幸せって、一体どんなものだろう? 幸せの形って、なんだろう? 幸せは・・・・・・・・・・・どこに落ちているのかな。 幸せ探しを、始めようか。 ― 幸せを探す方法 ― 「くっら-――――い!!!」 それは、昼休みの教室での事。 きらりきらりと太陽の光を青葉が反射する。そんな午後のこと。 ぼー―っと外を眺めていた僕に、パンを持った英二が僕の前に立って。 びしっ。と、人差し指を僕に向けて、英二は言った。 突然の事にしばし言葉を失う僕。 「・・・・・・・・?」 「不二さ、なんでそんな暗そうな顔してんの?」 「別に・・・暗そうな顔してる?」 「してるっ!!!」 厳しい顔で言う英二。 何で怒っているのだろう? それに、いつもと変わらないと思うけど。 まぁ・・・・・・・この頃睡眠不足で眠いのはあるけど。 幸せじゃないって訳じゃないし・・・。 「変わらないよ?」 にっこりと笑って、本当は英二をなだめる為に笑ったのにますます英二の機嫌は悪くなっていく。 明かにその顔は不満気で、不機嫌で、なおかつ怒っている。 でも、僕は分からない。 何が気に入らないのか。 ていうか、英二を理解する事なんて不可能に近いと思うんだけどね。 「不二さ、俺の前でも作り笑いしないでくれる?」 ぎくり。と、心がざわめいた。 英二は、決して頭が良いと言うわけじゃない。 でも その生まれつき持った感性で、時折とても鋭いことを言う。 そして僕はいつも驚かされるんだ。 不意をついた、英二の言葉。 それにどきりとする事がしばしばあった。 今回も、そう。 英二はあっさりと僕が気になっていた事を言い当てて。 だから、ふ・・と笑う。 「僕が作り笑いしてるの分かるのは、英二ぐらいだよね。」 「当ったり前じゃんっ、いつも不二のこと見てるんだから。」 まっすぐで、純粋な英二の言葉。 英二は嘘をつかない。 というか、嘘をつく事を知らないみたいな。 嘘をつく事を教えてもらわなかったみたいな。 まるで・・・・・・・そんな世界で過ごしていなかったような。 そんな事を、時々思う事がある。 そして、嬉しくなる。 英二はまっすぐだから、その言葉を信じられる。 いつも見てるだって? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、君は何時も僕の一番欲しい言葉をくれるんだね。 「不二、今週の運勢最悪。」 僕の前で雑誌を広げて、英二は言った。 窓から入る風が英二の跳ねた髪を優しく揺らす。 あのね、だから何でそんなに不機嫌なわけ? ものすご――く訳がわからないんだけど。 英二額にしわ寄せてるし。だけれども、僕はしっかりと応える。 「そうなの。」 「あっ、信じてない顔。」 「信じてないわけじゃないけど、占いに左右される人生なんて嫌なんだ。 だって必ずしも当たるものじゃないし、自分で未来を切り開いて言ったほうが楽しくない?」 「信じる者は救われるって言葉知ってる?」 「勿論vvでも頭の隅においておくだけにしてるよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だっから不幸になっちゃってんだ。」 ぼそっ。と、英二は言った。 ばっちり聞こえてるよ?(にっこり) 「僕は別に不幸なんかじゃないけど。」 「そぉだけど幸せでもないっしょ?」 うー―ん・・・・・確かにそう言われればそうだけど。 とにかく、眠いし。 「じゃぁ、英二は幸せなんだ。」 瞳を閉じて、教室に入ってくる風に意識を飛ばせる。 とても気持ち良い風。 こんな陰鬱な気分をさらって行ってくれるような、風。 「んーーっと…・・幸せなの・・かな?」 「クス。何、人には言うくせに自分の幸せは言えないとか?」 すると、少しムッとして、英二は言った。 また眉間にしわを寄せる。 そう言う表情もまた可愛くてそそられるんだけどねvvv 「俺さ、今日学校くる時蝸牛(かたつむり)見たんだよね。」 「蝸牛?」 「ん。じめ〜〜〜〜ってした所にべたっ。て張りついてさぁ。」 思い出すように、視線を上に上げて話しはじめる。 蝸牛と幸せ? …・一体どんな関係があるんだろう。 「でもさ、今の時代都会で蝸牛なんて珍しくない?」 「あ――――そうかも。」 「でしょ?だからこんな都会でも頑張って生きてんだなぁとか思ったら感動したのね。」 ……感動…………・ι 「それで?幸せになった?」 「なったよ!だってラッキーじゃんっ!」 にっこりと最上級の笑顔で英二は笑った。 それはそれは嬉しそうに笑うから、僕まで嬉しくなる。 なんだか、ざわざわする感じ。 そこで、何かが引っかかる。 でも、それが一体なんなのかまだ僕は気づけない。 感じた、暖かい……・・もの。 さざなみのように押しては引いてゆく……・・不安定な存在。 一体なんというものだろうか? きっと、「ソレ」は名前がないもの。 人がつけた名前を持っていないもの。 これを、人はなんと呼ぶだろうか? ………………・・世界に存在しない、否、存在するけれど正体が掴めない「存在」…………………・ 心のざわめきに、少しばかりいらだちながら、僕は言う。 英二に、言ってみたくなる。 英二との距離を縮めるために少し身を乗り出して。 閉じていたまぶたを上げて、目を細めて、英二を見る。 「英二は……小さな幸せを見つける事が上手いんだね。」 近づいた距離。近づいた視線。 それに動揺したのか視線を外す英二。 その頬は少しだけ赤い。 だから、ますます面白くなって笑みを深めた。 「…・・そうなのかな。」 「そうなんじゃない?」 英二は、んー―――と考えて。 あっ。 と、思いついたように席を思い切り立った。 反動で椅子は倒れてしまいそうになる。 がたんっ。と、風に乗って音が運ばれる。 「わーーかったっ!!!!!」 「………何が?」 「だからっ!"幸せ探し"しようっ!!!!!」 …………………はい?………………・ 「えー―――っと…英二?ごめん。言ってる事が良く分からないんだけど。」 「だから、不二は小さな幸せでも大きな幸せでも見つけるのが下手なんだって!」 「見つけられなくても良いんだけど。」 「だめっ!俺が協力したげる!」 「……・ていうか、英二がただ単に面白そうだと思っただけでしょ?」 「えへ―。ばれた?」 言って、英二はぺろりと舌を出した。 ……ばればれなんだよね、英二は。分かりやすくてそこがまた良いんだけど。 ため息をつきつつも、英二の言うとおりになる事は分かってる。 だって僕は誰よりも…・英二に弱いんだから。 そんなわけで、今は放課後の部活。 「幸せ探しをしようっ」とか言いつつ結局放課後になっちゃって。 一体英二は何をやらかすつもりなんだろう。 そんな事を考えて、ふっ・・と笑う。 英二が何をやるか考えて、ワクワクしている自分がいる。 期待している自分がいる。 予測の掴めない行動に、今度はどんな風に僕を楽しませてくれるのか思っている自分が、いる。 …………………………………・ ふと、気付く。 またこの感じだ。 時々来るざわざわした感覚。 名前を知らない「感覚」 なんだろう? この気持ちを、人はなんと呼ぶ? 押し寄せ、引いてゆく、波。 「おっちびー―――!!!」 英二の声がして、現実に引き戻された。 視線を向けるととてもとても仲が良さそうなおちびと英二の姿が目に入った。 一体、なんだろう? とても楽しそうな英二の姿。 僕でない人に笑いかけている英二の姿。 その姿を、とても冷めた気持ちで見つめる僕が、いた。 また感じる…胸の奥でじわじわ広がる……・さざなみのようなもの。 それからの英二の行動っていったら。 明かに僕の事を避けてるし、よそよそしいし。 何?僕何かしたっけ? 僕とのスキンシップは極端に減って、他の人間と仲良くするようになった。 僕との時間を減らして、他の人といる事を望むようになった。 それは、とても悲しい。 捨てられてしまったのだろうか? 呆れられてしまったのだろうか? 僕は、もう…・いらないのだろうか? よぎる考えを振りきるように僕は見ない振りをした。 だって僕達はお互いを縛る関係じゃないし。 そんな権利なんか、ない。 あまりにも動くのが億劫(おっくう)で、そして眠かったから部活もせずにベンチでぼー―っとしていた。 きっともう少し経ったら「不二っ、校庭20周だっっ!!!!」とかいう手塚の声が聞こえるんだろうな。とか思いつつ、瞳を閉じる。 まぶたの向こうは、深淵。 暗い闇の中に木漏れ日の光がきらりと淡く光っている。 「不二。」 名前を呼ばれて、驚いて目を開けた。 横を見ると後ろから英二が顔だけのぞかせている。 久しぶりに、言葉を交わした。そんな感じ。 「何?また僕のところに戻ってくる気になった?」 笑ったら、英二は何か思惑のあるような表情で淡く笑う。 木漏れ日の光のように。 「もうすぐ、分かるよ。」 にっ。と笑って、ひらりとベンチを飛び越える。 そして、僕の横に座った。 英二の大きな瞳が僕をじっと見つめる。 その瞳は太陽の光に照らされて金色に、光って見えた。 別れを、告げられるのかな? 眠いせいか、冷めた目で見ていたような気がする。 口元は、相変わらず微笑みの形を作っていた気がする。 それを見たからかどうかは知らないけど、英二は少しだけ寂しそうな顔をした。 どうしたの? なんで、そんな顔では僕の事を見るの? でも、英二はふるふる。と首を振った。 見せたのは、微笑。 事が起こったのは、一瞬だった。 伸ばされた、良く引き締まった腕。 その腕が首へと巻き付いて。 暖かい人肌が伝わってきた。 頬をくすぐる跳ねた髪を感じて、抱きしめられたのだと気付く。 「…………っ…?」 しばらく目を見開いて止まっていたら、英二は少し体を離して額をつけるぎりぎりの所で止める。 そして、にっこりと笑った。 「幸せになった?」 「………なにがなんだか。」 「あははっ。不二ったら変な顔―――。」 「変にしてるのは英二が奇怪な行動してるからだよ。」 言うと、まるでいたずらをしてるように英二は笑う。 「でも、幸せの重み、感じたでしょ?」 「重み?」 「だってさ、ただ抱きついても意味ないじゃん。じらされまくった方が良く分かるかなって。」 にこにこにこ。と、英二は言う。 あのさぁ、まさかそのためにわざわざ僕の前で他の人といちゃいちゃして見せたってわけ? …・・確かに英二らしいけど。 でも、そこまでしなくても良いんじゃないの? おかげで僕はいらない事考えちゃったし。 でも確かに英二の「幸せ探し」の意味が少し分かったかも。 また、あの感じがしたから。 「つまり、こんな事でも幸せになれるんだって言いたかったんでしょ?」 「ご名答♪」 にぃ。と、笑った。 やれやれ。全くしょうがないなぁ。 「それで?」 「?」 「なんで一瞬だけ寂しそうな顔をしたの?」 「………・・」 「英二?」 「…………………だって…・・不二がまた"嘘の顔"で笑ったからさ。」 「嘘?」 「作り笑いじゃん、それ。」 むー――っと、英二は至近距離で僕を睨みつける。 …嘘…・あぁ。なるほどね。 「俺は不二にとってそこらへんの人と一緒なのかぁって思ったらすこー―し腹がたっちゃって。 んでもってそう言う事もあって今回のことを考えついたんだ。 良い薬になったでしょ?」 「良い薬って言うか、英二は僕にとって特別だよ?」 「うっそ。あの笑顔は絶対にせもんだった。」 きっぱりと言う英二。 でも、それは誤解で。そう思ったから、にっこりと僕は笑った。 「ふふ…・それはね、"ただたんに眠かったから。"だよ?」 「にゃ!?」 「だってさ、眠い時って何にもしたくないじゃない?笑う事も楽しむ事も億劫で。 ごめんね?誤解させちゃったかな〜〜〜〜?」 「………………な…・・なんだよそれっ!俺馬鹿みたいじゃんっ!」 「でも英二も僕に誤解を招くような事したわけだし、ちゃらでしょ?」 「俺はしてないっ。」 「したよ。だって僕捨てられると思ったもの。ここ最近ずっと音沙汰なかったからね。」 「ぅ…それは不二に幸せをわかってもらおうと…。」 「僕だって、誤解させるつもりじゃなかったんだけど?」 にこにこ。と笑う僕に英二はたじたじだ。 それが楽しくて、僕はまた笑う。 幸せを…感じる。 ん?幸せ? あァ、そうか。 そうかそうか…・・ふふっ。 「ふ……じ?」 「ん?何。」 「や、にやにやしてるから。」 「やだなぁ、にやにやなんかしてないよ。」 そう言って、僕は英二の髪の毛をくしゃくしゃっ、と、した。 「うわぁっっ!!にゃにすんだよっ、不二の馬鹿!!」 一生懸命髪を直してる英二が可愛くて、思わず指を首へと這わせる。 唇を、近づける。 一呼吸置いて、唇を離したら案の定呆けていた英二の顔が目に入った。 だから、またくしゃくしゃと髪を撫でた。 「うわぁっっ!!!」 「ふふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」 「笑ってんにゃ、不二!!!!」 幸せの形…ねぇ。 僕今まで気付かなかったけど、僕の世界って英二中心で廻ってるみたい。 だって、英二一人のせいでどきどき、わくわく、ぐるぐる、するんだよね。 心が、ざわめきを起こすんだ。 そして、一番胸が騒ぐ時はそれこそ「嘘のない」笑顔を英二が僕に向けた時。 たまらなく、抱きしめたくなるよ。 かまいたく、なる。 「英二…・あのね。」 「何?」 「僕の上に立てると思ったでしょ?」 「う…・。」 「やっぱり。だって英二とっても優越そうだったもの。」 「…………………・ι」 ふふ…と笑って、手のひらで英二の頬を撫でる。 すぅ。と目を開ける。 瞳に、僕の顔がうつる。 感じる、胸が熱くなる臨場感。 「無理、だよ。僕相手にね。」 不適な笑みを浮かべたら、英二の顔がさぁ・・と青くなった。 ふふふ………やっぱり可愛いvv 誰にも渡したりするもんか。 まだまだ君にはしたいこと一杯あるし? まだまだ色んな感情を教えてもらわないといけないし? だから、君が望まなくとも側にいることにしようか。 人が、名をつけなかった言葉。 思い。 気持ち。 このざわめく感覚。 人はきっと呼ぶだろう。 “幸福感”と。 はわ〜〜〜〜〜〜今回のキリリクは「学校にて日常」との事でしたので日常っぽくしてみました。 菊ちゃんはまだ不二が攻めな感じが許せないらしくすこぅしだけ菊不二を漂わせてみたりもしましたが結局最後は不二菊で終わってしまいました。 やはり…菊ちゃんはこういう運命にあるのかと。くす。 もとより不二の前に立ちはだかるなどとは不可能なのかもしれないです。 葵さんが気に入ってくだされば良いのですがいまいち自分では不安な作品なのです…。汗。 この度は、うちのきり番を取ってくださりありがとうございましたっ。 これからも、どうぞよろしくお願い致します。 |