楽園
「眠い。」
隣で一緒に歩いてる彼女が、そう言った。
「寝てないの?」
「っていうか、夢見悪くて・・」
その横顔は本当に眠そうだ。
うつろな瞳は焦点をとらえず、どこか遠くを見ている。
「私この頃思うんだけど。」
屋上に行くまでの道のり。廊下に響く声。耳を、傾ける。
「自分眠すぎて死ぬと思う。」
ガクッ。突発的な言い分に、僕は思いっきり脱力してしまった。
「どこかの誰かは二週間睡眠を取らなくても死ななかったみたいだから平気だよ。」
「何ソレ。実験でもしたの?」
「・・・・・かもね。」
「あほらし。」
名前もわからないどこかの誰かが行った努力を、思いっきりアホ呼ばわりした彼女に対して、僕は苦笑するしかない。
「この時期はいっつも寝不足だよね。」
「あー―、寒いからじーさんやばーさんが死ぬのよ、きっと。」
そう言って、彼女はまた大きなあくびをした。
・・・・相当眠いらしい。自分がなに言ってるか分かってる?
彼女の名前は、。
とは幼馴染だけど、付き合い始めたのはつい最近。ずっと一緒にいて、自然とそういう形になった。・・・・・ずいぶん長い道のりだったけどね。
には常人ならば持たないであろう第六感が、ある。
つまり・・・霊感。
けれどは巫女でも、家が神社とかでもなくて。
普通な家庭に生まれて、普通の両親から生まれて。
けれど
人が「ミエナイモノ」を見るものとして生まれた。
なぜ霊感が強いのか定かじゃない。
そして困った事にそういうものに凄く敏感に反応するから、時折夢見が悪くなって眠れなくなる・・・・らしい。
小さい頃はよく泣いていた。
そんなの手を引いて家に連れて帰ったことが何度もある。
「なつかしいな。」
自然と、思い出が言葉としてでた。
「なにがぁ?」
くす。やっぱり君は眠そうに答えるんだね。
「うん。小さい頃のこと思い出して。」
「・・・・・・ヤダ。何いま思い出してんの?」
あらかさまに、嫌そうな顔をした。
そんな彼女を見て、僕はフフッと笑う。
「もうは泣かなくなったんだなって思って。」
「?」
「小さい頃は、眠れなくて良く泣いてたじゃない。」
「・・・・・・嫌な過去よね―。」
そう、気のない返事をした。
昔のことを言われるのはいやらしい。
「涙は・・・・・・・・枯れた。」
そんな事をポツリと呟く。なぜか、その横顔は憂いを帯びていて、とても気になった。
「ぅわっ、さむっ。」
口を開きかけた僕の言葉をさえぎるようには屋上の扉を開けた。
まだ今は2月。
天気は良いけれど気温は低い。
いくら寒くても、教室とかにいると色々めだっていやだからと彼女が言ったからいつも僕達はここに来る。
どうして目立つか。
僕はそうは思わないけど一緒にいるとそれだけで注目を浴びるらしい。
一度「私達は動物園のパンダじゃないっつーのよ。」と、悪態をついたことがある。
僕が「が可愛いからだよ。」といったらあきれた顔をして、
「知らないって罪よね―――。」
と、言われた。
・・・・・・・本当の事なのにね。
風に髪をゆらして立つ彼女のうしろすがたを見て。
あ・・・・・・なんか・・・・
と自然に思った。
刹那、僕の予想通り彼女は後ろに倒れる。
「っ!!」
急いで彼女の元へと駆け寄る。
すんでの差で、僕は彼女を受けとめる事が出来た。
「わっ。」
けれど、重力に従った僕の身体も後ろに倒れ、しりもちをついてしまった。
彼女の頭がひとまず僕の膝の上におさまって、僕は深く息をついた。
「・・・・・・・っぶないなぁ。」
聞こえるのは、規則正しい寝息。
「なんで・・寝ちゃうかな?」
彼女はなにも返さない。
くーくー。と寝つづける彼女の前髪をかきあげて、その額にキスを、する。
これが今の僕達の関係。
相手が起きないのを確認して、そっと秘密のキスをする。
そんな関係。
「君は、僕が男だって分かってるのかな?」
答えが返されないのを分かっていながら、僕は尋ねる。
「あんまり無防備だと・・・・襲っちゃうよ・・良いの?」
そんな事は出来ないと分かっていながら、尋ねずにはいられない。
そう、は・・・・無防備過ぎる。
いつも人と一線を引く彼女だから僕の前で「本当の自分」を出してくれるのは嬉しい。
でもね。
それは僕だけじゃないというのも事実。
心を開いた相手ならば誰でもは無防備になる。
ソレが・・・・狼の群れの中に立つ羊だという事をは知らない。
だから、僕が守れないといけない。
そんな使命感が・・・・あった。
大好きなきみ。
僕が好きな分だけ、好きになってくれれば良いのに。
君の心の中が・・・見れれば良いのに。
そんな事を、思わずにいられない。
キ―ンコーンカーンコーン・・・・・・・
僕の耳に4時間目を始めるチャイムの音が聞こえる。
でも動かないよ。
だって君を残して行けないし。
第一・・・君が膝の上で寝てるから動けないし。
このまま寝つづけて、起きなかったら・・・・困るし。
「・・・・ん・・・・・。」
長いまつげを、重たげに上げて、は目を覚ました。
むくり。と起きると大きく伸びをする。
表情はまたぼうっとしてるけど、さっきよりも随分気分が良さそうだね。
良かった。
「不二・・・今何時?」
「今4時間目のチャイムが鳴ったところだよ。」
「なんで・・起こさなかったのよ。」
「ああ・・・だって。」
「すとっぷ!」
「?」
言おうとしたら、彼女に制止された。
「やっぱり止め。だって不二の事だもの。「君の寝顔が可愛かったからvv」とか何とか歯の浮くような台詞を言うのが目に見えてる。」
僕の声真似をして、彼女は言った。
「・・・・・違うよ、僕が言おうとしたのは「気持ちよさそうに眠ってたから悪いと思って。」だよ。それに、がひざに乗っていて動けなかったんだってば。」
「ソレがソレは・・・悪うございましたぁ!」
少しやけになって答える。
ほんと・・・かわいいよね。
「もういっか・・・。もどんの面倒だし。」
僕が思ったことと同じことを言ったから、少し微笑む。
「良いの?皆の前では優等生でとおってる様が。」
「嫌味のつもりなわけ。でもね、普段そういうイメージだからまさかまさか・・立ち入り禁止の屋上に来て、しかも眠ってるとは気付かないでしょ。きっと気分が悪くなって保健室に行ってるんだと思ってるわよ。」
「結構悪だよね・・・・。」
「やーねーーー人は誰しも仮面を持ってるものよっ!」
そういって、僕の背中をバンバン叩いた。
落ちつくと、彼女はまた僕の膝の上にごろり。とあたまを、のせた。
しばらく僕の顔を見て、ほほに手があてられる。
「なに?」
あまりにじっと見たから、尋ねてみる。
「んーーー?不二は何か力持ってるのかなって。」
「・・・・・・力・・・・・。」
「でも何も見えないのよね。」
不思議そうに言いながら、彼女は指先でぼくの髪をあそぶ。
「ぐっすりね・・・・眠れるの。」
さっきから良くわかんない事を言う彼女を、ぼくはただ見るだけ。
きっと、すぐに解決するだろうから。
今は、きっと前置きだから。
「不二の側にいるとね・・・・・眠れるの。」
ゆっくりと、彼女は言った。
僕は、その言葉を耳に残す。
ひさしぶりに聞いた・・・・口説きもんくだ。
幸せをかみしめて、にっこりと笑う。
「それじゃぁ、ずっと一緒にいようね?」
少し目を見張ってから、照れたようにほほを赤く染めた。
「はずかしいなぁ・・・・・もう。」
照れるをみて、僕はまた微笑んだ。
「さっきね・・・涙は枯れたって言ったでショ?」
気になった言葉が出たから少し慎重になる。
「うん。」
「もうなんだか・・・・毎回毎回の事でね。泣き疲れちゃったのよ、私。もう慣れたっていうか?泣いてたって仕方ないっていうか?」
「・・・・・うん。」
「でも、私の涙が止まったのはもう大丈夫って思ったから。」
頬を、ゆっくりとなでる。
「不二が・・・・側にいてくれるんだなって思ったら大丈夫になったの。」
「ありがとうね。」
にっこりと、は笑った。
久しぶりの彼女の笑顔。
この頃は眠すぎてだろうか全然見せなかった彼女の笑顔。
やっぱり・・・の笑顔はまぶしくて・・・・一番綺麗だ・・・・。
僕は、思わず彼女との唇の距離を・・・・・縮めた。
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後書き
はわ〜〜〜書き上げましたぁ。
お待たせしましたです・・汗。
いかがなものですか?キノ様。
自分が最高潮に眠かった時にひらめいた物語なのです。
まじで、「眠い・・死ぬかも自分・・・。」
と思いました、笑。
そんなこんなで作られたドリー夢。
気に入っていただけたら幸いですvvv
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