周の夢に胡蝶となるか
胡蝶の夢に周となるか
続・夢の中の恋人
英二と不二が夢の中で会うようになって、色々あったけれども結局は二人の心は一つだった。
あの後から、二人は夢で会っていない。
会う必要は、ない。
もうそんな事をする必要は、ない。
それでも、二人にしてみれば夢の中は一種の「聖域」なのであって。
なくすには、忍びないもの。
けれど見れなくなってしまった。
二人の意思とは反して、会えなくなってしまった。
勿論以前とは比べられないほど二人の距離は縮まったし?
夢の中で会わなくとも二人で話せば良い。
それでも。
それでも二人は心がぽっかり開いたような気持ちにおそわれて、いた。
「・・・・・どおして行けなくなっちゃったかなぁ?」
不二の家の、不二の部屋の、不二のベットに寝転がりながら英二は呟く。
机に向かっていた不二は少し手を休めて、くるり。と、イスを反転させた。
「また夢の事?」
「またってなにさ、またって。」
「だって英二、この頃そればっかり。」
「だぁってさ、突然だったんだもん。」
「あの頃からだよね・・・。」
“あの頃”とは、二人の心の距離が縮まった日からの事。
ぱったりと、それはもうぱったりと夢の世界に行けなくなってしまったのだ。
それも、英二だけでなく、不二も。
「別に良いんじゃない?もう必要ないでしょ。」
ゆっくりイスから立ちあがって、英二の横にこしかける。それでも英二の機嫌はなおらない。
「それはそうだけど、なんか秘密基地奪われた気分。」
「ぷっ・・・。」
「不〜〜〜〜〜二ぃ〜〜〜笑うなよっ!」
「ごめんごめん。だって英二が秘密基地なんて言うから。」
クスクス。と笑う不二を横目で見つつ、英二は少し頬を膨らませてベットに突っ伏す。
そして、ため息。
本当に・・・・・・なんで行けなくなってしまったんだろうか?
思わずには、いられなかった。
不二と英二が夢で出会うようになったのは、ちゃんとした経過がある。
それは“兆候”
夢で会う事になったきっかけともいえるべき“兆し”
ひらひらと桜が舞う、卯月。
中学1年の入学式の日、不二に桜の下で出会った。
その時はお互い顔も知らなかったけれど
英二は不二の持っていた独特な空気と容姿に。
不二は英二の持っていた不思議な雰囲気に。
惹かれた
それはまるで引力の如く。
引き寄せられた。
言葉は、交わさなかった。
その時は、まだ“出会っただけ”
桜の花弁が舞う中で出会った二人の時間は、それから回り始める。
クラスは残念ながら違っていて、しかも1組と6組だから初めと終りで距離は離れていたから日常生活で会う事はなかった。
それでも運命は二人を見放さない。
二人が嫌でも顔を合わす事になった場所。
それは「青学テニス部」という部活で、だ。
けれど、1年間二人は言葉を交わす事はなかった。
何故か?
今と違ってレギュラーではなかったから毎日が雑用。基礎練。
それにほかにも沢山の同学年である部員がいたから話す必要はなかった。
第一二人のクラスはかけ離れていて。
お互いが話そうという気がなければ、きっかけがなければ、
話すことは、困難。
二人は入学式の時に感じた、あの桜の下で出会った時の衝撃的な感覚は忘れてはいない。
だから、話しかけようと何度も思った。
それでも、出来なかった。
もし、もしあの時味わった者が自分だけだとだったりしたら?
話しかけて「誰?」と言われたとしたら?
そう思ったら、話しかける事は出来なかった。
普通ならば、そのような事は考えないだろう。
けれども、二人は「特別」だから。
だからその普通な事が出来なかった。
そうして、一年が過ぎ去る。
レギュラーになって、初めて話す事が出来た二人。
「えーーっと・・・初めまして。俺、菊丸英二っ。」
「クス、知ってるよ?だって去年1年間一緒に部活やってきたじゃない。」
「そ、そうだけどさっ。去年は俺達話す事なかったじゃん!」
「そうだね、僕と君はとんでもなく遠いクラスだったしね?」
「・・・・・・・だね。」
「それじゃ、改めてよろしく。」
にっこりと、不二は笑って。
英二もつられてにっこりと笑った。
そして、握手。
それはとても不自然で。
そんな事する必要はないのに、二人は握手をした。
そう、そしてそれが“始まり”
“出会い”が“始まり”に変わった、そんな瞬間。
菊丸・・・英二・・・ね
勿論知ってるよ。あの日、桜の木の下で会った事、よく覚えてる
やっぱり、不思議な空気を持つ人・・・
そんな事を、僕は思う
屈託のない笑顔を僕に向けて
勇気を出して話しかければ
この人懐っこい笑顔を隣で見れたかもしれない
まぁ、それは出来なかったけど
避けられてると思ってたから
だってね、いくらなんでも不自然じゃない?
一年だよ?
いくらクラスが遠いからって
・・・・・不自然すぎ
これは避けられてると思って良いと、僕は思った
何故だかは、分からない
僕だって、会って「誰?」なんていわれたらそれこそ悲しいし
第一
恐かったからね
まぁ、いいや
やっとレギュラーを勝ちとって君との会話の機会を持てたんだもの
部活を有効に使わないと
一年分の二人の距離を縮めないと
話す事を恐れて、ずっと遠巻きに見ていた不二は、思ったよりとっつきやすい人だった
綺麗な顔。蜂蜜色の絹糸みたいな髪の毛
やっぱり、近くで見ても綺麗だなぁ。そう思った
一年・・・・
長いなぁ。どうして、話しかけようとしなかったんだろう
いっくら離れてるとは言っても、話そうと思えば話せたし
第一
一番話しかけたかった人なのに
やっぱり・・・
恐かったのかな
会って、はなしかけて
想像と違う人だったらどうしようって思ってたのかな
「君、誰?」
って、聞かれたらどうしようって思ってたのかな
まぁ、いいか・・・
今はこうして結構普通に話せてるし
これから仲良くなって行けば良いんだから
一年分の距離を、どう埋めようかな
折角レギュラーになって仲良くなる機会を貰ったんだし
神様の思し召しと思って有効活用しなきゃね
今度は、もう少し勇気を出して
お互い別々な思惑を浮かべて、二人は出会った。
そして、また一年が過ぎ去る。
そして、今。
あの時と同じように桜は舞う。
それは、春に降る雪の如く。
ひらひら、ひらひらと。
三年になって、二人の距離は少し縮まった。
けれど、お互いにある問題をかかえて、いた。
二年になって、改めて出会って、
気付いてしまったのだ。
お互いが、引き寄せる気持ちに。
相手を思う、気持ちに。
でも、相手は同姓。
その事が二人を戸惑わせていた。
初めての、感情。
どう対処して良いのか分からない、この感情を扱いかねていた。
それでも、運命の輪は回る。
知ってか知らずか、運は二人を同じクラスにした。
ますます縮まる距離。
それと同時に戸惑いが膨らむ、思い。
それは不二よりも英二のほうが大きくて。
英二の気持ちを不安定にさせた。
そうして、思う。
“もし・・・・・もしこれが夢だったら・・・・・・もっと普通に接せれるのかもしれない”
・・・と。
英二は二人が出会ったあの桜の木の下に立った。
不二への思いをどうして良いのか分からなくなった時、たまらなくなって英二は必ずここへ来る。
なぜか、ここの下に来るととても落ちつくから。
しかも今の時期は桜の花が咲いているのでますます心を落ち着かせる。
手のひらに落ちてくる白い雪をただただ、見つめる。
美しいその花を、見つめる。
「・・・・・・英二?」
名前を呼ばれて、声のした方に首を向ける。
声の主は、不二だった。
不思議そうに、英二を見つめている。
「どうしたの?そんな所に立って。」
折角心を落ち着けるためにここへ来たのに不二がいてしまっては意味が全くなくなってしまう。
それでも、自分の事を心配してくれた不二に対して、嬉しさで心が踊った。
「ん、花をね、見てたの。」
「今の時期は、綺麗だよね。桜。」
「う・・・・・・ん。でも、短いよね。」
「?」
「花の命は、短いよ。綺麗だけどさ、可愛そう。」
「可愛そう?だって花は綺麗って言われて、人を喜ばせて幸せだと思うけど?」
「でも、すぐに枯れちゃうのは可愛そうだよ。きっと・・・きっと花は綺麗になるために生まれきたから、自分を綺麗に見せるために自分の持つ全ての生命力を注ぐから、すぐ散っちゃうんだよ。」
すこし憂ろな表情で、英二は呟く。
桜の花は、二年経った今でも、咲く。
そして、散る。
花が散るさまはとても綺麗だ。
花の命は、短い。
花が散るのは、寂しく悲しいもの。
けれども、
散るところがこんなに綺麗なのは桜だけではないかと英二は思う。
桜の花を沢山つけている姿は美しい。
桜の花が散る姿も美しい。
だから、英二はこの花がとても好きだった。
でも、思うのだ。
こんな綺麗な桜のように、自分達も散ってしまったらどうしようと。
不二は英二が今までで出会った中で一番綺麗な「人」
綺麗だなぁ。と、思った人。
だから、散ってしまうのではないかと思う。
終わって、しまうのではないかと思。
だから、恐い。
この思いがいつか風化してしまうのではないかと思うと恐くてたまらない。
あきらめなければならないと思うと恐くてたまらない。
桜の花を見ると、そんな事を思ってしまうのだ。
「可愛そうだよ」と、呟く英二の横顔は
とても儚げで
なんだかとても不確かな存在のように思えた
あまりにももろそうに見えたから
思わず
抱きしめてしまいそうになった
その身体を、抱きしめてあげたい
泣いている心の涙を、ぬぐってあげたい
慰めて、あげたい
癒して、あげたい
思えば思うほどその想いは強くなる
止まらなく、なりそうになる
でも、出来ない現実
手が、身体が、足が
動かない、現実
不二が来て、俺に話しかけて
ますます不安定になる
俺の心
近づかないで
これ以上踏み込まれたら
きっと不二は俺のこと軽蔑する
嫌われたくない
嫌われるぐらいなら、友達のままで良い
遠くから、眺めているだけで良い
もとより手の届かない人なのだから
そう、言ってみれば「蝶」
ひらひらと綺羅で
舞う、蝶
不二は蝶そのものだ
その羽を切り取って、飛べなくして
標本に収めたくなるから
だから、これ以上近づかないで
二人は、思う。
“もし、これが夢だったら・・・・・・願いは叶うだろうか?”
不二は、英二のことを抱きしめたい事を願う。
英二は、不二と友達以上の関係を願う。
二人の願いが、一つに合わさり。
二人の思うことが、一つになって。
強い風が・・・・・・・・・・吹いた。
ごぉっ。と、突然の強風が二人を襲う。
桜の花弁が一気に散って、空へと消えてゆく。
吸いこまれるように舞う春の雪。
二人の視界は、真っ白に染まる。
周の夢に胡蝶となるか
胡蝶の夢に周となるか
遥か昔、長い歴史を持つ中国で壮士という詩人が謳った、詩。
人が蝶となる夢を見たのか。蝶が人となる夢を見たのか。
夢か、現か、幻か。
それが分からなくなってしまった一人の男が謳った詩。
夢と現の狭間で立ち止まった男が、蝶になる夢を見たのか。
それとも蝶だったのか。
分からなくなってしまった詩人が作った詩。
この場合は、どうなのだろう?
二人が夢で会うようになったのは、この時から。
原因が桜の木の下で二人が同じ事を思ったから。
とは、言い難い。
そんな事は非現実すぎだから。
けれど、初めから全く違う人間同士が同じ時間、同じ時を夢の中で過ごすなどという事は不自然。
不自然。それは、自然ではない事。
だから、分からなくなる。
これは、本当に現なのかと。
もしかしたら、現の中で夢を見ているのではないのかと。
もしかしたら、夢の中でまた夢を見ているのではないのかと。
「・・・・・・・・・・んで、どうなんだろ?」
ベットの中で、英二はまだ呟く。
そんな英二を見て微笑む不二。
「さぁ・・ね。」
「さぁってさ、不二は別に良いわけ?なんで突然とか思わないの?」
「確かに不思議だと思うけど、考えたって答えが見つかるわけじゃないし。それに、僕達が夢の中で会うって事自体おかしかったんだから考えないほうが良いんじゃないかな。」
「・・・・・・・だって・・・・気になるじゃん。」
「くす、英二は考えれば考えるほど頭がショートするから止めたほうが良いよ?」
「うわ――――、ひっど。俺の頭が弱いって言いたいわけ?」
「そういうわけじゃないよ。」
にっこりと笑って、見上げる英二の髪の毛に触れる。
その跳ねた髪の毛に指を絡ませた。
そして、すぅ。と開かれる茶色の瞳。
「僕はね、ただ現実の英二のほうが良いなって思っただけだよ。だって、夢の中の英二は確かに英二だって事は、信じる。でもそれはやっぱり夢な訳で、現実の英二には到底及ばないでしょ?」
「うっ・・・・夢の中でしか出来ないことだって、あるじゃん。」
「そうだね。でもやっぱり僕は現実の英二が良い。今英二が隣にいるって事だけで、十分だよ。」
茶色の瞳は、真剣で。
口元は笑みを浮かべているけどその強い光に気おされた気がした。
不二が目を開けると、英二はドキドキする。
また、挙動不審になりそうになる。
瞳にみすかれてしまいそうで、心が騒ぐのだ。
だから、頬がかぁぁぁぁ・・・・・と、赤くなる。
「アハハ、赤くなってる。可愛いなぁ、英二は。」
「か、可愛くなんてにゃいもん!!」
ふーーっ・・・・と、まるで猫のように怒る英二を見て、更に微笑を深める不二。
そして、ゆっくりと自分の唇を合わせる。
優しく、甘い、口付け。
周の夢に胡蝶となるか。
胡蝶の夢に周となるか。
それは夢か現か。
それとも幻か。
幻を、二人は見たのか。
それとも、幻に捕らわれたのか。
それは、分からない。
でも、今の二人にとって一番大切なのは
「この世で一番愛しく思う人が、側にいる。」という事。
それだけで、幸せになれるという事。
それだけで、十分。
夢の出来事が、夢なら夢で構わない。
幻なら幻で構わない。
どちらにしても、欲しい物は手に入ったのだから。
『縁』とは、不思議なもの。
決してめぐり合わないと思われた糸が一度交われば
その力は、強くなる。
絡んだ糸は「運命」となって
二人に、訪れる。
強く絡んだ、糸。
本当なら別の人と絡むはずだった、糸。
糸は、引き寄せる。
“縁”という名の網にかかった二人を・・・・・
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はーーーっ・・・・・終わった終わった。
もうやけ気味で書いたのでおかしな文章ですね。
二人の「今」と「過去」を書いてみました。
まぁ、過去が多いですけど。
こんは非現実的なことが起こって良いのか!?
と、思った私。
だから、きっとなんかあったんだよ、だいたい夢の中で会うなんてなんもないのにあるわけないじゃん!!絶対何かあったね、これわ。
と、何があったのかはわからずに進めてしまった夢の中の恋人。
だから、も一度初心に戻って考えてみました。
・・・・・・・不思議なのが、何故この小説が人気あるのかという事デス。
わっからないなぁ。でも、いいや。
好きになってくれるというのは私にとって一番嬉しい事なのですからvv
少しは、感謝のお礼としてできた・・・・・カナ?
無理かな、ははは・・・・・・・。
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