嘘吐き
愛してなんか
ないくせに



笑わないで
そんな笑顔で
皆に向けるレプリカの笑顔を
向けないで



大ッキライ



飛べないように白い翼を赤く染めてあげる
逃げられないようにその後、金の鳥かごに入れてあげる


だから




お願い、目を背けないで








−嘘ナ恋迷宮−












不二は嘘吐きだ
優しい振りして、天使のような笑顔で
平気で嘘をつく
騙されたり、しないんだから
俺には皆に向けるその笑顔に"嘘"に見える
・・・・・・・・・・・・・・・・嘘吐き


俺達は時折真っ白いシーツの上でお遊びをする
お互いの肌に触れ合って、唇を重ねる
白いシーツは雪のようで
それは一種の儀式のようで
決して、愛を確かめ合ってるとか、そんなもんじゃない


その行為には何も感じない
お互いの身体と欲望を満たすだけの行為
別に、期待なんてしていない
そんなモノ、不必要だし。特別の感情なんていらないし
第一、そんな事は暗黙の了解だ












英二と一緒に寝るようになったのは一体いつからだったか。
そんな事は、とぉに忘れた。
覚えている必要のないことだし。
英二に見返りを求めてはいない。
だってそんなもの英二だっていっしょだと、思うし。

もしかしたら、お互い興味本位で近づいただけかもしれない。
"禁断"と呼ばれる花園に足を踏み込みたかっただけかもしれない。

でもね、僕は時折罪悪感に捕らわれる。
だって僕の中の君はいつだって純粋で、真っ白なのだから。
そんな君を無理やり付き合わしてる気がして
ひどく胸が痛む。
例えそれが君の望むもので。
僕の身体だけしか求めていない事が分かったとしても
心が、まるで傷を付けられたみたいにしめつけられる。

だから、もう終りにした方が良いのかもしれない。
それが、君の為なのかもしれない。


英二、僕はいつだって君の幸せを望んでいるんだよ?








だから、
何度目かの儀式の後に、僕はこう切り出した。
「ねぇ、英二。もうこれで終りにしようか。」
窓に手を当てて、外を見る。
視界に映る、緑の葉。
青々とした五月晴れの中の葉が目を癒す。
シーツと同じ白いシャツのボタンを一つ一つ上げるてを止めて、英二は僕の方へと視線を移した。
「・・・・・・なんで?」
「だっていつまでもこんな関係を続けるわけにはいかないでしょ?」
「だから、何で。」
「僕も英二もお互いのこと好きでしてるわけじゃないし。受験生だしね。」
「受験生関係ないじゃん。」
「かならずしも関係ないとは言えないよ。それにどんなに時間がたとうと進展する事はないんだし。」
………そんなの、虚しいだけだよ。





「逃げんだ。」
フッ…・・と、唇の端を弓なりにあげて、英二は言った。
そして、ドアへと向かう。
英二が僕に背を向けるのを感じて、ゆっくりと瞳を閉じて感情を隠した。
そう、二人の間に特別な感情は必要ない。




「別にそう思われても仕方ないね。英二は・…もっとふさわしい人がいると思うよ。」
ガッシャンッ。
言った瞬間、響いた音。
不快な、金属音。
その音に思わず瞼を上げた。
振り返ると、英二が扉に立ちふさがるように立っている。
まっすぐ僕を睨みつけて、立っている。
そこで、英二が鍵をかけたのだと気付いた。


英二・・…君の行動は良く分からないよ。
鍵をかけて、どうするの?
僕を閉じ込めて、どうするの?
………もう、身体のほうは十分満たされたはずなのに。









「不二、それ本気で言ってんの?」
下から睨みつけるようにして、僕を射る英二。
その言葉には明かに静かなる怒気が含まれている。
「勿論。英二は大切な友達だもの。幸せになって欲しいと思うよ。」
やんわりと微笑して、僕は質問に答えた。
これは、本心だ。
幸せに、なって欲しいと思う。
でも
君を幸せに出来るのは僕じゃないんだよ。
言ったら、英二の表情はますます厳しくなった。
「俺わっ……やだ。別れるなんて。」
「英二の為・…だよ。」
微笑を絶やさずに、言う。



英二、ここで立ち止まっては、駄目。
君はどんどん駄目になっていくから。
やっぱり君は・…太陽の下のほうが似合うと思うから。
だから、ここにいては、駄目。


「不……二……・俺は…・。」
その時、未来が見れた気がした。
一瞬先の未来を、予知できた気がした。
「俺は・…。」
「駄目だよ、それ以上言っちゃ。」
言葉を飲みこませるように、制止する。
言っては、いけない。
その先の言葉を、僕は聞いてはいけない。
「僕と英二の間には、そんなモノ必要ない。違う?」
「・・…ちがくない・…ちがくない・・…ケド。」
そこまで言って、無表情になる。いつもの、どこか壊れたからくり人形のような表情。
空っぽな、英二の体と心。
「俺は不二の事好きだよ。」



そんな顔で言う言葉?
嘘吐きだね、君は。
そんなに僕という便利な道具を失いたくない?


「不二はどうなの?」
ビー玉のような瞳に不安気な光がよぎる。
不安なの?英二。
君はどんな答えを望んでる?

















「僕は……………英二の事好きだよ。」


















淡雪のような笑顔を僕は英二に向けた。
その感性で、なにか感じ取るものがあったのか英二は眉をぴくりと上げる。
そして、猫のように低く唸った。













「嘘吐き。」













吐き捨てるようにって、、一気に僕との距離を縮める。
そして、胸ぐらを掴んだ。


あぁ、殴られるかもしれない。
のんきにそんな事を思って、目を閉じた。
だって、仕方ないよ。
僕は君を傷つけるような事をしたんだから。
それぐらい黙って殴られてあげる。

けれど、次に来たのは全く違った衝撃。
ドンッ!!!!
と、英二は僕の身体を壁に押し付けるようにして、唇を押し当てる。
とても乱暴で、横暴なキスに動揺して薄く目を開いた。
それはすぐにむさぼるようなキスへと変わって最後に少し名残惜しそうに唇をはなした。
「…・・は………っ……・・」
お互いの吐息を感じ取れるほどの距離で、大きな瞳と一瞬だけ目があって。
でも英二はすぐに視線を下へと向けて、両手の握りこぶしを僕の胸に思いきり叩きつけた。



「不……二……・なんて……・大ッキライ。」



絞り出される声に、耳を傾ける。
「その声も、その笑顔も、その表情だって、皆ツクリモノ。
俺だけに向けられたものなんて一つもないんだから!」
やがて、その声はかすれた涙声と変わっていく。
「肌を触れ合えば、不二を受け入れれば理解できると思ったよ。
でもそんなの……・・全然嘘っぱちだ…。」
したしたと、涙の露が僕の制服にしみの後を残す。
英二の心奥底に眠っていた激しい感情を、受けとめる。




英二の気持ちは今不安定で。
僕のことを信じられない気持ちと、沸きあがる僕への思いに戸惑ってる事が理解できた。
頬に伝う幾筋の涙は
僕に語りかける。


君の為にと思ったのに。
君に幸せになって欲しいのに。








僕が君を不幸にしているの?




「・………迷い込んで、先が見えないんだ……。」
ギュウ。と、拳を更に握って、英二は言う。


それは一種のラビリンス。
嘘で塗り固められた、嘘の迷宮。
入り組んだ迷路が道筋をふさいで。
なかなか進めさせない。




走って
探して
そして行き止まり










まだ、出口の光は遠い。





離れる事が、幸せになれると思っていた。
だって、英二は僕になにも感情を抱いていないと思っていたから。





でもそれは

























「………・堕ちる所まで、堕ちてみようか。」
握られている拳をやんわりと包み込んで、少し身体を離す。
琥珀色の瞳は、何を言われたか分からないみたいでぱちくりしている。
「………不二……?…。」
「英二は、迷路に迷っちゃったんでしょ?自分がどうしたら良いかわからないんだよね?」
「う…ん……でも……。」
「分かってる。僕と離れたくない。…・でしょ?」



見透かしたように、見つめる。見つめられる。
お互いは、お互いの気持ちを探り合って。
答えを導き出そうとする。
もう、瞳は外さない。





「僕は、英二を幸せにするのは僕じゃいけないんだと思ってた。
だって今築き上げているのはたった一言だけで崩れてしまう儚くもろいものだから。」
「一言?」
「"スキ"」
言われて、表情が止まる。そして、今までは見せてくれなかったのに頬をカァァァァァ…・・と、赤く染めた。
「まっ…・・真顔で言うにゃぁ!」
「アハハ。猫語になってるよ、英二。」
「笑うな、不二のバカッ!」
英二らしさが少し戻ってきて、僕は安堵する。
そう、君はそっちの方が全然良い。
無理をしないで、自分の気持ちに正直なのが、一番輝いてる。


「僕達は、見返りを求めていなかった。
だって必要ないしね?ただ暖めあう身体が必要だっただけ。
だから、特別な感情なんていらない。」
「だから?」
「ソゥ、"だから"スキって言葉は重いんだよ。」

ちょっと話が難しかったかなと思ったら、案の定英二はうーん…と考えている。
やっぱり…・・
でもそれ以上考えるとショートしちゃうんじゃない?


一生懸命理解しようとしている英二の姿はとても可愛くて。
先程見せた狂気じみた姿はもはやそこにはなかった。




「良く…・・分かんにゃい…。」
「フフッ。良いよ、英二はそれでも。
だから僕が言いたいのは君だけの鳥になってあげても良いよ?ってこと。」
「不二、お願いだから具体的に、率直に、簡潔に説明して?」
英二はどうやら必死のようで、とても念を押して僕に言った。
だから僕は英二の望み通り具体的に、率直に、簡潔に話した。
「さっき、英二を幸せするは僕じゃないって言ったよね?」
「うん。」
「でも、英二は僕がいないと幸せになれないんでしょう?」
「…かも…・。」
ちょっと疑問符を浮かべて首を傾げる。
「結局英二を幸せに出来るのは僕以外いなくて。そしてそれを僕自身も望んでるってコト。」















ねぇ、英二。
本当はね、今君を抱きしめてしまいたいくらい嬉しいんだ。
だってずっと君の心は僕に捕らわれていた事を知ったから。
君を幸せに出来る人が僕だと言う事実。
それがたまらなく僕を酔わせるよ。
















君が苦しんで傷ついた分だけ
僕が幸せになったといったら、怒る?










「……鳥……。」
ポツリ。と、呟いて、英二がポスリと顔を僕の胸にうずめた。


「もし不二が鳥なら、今更逃げるなんて許さないんだから。
そんな事するんだったら、風きり羽……切るからね。」
「あはは。恐いなぁ。」
「そんで、もう二度と青い空を見せないよ。ずっと籠から出さないで一生俺の側にさせる。」
夢心地のような事を、口走る。瞳は、金色。
「俺と付き合う事。それはそーゆー事だよ。良いの?」
押して、そして、引いて。
それはまさに
恋の駆け引きそのものだ。
「良いよ。出来るものならね。」
ふっ。と笑って不意打ちのキスを、英二に贈った。












嘘は嫌い
だから、嘘吐きは嫌い







でも、そんな自分も嘘吐きで
嘘で上塗りをしてた







貴方に幸せになって欲しくて。
自分の幸せよりも望んで。




結局





結局貴方を幸せに出来るのは自分しかいなくて




そこが決して踏み込んではいけない場所だったとしても
それが食べてはいけない果実だったとしても





きっと手を伸ばしたはず








何故ならどんな犠牲を払っても失う事の出来ない人がいるから

長いのか短いのか分からない人の生




その一生でただ一度で会うであろう吉星の人




その人となら、一緒に堕ちても良いと思うから











嘘で塗り固められたラビリンス

それは恋で作られた恋迷宮





迷い込んで、先は見えなくて

もしかしたら




もっと深くまで堕ちてしまうかもしれない







でも










恐くなんか、ないよね
だって君がそばにいるから

今はきっと
身体だけでなく




















心さえも捕らわれたはずだから





















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後書き


今回は菊不二思考で行ってみました。
とにかく、私はシリアスは好きですがバットエンドは嫌いなので(書いていて楽しいですけど)
最後は仲良くさせてみました。
裏でもないのに暗い話だ…・・。
でも結局二人はらぶらぶなんじゃないか…。
そーゆー運命なんじゃないか…。くっそ、バカップルめ(かいたのお前だろ?)
こういう不思議な雰囲気を入り交じさせた小説は私好みです。
そう、自分にしか理解出来ないわけ分からない文章と表現で書き綴るお話こそ、楽しいものはありませんとも。
めっちゃ自分の趣味で走ってすみません…。
皆様の目には一体度のように映るのか。

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