夢の中の恋人



この頃夢を見る。そこはなんだか海の底のようで、でも全然苦しくなくて(夢だから当然だけど)そして不二に、会う。他の夢と少し違うのは、それがここ最近毎日続いているということ。



「不二っ!!」
「やぁ、英二待ってたよ。」
そういってにっこりと笑う不二。それだけで俺はなんだか嬉しい気持ちになる。
「ね、ね、何で今日先に帰ったの?」
「今日は姉さんの誕生日だったから・・・ごめんね?」
少し申し訳なさそうに首を傾げられて俺はプルプルと顔を振る。そうしたら不二は少し安心したようにすると、俺に優しく・・・・キスをしてくれた。
それだけで俺の心臓はバックバク。すごく幸せな気持ちになった。
俺と不二はソコで楽しく話をする。今日一日の感想、気付いた事、何でも話す。そう、まるで恋人どうしのように。そんな一時が一番好きだ。だって普段は絶対に叶わないことだから。
「ああ、もう時間だね帰らなきゃ」
「ええ!?もうこんな時間?」
そう言って俺は抗議の声をあげた。
やだやだ・・・だってココから出たら、また普通に戻っちゃうじゃん。
「不二ぃ〜俺・・・まだ起きたくないよ・・・」
甘えた声を出したけど、ぴしゃりと跳ね返された。
「だめ、今日も学校でしょ?」
「だって〜〜」
上目遣いで不二を見上げる。そうしたら不二の目が少しやんわりと優しくなった。
「英二・・・僕だって出来る事ならずっと一緒にいたいよ?でも、僕にも英二にも自分達の生活があるもの。戻らなきゃ。」
分かってるけどさ〜〜。そう思いつつも頬をぷう。と膨らませた。
不二は俺の顔を包み込むようにして、俺のひとみをじっと見つめる。
「そんな顔しないで。すぐに学校で会えるよ?」
そんなのは分かってる。だけど・・・・これは、夢だ。非現実的な事。絶対に、俺の願いは叶わない。
「だって、学校では不二友達だもん。」
「そんな事無いよ。僕はいつでも英二の事想ってるんだから。」
・・・嘘ばっかり。これは夢の中の不二。俺の理想の不二。俺の煩悩が生み出した、まぼろし。
分かっているけどそういうこと言われると嬉しくなる。胸が、ドキドキする。
「それじゃ、学校で会ったらウインクして?そしたら・・・信じるから。」
「分かった。そしたら英二は「おはよ、不二。」って言うんだよ?」
「約束?」
「そ、約束だよ。」
そう言って不二は俺の頬にキスをした。
「またね、英二。」
「うん。学校でね。」
 


ジリリリリリ・・・・・。けたたましい目覚ましの音で俺は目を覚ます。
そしてさっきの夢を思い出す。夢はすぐに忘れるって言うけれどそれは嘘だ。なぜならはっきりと先程のやり取りを思い出せるから。とんでもなくリアルな夢。
「・・・またあの夢だ。」
そうやって少しうんざりしたように呟いた。
俺がこの夢を見るようになったのはつい最近。不二の事好きなんだって自覚してからこの夢を見だした。
夢の中の不二は、俺のことが好きだって言ってくれる。最初はすごく嬉しくて。しかもとんでもなくリアルティーだったから、これは本当の事なのかも?とか思ったりした。でもそれはやっぱり夢なのだとすぐに気付くはめになる。なぜなら・・・不二は一度だって夢の中の「約束」を守ってくれた事は無いから。
そんな時は決まって夢の中で「ごめんね、勇気が出なくって。」と、謝ってくれるけど、もう俺は信じない。これは夢なんだって割りきってる。そうでもしなきゃ、夢の外の生活で不二と普通に話す事なんて出来やしない。
だって、俺は男で、不二も男で、こんな感情異常だ。おかしいに決まってる。しかも俺だけじゃなく両思いだなんてありえない。
だから本当はこんな夢見たくない。自分がむなしくなるだけだし、夢だとわかってもどんどん深みにはまってしまうから。
けれど、そんな事を思い出しながらも、こころの奥深くで期待している自分がいる。
「不二・・・約束守ってくれるかな?」
そんな独り言を言いながら制服に着替える俺。っとに、馬鹿・・・。



一抹の期待を持ちながら学校に行く。今日は朝練の無い日だからすぐに教室へと向かう。そして教室を開けると、案の定不二はいた。
不二は朝練のある日だろうが、無い日だろうが関係無く来るのが早い。教室には不二一人。そして不二は俺の存在に気がつき顔を、あげる。
ドキドキドキドキ・・・。俺の心臓はココ一番の高鳴りを示す。
「あ・・・・英二、オハヨ。」
がくぅ。俺は思いっきり肩を落としてしまった。やっぱり期待したのは間違いだった・・・。
「どうしたの?今日は早いね。」
そうやって笑いかける不二。
「う・・・ん。分からない問題があって、不二に聞こうと思ってさ。」
これは嘘。だって不二が勇気が出ないって言ってたから早く来たんだよ?だって誰もいなかったら恥ずかしいも何も無いじゃん?
「くす。珍しいね?英二が宿題ちゃんとやってくるなんて。」
「あ、ひっでー。俺だってたまにはやるもんね−!」
「ごめんごめん。」
そう言って不二はくすくす笑った。俺もめい一杯の作り笑いを浮かべる。本当はすっごく傷ついてるんだけど・・・。良いもんね、夢の中の不二にやつ当たりしてやる。
「それで?何処がわからないの?」
「あ、うん。ここなんだけどー。」
そうして、今日も俺の期待にそぐわない一日が過ぎていった。



「もう〜なんで不二今日約束破ったわけ!?」
「ごめん…英二。」
そう言って不二は俺のことを抱きしめた。不二は学校でも優しいけど夢の中ではもっと優しい。
「でも、俺分かってるんだよね。」
「?」
「だってこれは俺の夢だもん。俺の夢だから不二は俺の…恋人でいてくれるけど学校は現実の世界だからうまく行くわけないよね。」
自分が一番言いたくなかった事を言ってしまった。言葉にすると、認めてしまう事になるから嫌だったのに。けれど一度開いた口はもう止まらない。
「この夢は…俺の欲望が生み出した、不確かな物だもん。」
あ、やば…。自分で言ったくせに泣きたくなってきた。
「そうかな?」
突然不二がしゃべったからうつむいた顔を上げる。
「本当にこれは英二の夢?」
「何…言ってんのさ。俺の夢にきまってんじゃん。」
「僕の夢かもしれないよ?」
不二…どうしちゃったんだろ?突然そんな事言うなんて。大体何が言いたいのか全然つかめないんですけど。
でも、不二の瞳は真剣そのもので、まっすぐ俺を見つめてくる。そして俺の答えを…求めてくる。
「ごめん…俺、不二の言ってる事良くわかんないや。」
そう言って無理に笑顔を作った。そしたら不二はつかんでる手に力を入れたから肩が少しきしんだ。
「っ…不二、いたい。」
「無理に笑わないで。」
耳元でささやかれるように紡がれた声。
どくん。
「夢の中でまで、自分を作らないで。」
どくん。
不二の声が…・頭の中で繰り返される。
「夢の中の僕にまで無理をしないで、英二・・。」
消え入りそうな声でささやく不二。俺の心臓がどくどくと高まる。至近距離にいるからこの音を聞かれたくなくて、俺は立ちあがった。
「英二?」
「お、俺今日朝ご飯の当番だからもう起きなきゃ。」
そして扉のドアに手をかける。
「英二っ!」
不二の制止の声が聞こえたけど俺は聞こえなかったふりをした。
「また学校でね?」
振り返って笑う俺。作り笑いをする俺。そして扉を開けて、外へと出た。
一人取り残された不二は、ふう。とため息をつく。そして、すっ。と視線を後ろに向けると、そこには空色の扉…。英二からは見えないであろう不二の扉だ。
そこで不二は何を思うのか?限りなく深い海の底から不二は…空を仰いだ。

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