!戻ってきてくれ!!!)」






























―――――――

はい、しゅーりょー。
とりあえず途中まではシリアスだったのにぃ。
やっぱり私はどこか笑いを求める奴だったのでした。

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