・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、はぁ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っはぁ。









捕まらないようにただただ前を見て走る。
身体の中に疼くのは、歯がゆい罪悪感と恐怖と憎しみ。

ここで逃げたくは無かったけれど、きっときっと今はそうするべきだから。











そうしなければ、




母や、父や、妹の、敵、を。





討つのは自分だから。








これは使命。




これは宿命。




これは必然。





だから今は奥歯をかみ締めて逃げる。


逃げ切ってやる。



あの男の首を、いつか取ることを夢に見て。

















ダレカタスケテ。

















― 戦国の世に咲く華 ―





今の世は戦国時代。
人が無造作にばっさばっさと斬り捨てられる時代。
血に染まった草に滲むのは、欲望と、狂気。
皆が自分の手柄を立てようと。
毎日命がけの戦を繰り広げている。





そんな中。馬にまたがり面倒臭そうにあくびをする男がいた。
目立つのは、染料で染めたのか橙色の頭。
くしゃくしゃにされた髪を、血の匂いがする風が揺らす。


「千石さん、こんな場所であくびだなんて余裕ですね。」

悠然たる態度をするこの男はどうやら「千石」と、言うらしい。
その態度を咎めたのは家臣の一人、室町。

「だってさぁ、室町君。ここ、なんか男むさくない?」

「というか、戦場に女がいても問題だろ。」

鋭く突込みをいれたのは、これもまた家臣である南。
この男は腕は優秀なのだが、何故か地味でいつも目立たない。
おっと、これは余計な一言だっただろうか。

「そうなんだけどさ〜〜〜、華、華が欲しくない?」

「そんな事言ってる場合じゃありませんよ。」

「良いじゃん?どうせ俺らの圧勝だしvv」

ゆっくりと笑みを千石は深める。
それもそのはず、戦が繰り広げられたのは雨が上がった直後。
だが、雲行きは怪しいものだった。


敵勢が一気に攻めてきた。


刹那、それは起きるのである。




「偶然」にも雷が落ちて、「偶然」にも敵は水たまりの中、そして「偶然」にも雷はその水たまりに落ちたのだ。
必然的に、中にいた侍たちは感電死の運命を一直線に辿る事になる。
嗚呼、悲しき運命也。




「ありえないだろ、まさか・・・。」

「ありえてるから、南。現実を受け止めて?」

「だけど、千石・・・。」

「ラッキー――――☆」

「(また変な言葉を使ってる)」


そう、この男こそ、かの千石家を率いる若き総代。
若き当主。

時折常人には理解出来ない「カタカナ」という文字を使った「エイゴ」という言葉を使う人物。
断わっておくが、今の時代にそんなものは日本に伝わっていない。あしからず。









千石は、重っくるしい鎧は着ない主義だ。
お願いだから、一応当主なんだから着てくれと頼まれても聞く耳を持たない。

(だって、こっちの方が身軽で絶対良いのにさ。)

これは強い者が言える事。普通ならば鎧を身にまとい身体を守るのが常だ。
だが、常識破りはおてのもの。
それが「千石清純」という人物なのだから。

身軽に馬をゆっくりと歩かす。
カポカポカポ。
味方と敵の残骸が草の露となり静まりかえるところにひずめの音が良く響いた。

動体視力の良い千石が、動くものを捕らえる。


一瞬、敵かと思って刀に手を伸ばしたが、それもすぐに止まった。
馬が止まる。家臣も止まる。
視線の先がうつすのは、白い布切れ。


「千石さん?どうしました。」

「いや、まさかまだ生きてる人がいるとは、ね。」



さも楽しそうに口を歪めると、躊躇いもなく馬から飛び降りた。
その奇怪な行動に家臣達は動揺する。
どこに無防備で敵か味方か分からないものに近づく当主がいるだろうか。



「おいっ!千石!!」

「だーいじょうぶ。そこに居て?」

ひらひら手で合図をすると、その布切れの前にしゃがんだ。
ぴくりとも動かないその物体。

「さぁて、出てきてもらおうかな。君は誰?」


すると、ぱさりと布が滑り落ちた。

一瞬、息を呑む。



憎しみに染まった瞳に射られたから。
一瞬だけ銀に見えた瞳は灰色だった。

雨に濡れる事を避けるように、また布を頭にかぶせる。
髪の色は、黒。

服はボロボロで、所々血に染まっている。
そんな事も気にしないで、まっすぐ千石を睨みつける。




一人の男。


(野性動物みたいだなぁ。)

そんな事を思った。








「君、さ。どうしたの?なんでこんな所に・・・。」

いつも通りの「スマイル」で、手を伸ばす。









刹那












ひゅっ。と、風を切る音が走って、小刀が首の喉仏につきつけられた。
未だその瞳に宿る色は落ちない。




「千石さん!!!」

「動くなよ。」


こう見えても、室町はかなり従順である。否、それは千石に対してのみ。だけだが。
思わず刀に手を伸ばした室町に、鋭い言葉で制した。
いつもはおっとりと優しい声音が、突然厳しさをまして、家臣達が動きを止めた。





ふー――、ふー――――っ。と、未だ息を切らさない。
雨が上がったばかりなので気温は低い。
吐く息は、白い。






視線は外さない。千石もじ・・・と、見つめ続ける。
その時間は一瞬か、それともそれ以上か。
見守ってる家臣達にとっては永遠のように思えただろう。



先に折れたのは千石のほう。
何も映していないような瞳に色を宿した。
ふ・・・と、口元を緩める。


「平気だよ?俺何もしないし。」

「黙れよ。」

「あー―、やっと話してくれたね。名前は?」

「てめーこそ名乗れ。」

「俺は千石清純。お前は?」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

何も答えず奥歯をかみ締めたのでギシリと重い音が鳴った。
言いたくないのか、答えられないのか。



千石は目は反らさずとも手を伸ばす。

「・・っ動くな!!」

途端、刀が動いた。

「だから、大丈夫だってば。たぶん敵じゃないし。」

たぶんとか言うあたり、かなり怪しいのだがそれは置いておこう。
す・・・と、伸ばされた手は銀の鋭く光る鏡を掴む。
否、鏡に見えるのは刀が映した二人の顔。
名も無き男の焦燥とした顔と、悠然と微笑む千石の二つの顔。

まるで刀をなぞるように指を滑らせたかと思うと、おもいっきり









握り締めた。





「・・・・・・・・・・!」



名も無き男の顔が驚いた様に怯えた。

必然的に、したしたと血がしたたれる。
赤い牡丹の花がてんてんと千石の衣の上に花を咲かせた。


名も無き男は刀を引くが、動かない。
動かさない様にしてるのは、まぎれもない千石だ。


あとからあとから滴れる赤い液体を、ただただ見つめるしかなかった。
当の本人は、大して痛みも感じていない様子で笑っている。

微笑みはまだ消えない。




「お前のせいじゃないよ。名前は・・・?」

有無を言わさない質問を与える。
瞳の厳しさは損なわない。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・亜久津・・・・。」



「ソウ、亜久津。お前はどこの者?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「言いたくないならそれで良いよ。あとでゆっくり聞くし。」

「は、俺は拷問されたって何もいわねーぞ。」

「うん、別にそれはするつもりないし。でもさ、このままだと風邪引いちゃうし、俺も痛いし。」













そして、千石はこう続けた。










"だから、ね。行く所がないなら・・・"



























"ウチにおいで?"































---------------------------
きゃー、書いちゃった、書いちゃった。遂に。
やっぱりゴクアクって和って感じだ。
ていうか、キヨこわぁ――――――――。
そんでもって阿久津可愛い・・・ふっ。



return