【こんな表情誰にも見せない】





最近千石は眠れない
眠くないというわけではないのだが、寝ようとすると冴えてしまって。
原因不明の不眠症。
気がついたら朝やけのもやが見えたのなんて珍しくない。
そのせいか昼間はとても眠くて
疲れ気味で、ぼーっとしてしまう。
あの大好きな跡部の前でも、だ。


「今日さー。」


背後から跡部に声をかけた。
跡部は軽く肩越しに振り向く。

長い赤い絨毯がひかれた長い廊下を歩いていて。
大きな跡部邸にはもう慣れた。

「跡部君迎えに行った時さ。思わずうたた寝しててジロー君におこされちゃった。」

「お前もう末期だな。」

「……………そこまで言わなくても?」

相の変わらず不機嫌気味の跡部様。
その超自己中心的男と千石は付き合っている。


ガチャリと開けると意外にも大きくない部屋。
とても大きい天蓋つきのベットがあって。
跡部は自分のかばんを放り投げた。

千石はふらりと誘われるようにベットに横たわる。

「……………オイ。」

「ぁ、なに。する?」

「(下品)浅はかだな。」

冷たい視線に、苦笑した。
うつらうつらな榛の瞳。

「最近眠れなくてさー。」

「…………。」

「なんでだろう。」

自分のことなのに分からない千石を跡部は冷静に観察していた。
否。分析していた。




人は考えることが多かったり、悩みが増えすぎたりすると眠れなくなる。
無意識に脳が活性化するからだ。
眠っていても、眠りは浅い。
睡眠は、全ての源。
その源が壊れれば人間の身体が壊れる。

千石はあっけらかんとしてなにげに色々考えている事を知っている。
自分の事。テニスの事。
コンソレを間近にした今、今度こそ負けられない。
亜久津を欠いた山吹の要はやはり千石。

それを知ってか知らずか、この頃は「メンゴ」とおきまりの困ったような笑顔をしてテニスに打ち込んでいる事を知っている。

薄暗い部屋でやはり眠れずに薄く目をあけている千石にちろりと視線を動かした。
長い睫毛が半分瞳を隠して。
見据える茶の瞳は何を思い見つめるのか。

「?……………跡部く……?」

ギシリ。
と、ベットの上に乗ってきた影を感じて千石は目を開けた。
その次の瞬間

白い大きな布が視界を塞ぐ。

「うわっ!?」

すっぽりと白い布で身体を包むように。
白い制服は白と重なる。
くるまれた躯は横に倒されたままくるくると巻かれて、跡部は千石の隣に四つんばいになる。
無表情だが目は温かい。
身体を横に向けたまま跡部を見上げた。
さらさらと細い髪の毛は頬をかすめて。


跡部は千石の顔を抱え込むように抱き締めた。







「もう、寝ろ。」










たった一つのその言葉。
抱き締めたそのうではとても優しくて。
いつもの跡部とは全く違った。


それでも千石は跡部はなんだかんだいって優しい事を知っていたから。


「(……………ぁ)」

意識がまどろむ

闇に堕ちてゆく





何故だろう
眠れなくて、色々考えて、悩んで
悩んでも仕方ないと分かっているのに

後は何も言わずに腕に収める
自分の精神を落ちつかせる。

本当に


いつから自分はこんなにも彼無しでは生きていけなくなってしまったのだろう。




















































スゥスゥとした静かな寝息をたて始めた千石を見て、穏やかになった瞳をゆっくりと跡部は細めた。
そうして軽くその橙色の髪の毛をかきあげると、目じりに唇をおとす。
こんなことしてるなんて誰が考えようか。

跡部自身でさえ驚いているぐらいなのに。

そっと触れて、顔を離す。
眠る千石を見る瞳はとても温かい。
そうして

ふわりと微笑んだ。

一体誰が、帝王がこんな表情をすると考えようか。
いとおしそうに優しさに包まれたその微笑みは千石だけのもの。





























「おやすみ。」





































それを彼は知らない。






































【 本当は夢でも君を抱き締めたいのに 】


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