― 千石さんの企み ―
「本当に戻る気ないの?」
「ねぇ。しつけーぞ。」
「・・・・・・・・ふぅん。」
屋上にて、フェンスに背中を持たれて座りながら阿久津は煙草をふかす。
眉間にはいらつく特にしわが寄っていて。
何度も聞かれた質問にいいかげん応答するのが嫌になってきた頃。
千石はフェンスに腕を乗せると、その上に首を乗せて立っていた。
すぅと瞳を細めて阿久津を見下ろす。
「じゃぁ、しょうがないかぁ。」
見せたのは、すごく眩しい笑顔(だが嘘っぽい)
「あ?」
「檀君。」
「はいですっ!!」
「!?」
どこからともなく現れた壇に、阿久津は柄にも無く驚いてしまって。
見たこともないような早さ・・・否、初めて見ただろう壇の早業によって阿久津は縄を体に巻かれた。
「っっなんだお前ら!!!!」
「ごめんなさいですぅ、阿久津先輩。だけど先輩のためなんですぅ。」
「どこがだっ!!!オイ、千石!!!」
阿久津を見下ろす姿は、とても優越感にひたっているようで、口元には不敵な微笑が浮かびあがる。
「観念しろよ?阿久津。」
その微笑に衝撃的な恐怖を味わって、少しでも隙を見せた俺が馬鹿だったと後悔した。
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「南〜〜〜〜〜ただいま〜〜〜〜。」
「千石・・・お前どこ行って・・・ってなんだそれ!!!」
山吹の保護者、兼部長の南は机に向かって部誌を書いていた。
やっと帰ってきた千石に、仕方ないなぁ。みたいな感じで溜息を付いた南部長は肩越しに振り向いて、「そこ」にあるものにビビってしまった。
そこには、縄でぐるぐる巻きにされた阿久津の姿が。
「なっ!!なにやってんだ〜〜〜〜〜〜!!」
「愛しの南にプレゼントvv」
「千石っ!!離しやがれ!!!」
「明らかに見て嫌がってるぞ・・・?」
「大丈夫!これからが本番だし。」
「(どういう意味だ・・・)」
なんだか恐くなってきてしまった南。
一体千石が何を考えてるのか分からない。
「やっぱりさ。俺ら阿久津がいなきゃ駄目なんだよ。この前の試合厳しかったじゃん?このままじゃ全 国なんて到底、無理。」
「だからって、嫌がる奴を無理やりってのも・・・。」
「そうだっ!!解けっ!!!!」
「だけど、俺ら今年で最後だし!!最後ぐらい・・・華咲かせたいと思うでしょ!!??」
「いや、それは思うけど・・・。」
熱弁する千石に押されて言ったのがまずかった。
この、策士家「千石清純」には、一秒たりとも隙を見せてはいけないのだ。
「よぅし!!檀君!!部長の許可がおリだぞぉ!!」
「やったですぅ!!」
「言ってない!!誰も言ってない!!!!」
「じゃ、別室に移動(にやり)」
「なに考えてんだてめぇ!!!」
「え〜〜〜〜僕も一緒じゃ駄目ですか?」
「檀君・・・残念だけど。ここからは俺に任せて。子供の見る世界じゃないから、ね?」
「(なっ・・・何をするつもりだっ・・・)」
可愛くウインクを壇にしてみせる千石は、なんだか楽しそうで。
明らかになにかを企んでるのは決まっていて。
だけど南にはそれを止める術は見つかっていなくて。
「じゃぁ阿久津。ゆっくり俺と交渉しようか?」
「っっっっ!!!」
「壇っ!!てめぇ!!!覚えてろよ!!」
「僕はっ!!阿久津先輩の為を思って!!」
「そうだよ、あっく〜〜ん。そんな事言っちゃ可哀想じゃん。」
「明らかに犯罪だぞ!?」
「気にしな〜〜い。」
「おたっしゃでですぅ、阿久津先輩。」
「お前も送り出すなっ!!!」
「(嗚呼、どんどん部活が荒れてゆく・・・泣)」
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「あれ?阿久津もどったのか?」
コンソレーションが始まった時に、阿久津の姿を見つけた大石が南に尋ねた。
「・・・・・・・・・・まぁな。」
「凄いな、まさか戻ってくるなんて・・・。」
「聞くな、お願いだから。」
「なんか疲れてないか?」
「お前の優しさが身にしみるっていうか、部活がどんどん荒れてかなしいっていうか、でも阿久津が 帰ってきてくれて戦力が増えて嬉しいっていうか・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大変だな、部長。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁな、胃が痛い毎日だよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺も、胃痛薬は常備品だぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大石、ぐす。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・南、泣くなよ。」
友情を確かめ合った二人であった。
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どうしても阿久津に帰ってきて欲しいと思ったけど、きっと一筋縄じゃだめなんだろうなって思って。
そしたらやっぱりキヨの登場で鍵だろうと思って。
・・・・・・・・・・・・・・こんなん書いちゃいました。