千石さんのラッキーデー? -出会い−


今日は晴天、健康も金運も全て二重丸。ラッキーデー…のはずだった。
「おっかしいな〜今日はラブ運二重丸なのになぁ。」
ルーキーであり山吹中の千石清純は屋根の上でぼやいていた。男子が集まって試合をしているのだから出会いなどは普通は気にしない。だが清純の場合は違う。なぜならかれは強運の持ち主なのだから。彼の一日の大半は運に左右されてると言っても過言ではないだろう。だから今日も清純は必ずや素敵な「出会い」が来ると今か今かと待ち望んでいた。だが運命の人はなかなか現れない。自分の運を信じていたかったが、そろそろ試合もあるし諦めようとしていたまさにその時、清純の目にある一人の人物が目にとまった。
さらさらと流れれる茶色のショートヘア。ピスクのような白い肌。周りにきらめく空気を漂わせている、名前も知れない彼女。
清純の目は彼女に釘付けになり、気がついたら屋根の上からジャンプして彼女の前に降り立っていた。無論彼女は驚きを隠せない様子で清純の方を見ている。
「こんにちは、良い天気だね。」
何気ない会話を持ちかけると首を上げて、空を見上げて、
「そうですね。」
と、にっこり笑った。
どがぁぁぁぁぁぁぁん!!!清純は自分の体に電流が流れたのを感じ、急いで手を取る。
「俺、千石清純って言うんだよね。中2なんだけど山吹中に通ってて…」
「あぁ、知ってますよ。Jr選抜に選ばれたっていうので有名ですから。」
自分の事を知ってると分かって、更にヒートアップする清純。
「うれしいなぁ。君みたいな可愛い子に名前を覚えてもらえてるなんて。」
「……可愛い?」
「そりゃぁもう!」
力をこめて清純は言う。彼女の方はというと、そうかなぁ?というふうに首を傾げた。その動作もとても女の子らしくて(?)ますます清純の心をくすぐった。
それもそのはず、清純の意中の人は、彼女ではなく彼だったからだ。
彼の名前は不二周助。青学の天才と言われる秀才だ。いくら天才だからと言っても青学は基本的に試合に出るのは中2から。と言う規則がある(しかもそれも部長の一声で変わってしまうのだが)不二も、今年レギュラーの座を勝ち取り、今日が初試合なのだった。
それがいきなり山吹中のエースにつかまってしまい、いくら不二でも動揺を隠せないでいた。
不二の胸中も知らず、清純は、名前は?年は?学校は?と、不二が答えないのにもかかわらず質問してくる。
…なんか想像してたのと違う感じの人だな。
そんな事を考えていた。
一方、清純の方はというと最終段階に迫りつつあった。自分のなかで決心を固めて、言う。
「俺と付き合ってみる気、ない?」
千石スマイル。ガッツポーズを内なる清純は決める。
「……は?」
思ったとおり不二は怪訝そうに眉を上げた。だがそんな事は初めからお見通しだ。
「びっくりするのは当然だと思うけど、俺本気なんだ。運命の出会いだって確信した!!」
運命の出会いって…なにいってんのこの人?
と、不二に疑惑は膨らむばかり。それもそのはず、男に突然真昼間から、しかも人の行きかう路上で交際を迫られたら誰でも困るだろう。大体、不二にはやっと手に入れた恋人が既に、いる。
もしかして…このひとも僕を女と間違えてるわけ?
そんな事を考えて、はぁぁぁぁぁぁ。そ、盛大なため息を心の中でついた。
生まれ持った顔つきのせいで女と間違われる事はしばしばだからこういう事は慣れている。だが会ったその場で交際を申し込まれたのは初めてだった。
ったく、どいつもこいつも・…。
不二の中の怒りゲージがどんどん上がっていく。
と、ふと視線をあげた刹那、不二の表情が固まった。
不二の視線の先。そこには疑惑と不安の入り混じったような表情を浮かべて木の陰からじっと見ている英二が、いた。
・・・・・・っ。
いつから見ていたのかは知れないが、少なくとも表情から見て、付き合ってくれ。といわれたところは見たらしい。
英二こそ、不二がやっとの思いで手に入れた恋人なのだ。


菊丸英二、彼こそ不二が見つけた運命の人。
やっと気持ちが通じ合えたのに愛しの彼は世間体をとても気にし、人目をはばかった。まあ、普通の青年男児ならば当然の反応だろう。けれど不二はそれがとても納得いかなかった。もっと一緒にいたいのに当の本人はそれを避ける。
自分も同じ気持ちだと言っても実行に移そうとはしない英二。ようやく最近になって自分の気持ちに正直になってきたというのに。なのに。
こいつのせぃでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
不二の怒りゲージがまた更に上がる。だが、いまは英二を追わねば!という使命感から不二は怒りを振りきって駆け出したのだが、細腕は清純によってつかまれた。
「どうしたの?まだ返事聞いてないんだけどなぁ。」
びしり。
その言葉が不二の逆鱗に触れてしまった。一瞬のうちに不二と、清純の周辺がブリザードとかす。戸惑いを隠せない清純に対して極めつけは不二の氷のような瞳。鋭い視線が清純を、射る。
「悪いけど、はなしてくれる?手を、さ。期待に応えられないのは悪いけど僕男だし。」
にっこり笑顔。でもソレは明らかに先程のものとは違う。離さないのを見ると、ブンッ。と、手を振って振りほどく。そして、清純に背を向け歩き出し、振り向きざまに、言った。
「言っておくけど、これ以上英二との邪魔をしたらただじゃおかないよ?」
微笑まれた微笑は限りなく冷たい。一言で言うなら…冷笑。
つかつかと歩いていく不二の背を見送り清純はぽりぽりと頭をかく。
……嘘だろぉ。男…なのか?神様も罪作りなことするよなぁ。
振られたのにもかかわらずのんきな男である。そして、思った。
気になるし、追いかけてみようかな?
止めておけば良いのに清純は好奇心に負けて不二の後を追う。この後見る持ち前の強運でもカバーできない地獄を予期できずに、彼の目は輝いていた。






小説置き場へ