『世界で一番信じられない言葉』 「俺、『好き』なんて言葉大嫌い。」 教室から窓に広がる青い空を眺めて、イスに腰掛けると英二は言った。 僕は「またそんな事突然に・・・。」とか思いながら尋ねる。 「どうして?」 少し微笑んで尋ねたら英二はその琥珀色の瞳を僕へと向けた。 あァ、綺麗だなぁ。 いつまでも見ていたくなる、茶色の瞳。 澄んでて、透明で、それで強くて。 そんな事を、思って。 「不二、テニス好き?」 「は?」 「良いから答えて。」 「好き…だけど。」 「辛いものは?」 「好きだよ。」 「ソゥ、それじゃ俺のことは?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「どうなの?不二。」 「なるほど。そういう事か。」 英二の言いたい事が分かって僕はため息交じりに言う。 英二は意図を察した僕を見てふ・・・と笑った。まさにで“しょ?”と、言っているみたいだ。 「だから、英二は『好き』って言葉は嫌いだって?」 「そーー。だって曖昧じゃん。」 「そうかな?」 そう、かな? 確かに「好き」って言葉は何処でも使えてとても便利だけど。 だけど 本当に英二の言っている事が正しいのかな。 「愛してる。なら、分かる。 でも好きなんて言葉はありふれてるじゃん。テニスが好き。甘い物が好き。ふわふわのオムレツが好き。俺は、そんな『好き』と一緒にされるの嫌だもん。」 またそんな事を言っちゃって。 僕をこんな所で。 皆がまわりでわいわい騒いでいるのに 誘っているの? そぉんな可愛い顔で告白じみたことをいっちゃ駄目だよ。英二。 ふふ・・・・と、僕は笑って英二の顔を覗き込んだ。 琥珀色の瞳を、射る。 「英二は僕の気持ちが信じられないって?」 口元に微笑をたたえて言ったら大きな瞳は更に大きく見開かれて驚いた様子で僕をを見た。 「あ・・・いや、そう言うわけじゃないんだけど。」 「そうなの?でも英二の言ってる事はそういうことでしょ? 僕はいつも英二の事「好き」って言ってるもの。」 「え、えーーと・・・そうじゃなくてね?」 僕が何か楽しい事を考えて英二と話しているのを察しているのか。 英二は突然先ほどの強気は何処拭く風で目をすーー・・・と反らした。 それがあまりにもわかりやすくて僕は笑いをこらえられない。 「くす、別に良いよ。英二の言ってる事が間違ってる事を今ここで証明してあげるから。」 「え?」 拍子抜けした英二をよそに僕は英二の襟首を掴むと引き寄せる。 柔らかな、感触。 一瞬だけ唇を合わせるとすぐに開放した。 離して、すぐに囁いた。 とびきり上等の。甘い美声で。 「英二、大好き。」 少し瞳をあけて、微笑む。 ガタンッ!!! 直後に激しい音と共に英二は離れた。否、倒れた。 動揺した英二はそのまま椅子ごと後ろに倒れてしまった。 それでも、まだ呆けていて僕を見上げている。 僕はなんだか楽しくなって英二の隣にしゃがむと心臓へと手のひらを当てる。 案の定、どくどくと早い脈動が手に伝わる。 真っ赤な顔の英二を見据えて、僕は口を開いた。 「ね?違うでしょう?」 「な…何が。」 まだ分からないの?本当に可愛いんだから。 「だって英二ふわふわオムレツ食べてる時こんなにドキドキする?」 「う・・・?」 「今、凄いドキドキしてるよね。 それって僕の『好き』が特別って事でしょ?」 悠然と勝ち誇った様に笑う。 反対に、英二は少し渋めの顔だ。 「不二さ・・・・・・だからって公衆の面前で突然キスしないでくれる?驚くじゃん。」 「いや、口で説明するよりよっぽど早いと思って。」 「早いとかそう言う問題じゃなくって。」 「良いじゃない、英二は『好き』って言葉は対象相手によって重さが変わるって事学んだんだしvv」 なぁんか丸め込まれてる気がする・・・。 と、英二はぶつくさ良いながらイスを直す。 「ね、英二。それでね?」 「んーーー?」 「授業料は身体で払ってもらって良い?」 イスを直していた英二はバッ!と、瞳を凄い勢いで僕へと向ける。 「は・・・・・はぁ?」 「保健室でも、部室でも、放課後の教室でも、何処でも良いよ?英二に選ばせてあげるからvv」 にこにこと笑って英二に詰め寄ると、英二はじりじりとあとずさった。 「ちょ、ちょっと待って!!!なんでそんな話になってるのさ!!」 「やだなぁ、英二。僕がただで教えるわけないじゃない。」 「別に教えてもらったわけじゃないもん!!!」 ふゥん、あくまで抵抗するつもりなんだ。 どうせ最後は頷く事になるのにいつまでたっても学習しないんだから。 そんな事を思っても臆面にも出さずに僕は笑顔のまま、言った。 「別に僕は良いよ?授業料は必ず貰うし、ぼったくりは許さないし。第一無理やりってのも・・・ 新鮮で良いよねぇ?」 僕がどんな表情で笑っていたのかは、知らない。 でも英二の顔が見る見るうちに青くなっていくのを見てだいたい予想がついた。 アハハ、本当に、君はからかいがいがあるんだから。 本当に、可愛いんだから。 そんな風に困った表情も。 怒った表情も。 くるくる色を変える瞳も。 その 全て が 僕を魅了するよ。 同姓にこんなにも執着するんだなんて思わなかったけど。 こんなにもときめくだなんて予想もしなかったけれど。 でもね 僕は君の事が 世界で一番好きだな。誰よりも。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 後書き 不二様ブラックーー・・ 魔王不二健在。ってところですね。 っつーか、結局やりたかったんだろ、不二。みたいな感想(こらこら) 時々思います。 私このアイス好きーー。私この犬好きーー。私・・・・・・ と。 でも自分の好きになって人からの「好き」だけは特別でないのかと。 他の物を好きと言ってもらうのと。 大好きな人から好きといわれたほうがずっとずっと嬉しそうな顔をするのだろうか。 そんな事を、ふと。 思ったりするのです。まる。 |