チェシャ猫の言うとおりに歩いて行ったら、茂みの向こうに人が立っているのが見えた。
名前を聞いたら「マッドハッタ―」だと、にっこり笑って彼は言った。
「何しに来たの?」
私をお誕生日席に座らせて、マッドハッタ―はお茶を入れる。
けれど、カップの底はないからぼたぼたとお茶はこぼれて私の服を濡らした。
「これじゃ、お茶が飲めないわ。ていうか、私お誕生日じゃないんだけど、今日。」
「それじゃぁ今日を誕生日にすれば良い。」
言っている事が意味不明だ。
「僕はお茶会をする時には「記念日」と称してお茶会を開くんだ。だからでたらめでもなんでも良いんだよ。」
「でも、記念日は誰かの大切な日だからこそ記念日なんだわ!」
「それでは今日はアリスが初めて僕のお茶会に参加した記念日にしよう。」
やっぱり、ここの住人はいかれてるらしい。
半分に割れたカップにお茶を入れて、なんでもない様子でお茶を、飲む。
おかしなお茶会だ。
お茶といってもおかしな味はするし、椅子は動くし、カップは割れてるし、お茶会は心安らぐ為に開かれるものなのに全然落ちつけやしない。
それに、、マッドハッタ―と私以外人はいない。
三月ウサギと眠り鼠は一体どこに行ったのだろうか。
私が訪れなかったらきっと彼一人だったはず。
それを尋ねたら――――――
「だって君がお客でしょ?」
と、言われた。
・・・・・・・・・・・・・・ここの住人にはちゃんと言いたい事が伝わらないらしい。
「その時計、もしかして白兎の?」
「違うよ、これはお茶の時間をはかるモノ。美味しいお茶を入れるためには時間をちゃんとはからなきゃ。」
結構凝ってるんだ。と、思ったけれど・・・・・
「でもこの時計自体がいかれてるから意味はあまりないんだけどね。」
あはは。と、マッドハッタ―は爽やかに笑う。
あんまりにもむかついたから、私は席を立った。
こんな所にいつまでもいたらおかしくなりそう。
去ってゆく私を見て、マッドハッタ―は楽しそうに目を細めて、教えてくれた。
「ねぇ、アリス。マッドハッタ―の意味、教えてあげようか?」
少しだけ振り向いたら、薄く開かれた茶色の瞳はまるで何かを誘うように、揺れた。
「教えてあげる。『いかれ帽子屋』だよ、ふふふ。」
全く、ぴったりな名前だ事!!!
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