― ラストパートナー ―


世の中沢山の人で溢れかえっている。
様々な人種、様々な性格。
そうなりゃ"あたしたち"みたいなきちがい野郎も当然出てくる訳で。
まァ、ぶっちゃけ







私は同性愛好者である。










































******

***


女が好きだと自覚したのは何時だっただろうか。
多分男を恋愛相手として見れなくなった時から。

ま、別に良いけどね。

こんなに世界は広いんだ。
私みたいな奴が一人や二人。

こんなに世界は広いんだから

受け入れてくれるだろう。



もっとも、私みたいな"特殊"なやつはそうそういないだろうけど。

神に仕えるこの身でありながら







私は女しか愛せない



































ソウ、思っていた。
















































乱れた髪の毛をかきあげて鋤く。
指がくしの役割を果たして、指が私の髪の毛をすく。
絡まる髪の毛をとかしながら私は廊下を歩いた。
少しはだけた胸元に風がかかる。
早足で歩く私を通りすぎる生徒達は振り返り、見る。

そりゃそうだ。
首元についているキスマーク。
いかにも今"ヤってきました"て、感じ。

お相手はB組特級の可愛子ちゃん。
彼女はノーマルだったけど、あっさり私を受け入れた。

ま、どんな女も私の手にかかりゃ雌になるってもんよ。
ふっ・・・美しいって、罪(自分で言うな)

何故こんなに早歩きだというと、約束の時間に遅れそうだからだ。


「いけない。」


時計をちらりと見て小さく呟いて自然と駆け足になった。
屋上へと続く螺旋階段を駆け上げる。

くるくる

 狂狂狂・・・

狂ってる私"達"にはこの階段は丁度良い。

ソウ笑いながら話たっけ。




































重い扉を開けると、ざァと風が一気に吹いた。
乱れ切った私の髪の毛は空へと踊る。
良いんだけどさ、今更セットもなにもないし。

だけど強い風だなァ。
失敗したかな、こりゃ。

約束場所を屋上にしたことを少し後悔して、だけれど目の前に私に背中を向けて座っている人物を見つけると思わず口が緩んだ。











































「侑士。」



































名前を呼んだら、黒髪が揺らいで肩越しに振りかえった。
侑士は私を見ると、ふ・・・と笑う。

「随分遅かったやん。」

「ちょっとヤボ用でね。」

「女と寝んのがそんなにヤボなんか?」

くく・・・と、喉を鳴らして侑士は笑った。
見透かされている事に別段動じもしないで私は侑士の隣に腰をおとした。

「付いてんで?ソレ。」

ちょん、と、侑士は人差し指の先で私の首筋の赤い痕に触れた。
私は侑士を横目で見ながら一層微笑を深くする。

「わざとだよ、可愛い事すると思わない?」

「せやなァ。んで、今日のお相手は?」

「B組の特級の可愛子ちゃんvv」

「・・・・・・・・・・・名前知らへんの?」

「私F組だよ?覚えられる訳ないって。」

「せやかて・・・不憫やな。その事知ったらどんだけの男が泣くか。」

「だけど顔は覚えてた。随分可愛い子だと思ったもん。」

「当然やろ。」

こんな話をしてるってのに、侑士はとても楽しそうだ。
だから私も気がね無くそんな事が言えるのだ。


だけど



私達はちょっとおかしい。

てゆか、変だ。

てゆか、狂ってる。




































「侑士も、どうなのよ?」

「何が。」

「は、しらばっくれないでよ。あのテニス部のお姫様、落とした?」

「(苦笑)それがなァ・・・手強くて。」

「なんだ、まだなの?」

「まだってなんや。相手はあの跡部やで?」

「跡部も頑張るよねー。こんなに良い男が誘ってるっていうのに。」

「せやろー?もそう思う?」

「思う思う。」

あははと笑って侑士に同感した。
全く、跡部の考えてることが分からない。
そりゃ跡部も随分綺麗で、モテると思うけどさ。
あの忍足侑士だよ?氷帝の天才だよ?
うーん、理解不能。

ま、私達の考えてることなんて常人には分からないと思うけどね。



もうここまで言えばお分かりだろう。



侑士も、私と同類だ。







































初めて奴と会ったとき、直感した。


     『こいつは同類、だ。』


目が合った瞬間、そんな事を思って。


類は友を呼ぶ。

そんな言葉があるように、私達は引き合った。
まるで磁力のように。

それを感じとったのか





































まだ数秒しか目を合わせていないのにもかかわらず












































侑士はとても綺麗に微笑んで見せた。






































その瞳は、全てを見透かしているようで。
両目に埋め込まれた黒曜石が淡く光って。
そうして




まるで以前から知っていた友達のように笑った。






































そのまますれ違うと、隣のおかっぱの可愛い男の子が(後にがっくんだと知る)「なァなァ、侑士、知り合い?」と、聞いてるのが耳についた。


んな訳ないでしょ。





私達は、一瞬のうちに気がついたのだ。





























お互いが








































同類であり、仲間であり、似たもの同士だったという事を。





































その後、私達が知り合うのに時間はかからなかった。
何度か廊下で会って、私は微笑んだ事は一度もなかったけど、あっちはそりゃもう綺麗に微笑む。
そうして、すれ違った後、私は振り返って奴の背中を見送る。
そんな関係が何ヶ月か続いて。


そうしている間、私は侑士の噂をいろいろ耳にすることになった。

氷帝の天才。

テニスが上手いのと、その美貌と知識をもって、彼は有名になった。
名前を聞いたわけではないのに、私は奴の名前を知る。
だけど、多分相手は私の名前を知らないと思いながら。

けれど、侑士は相変わらずすれ違うと私に微笑みかける。



本当に、今考えてもおかしい。






否、










あの時から





































もうすでに"おかしかった"のだ。









































「なァ、さん?」

何ヶ月か後の夏の暑い日。

よく耳に響くテノールが私に呼びかけた。
窓に身体を預けて、瞳はまっすぐに。

私は顔を前に向けたまま足をピタリと止める。
そうして




ようやっと私達は声をかわす。


私は未だ視線を合わさないまま口を開いた。

「知ってたんだ、私の名前。」

「謙遜やなぁ、あんたの名前知らない人間はおらへんよ。」

くす、と、まるで随分前から友達だったかのように、親しげに口元を歪める。
お互いの瞳は、まだ交わらない。

私はまっすぐ前を見据えたまま。
けれど、こんなにも心が穏やかな事が逆に不思議だった。
俯いて、黒髪が顔の輪郭をなぞる。
さらり、と艶めいた音が成される。

「随分綺麗な顔しとるくせに、どこか中性的で、家柄は古くから伝わるキリスチャンでうちの礼拝堂のシスターで、頭のえぇ優等生さんvv」

「そいつは、どうも。」

「流石神に仕えるだけあって、誰にも優しくて、親切や。」

どこか、含みのあるような声。
私はなんとなく何が言いたいのか分かっていた。
彼は口元を歪めてとても楽しそうに笑う。

「不思議なのが。」

「……………。」

「誰もが惹かれるその容姿を持っていながら今まで一度も誘いに乗らへんこと。」

「……………。」

「せやけど、不思議な事に女の子の誘いなら快く受け入れる。」

「………………………は、脅してるつもり?」

だったらナンセンスだ。
お互い口に出さなくても同類だってことぐらい知れている。
それなのに脅しをかけるだなんてほんとにナンセンス。
だから自嘲気味に笑っていった。
そしたら、侑士は一層深く微笑んだんだ。

あの綺麗な微笑で。


「いや?そんなんナンセンス…やろ?」

分かり切ったように言った口調が妙に印象的で。
その含みのある声はとても心地よかった。
私はそこでようやっと侑士と向き合う。
向き合って、初めて瞳を見た。


深い


深く沈む海のような、闇のような黒曜石。
なんとも言えない初めて見る色がそこにあった。
眼鏡の奥に潜む二つの宝石を、じ…と見る。

私は口元を吊り上げ、嗤う。

「私も貴方の事なら知ってるよ?顔良し、頭良し、しかも氷帝テニス部レギュラー、天才忍足侑士君?」

そこまで言ったら、瞳を外さずに侑士は私のことを見ると、くすと笑って目を閉じた。
伏せた長い睫毛がゆるゆると瞳を隠す。
まるで闇を隠すが如く。

「光栄やね。」

そうやって笑う侑士はやっぱりとても綺麗だと思った。

そして

「意外だな。」

「何が。」

「貴方みたいな綺麗な人が、なんでホモなの?」

パチリ。
瞳がうっすら開けられる。
開けられた瞳はまっすぐ上に向けられて、私を射た。

「ゲイって言ってや?(にっこり)」

「どっちだって同じでしょ。同姓愛好者…サン?」

「人の事言えへんやろ。」

「さァ?なんの事やら。」

「しらばっくれても無駄やで。」

お互い微笑みは絶やさない。
まるで駆け引きをしているかのように、言葉が飛び交う。
けれど、こんな会話もそろそろ潮時だ。
自己紹介は、これぐらいで充分。


私達の間に会話は不要だ。




侑士はそれを感じ取ったのか否か、すぅと右手を差し出す。

「?」

「握手、や。」

「なんの?」

「同盟締結の(にっこり)」

「なんのことだか。」

あくまでシラをきる私に、侑士はまた微笑む。
その笑顔が、なんだか恐い。
そんな事をその時の私は思った。

だってそうだ。
あんな綺麗な顔して。
あんな完璧に笑って。

無意味に不気味だ。

この私が、恐怖を感じるだなんて。
私は頬にひたりと冷たい汗が流れるのを感じつつも、微笑を絶やさない。

「お互い、上手くやっていこうや?」

にっこりと、更に笑みを深めて言うものだから逆に肩すかしててしまう。
私は溜息を一息つくと、諦めたように右手を差し出した。

「そうね、同士がいるっていうのも…ありかも、ね。」

「せやね。」




































******
***


そんな感じで、私と侑士の出会いは終わる。
その後は、ご想像のとおりだと思う。
私達はすぐに打ち解けて、仲良くなって。
この屋上でいつも待ち合わせる。

同じものを共有する私達は、誰よりも絆が強いかに思われた。


そ、あの時までは。


まだ私は本当に“ただ”の同姓愛好者だった。
このままだったほうがまだ性質が悪くない(苦笑)





?」

名前を呼ばれて、は、と、現実世界に引き戻される。
視線を横に向けると、侑士が私のことを見つめていた。

「何考えてたん?」

「ちょっと昔をね。」

「へぇ、もしや出会った頃のことを思い出してたん?」

「ま、ね。」

思いに馳せる私を横目で見ながら、侑士は目を細める。
どこか遠くに想いを馳せる私を見る黒曜石は、一層色を深める。


角張った、男らしい指がゆっくりと伸ばされたことに私は気が付かない。





























「(ちゅ)」

「っ!」

頬に触れる程度のキスをされて、思わず表情が固まった。
頬に手の平を当てて侑士を見ると、案の定にっこりと笑ってる侑士がいた。

「酷いわ、本物がおるのにないがしろにするなんて。」

「…………ごめん。」

「ええねんけどvv」

「(だったらなんでこんな嫌がらせを…、汗)もう時間だわね。」

確かに、折角の短い昼休みなのにないがしろにしてしまった事には反省した。
だけど、思い出しちゃったんだもの。
…………………………ふー、(何を思い出してる?)

よっこらせ、と、私は立ち上がってスカートの汚れをはらった。
ぱたぱたとスカートがなびく。それなのに侑士はまだ座ったまま。

「侑士、遅れるよ。」

言っても、全然聞き耳を持たずにただただ微笑んで私を見てる。

例え同類だといっても、こういうところはぜんぜん違う。
侑士は時折何を考えているのか分からない。
こんな時は放っておくに限るのだ。

「(溜息)先行くからね。」

そう言って、あっさり侑士に背中を見せた。




風がなびく。
黒髪を揺らす。

ふわりとした、口元に微笑を称えて。
腕をのばして、私の腕を引いた。
私はその力に抵抗する暇もなく引き寄せられて。


今度は





侑士のソレが私の唇に触れた。
柔らかな温かい感触が離れても残る。


「………………。」

「あかんなァ、忘れもんやvv」

「……………………喰えない奴。」

少し頬を赤らめて言ったら、侑士はそれはそれは







鮮やかに微笑んで見せる。



































そ。

私達の関係。

最初は同類、その後は友達。

そうしてその後は






























「彼氏ないがしろにするなんてバチあたりやでー?」

「以後気をつけるってば。」

「えぇ心がけやな。」

「てゆか、さっさと跡部落としなよね。」

「うわ、きつ。」

「私も鈴子ちゃん狙ってるんだー。」

「………誰、それ。」




お互いにお互いのセックス相手のことを平気で話すくせに。


お互いにお互いの身体を求めて暖めあう。

































































私達は、恋人同士の関係。



































++++++
てなわけで、またおかしな感じのストーリーです。
まぁたやっちゃったよ、この子。
と、思いつつも最後まで付き合って下さるというそこの貴女!!!!
ぱちぱちぱち(拍手?)

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